疾走する少女

 時同じくして。


「はっ……はっ……はっ……」


 走る。疾る。ひたすらに少女は走り続ける。

 『エルギア』の城下町は既にパニックに呑み込まれていた。人が暴れ、魔族が暴れ、普段の賑やかさとは似ても似つかない惨状がそこにある。

 その光景を横目で収めながら、ステラは裏道を進んでいった。人目に付かないためではなく、とある探し物を見つける為に。

 自警団が必死になって騒ぎを沈静しようと奮闘しているが、逆効果だと言わんばかりに、その苛烈さは増している気がする。せいぜい怪我人の数が十から八になった程度だろう。


「……何処にあるんだろ」


 城下町の何処かにあるという探し物。だが、その範囲は人一人が探して見つけるにはあまりにも広過ぎる。それでも見つけないと、この国が終わってしまう。とにかく見つかることを祈るだけだ。

 路地裏の影を縫うように、表通りから再びの路地裏に移動。

 屋根の上でも登れたら楽なのだが、それで余計に騒ぎが大きくなるのはもっと困る。地道にやっていくしかない。幸いにも、探し物を見つけるのは比較的に得意な方だ。


「駄目だ……見つからない……」


 探し始めて二時間ほど経った頃。ステラはとうとう悲鳴を上げた。

 路地裏の壁にもたれかかり、そのままずるずると座り込む。少し休憩しよう。

 不意に、遠くから誰かの声が聞こえる。人間か、魔族か、その判断はできなかったが、泣いているように聞こえた。


「よし……もう一踏ん張り」


 浅い深呼吸を数回ほど繰り返した後に、ステラは自分に言い聞かせるつもりで口にする。中心部は一通り探し終わった。なら次は、端の方を探してみよう。手掛かりは皆無。もっと言えば、その形状も聞き忘れたという失態。だが、そんなステラに師匠のルアードは、おまえなら見つけられる、と言ってくれた。

 期待に応えたい。

 痛いほどに胸の鼓動が強くなっていく。自分の肩に『エルギア』の運命がかかっている。その重圧が、ズシンとステラにのしかかった。

 まだ数日の時間しか重ねてはいないが、それでもステラはこの場所が好きだ。

 だから、護りたい。この『エルギア』を。

 大丈夫。絶対に見つかるはずだ。見つけさえすれば、後は自分の師匠が全部解決してくれる。どちらにせよ、ここで立ち止まっているのだけは駄目だ。簡単に諦めてしまうのは似合わない。


 ――再び少女は疾った。


 背後も振り返らず、聞こえてくる声を胸の奥底に刻み込んで、ただ前だけを見据えて疾る。

 酸欠で頭が痛くなった。足がもつれ、転倒しそうになる。乳酸の蓄積で足が重い。

 それでも、ステラは止まらない。


「待っててください……師匠……」


 ふらつきながらもステラは『エルギア』の街を駆け抜けていった。

 『賢者』の杖を求めて、ひたすらに、真っ直ぐに。

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