終章

それからとこれから

 事の顛末を簡潔に語れば、事件は大事なく収まった。

 『エルギア』魔族自爆テロ事件。

 多くの被害者が生まれ、あわや国家転覆の危機にまで発展したこの事件は、その規模の大きさや被害状況から、秘密裏に処理することは不可能と判断された。とはいえ、事件の全容を包み隠さずに公開できるかと問われたら、それはそれで問題が起きてしまう。

 その為、いくつかの捏造と偽装工作の末に、『剣聖』カインツ・アルマークの英雄的活躍によって事件は無事に解決された、ということで公表されたのだった。

 人間と魔族の共存社会に対する反勢力が起こした暴動を、今は亡き戦友、『賢者』の忘れ形見を使って対処したこと。その結果、『剣聖』が魔族たちの自爆テロを防いだこと。主犯格の人物はその危険性から、名前を含めた全ての情報を公開できないこと。

 実に都合のいい脚本だと、後日改めて話を訊いたルアードはしみじみとそう思った。

 事件の犯人がモーリス・フェイカーだったと知っているのが、ルアードと事後報告で詳細を訊いたカインツと国王だけだったのも幸いしたのだろう。事件の主犯の名前や使用された魔術などの肝心なところはさりげなくぼかし、『剣聖』の活躍を過剰なまでに美化して強調することで、市民を欺いたのだ。

 問題だった魔族殺しの結界を住民たちに秘匿にしていたことだが、『剣聖』の人柄も相まって大きな反発には繋がらなかったのは不幸中の幸いだったと言える。カインツ自らの口から、謝罪と秘匿の理由を世間に話したことも大きかったようだ。ちなみに、この時の話も大半が捏造である。

 そして、対魔族用広域結界魔術――《賢者の塔》は、後日『剣聖』自らの手で完全に破壊され、二度と起動することはないと世間に発表された。

 こうして、事件は無事に解決となった。

 無論、全てのわだかまりが無くなったわけではない。

 事件が解決して暫くは、明確な差別や魔族を追い出す運動などが小規模ではあるが行われたりもした。だが、それらも自警団をはじめとした人間たちの魔族保護の活動や、魔族たちが自ら城下町の復興作業に精を出す様子から、一ヶ月も経てばあっさりと沈静化したらしい。

 ともあれ、『エルギア』は一部の復興作業中の区画を除けば、いつも通りの街並みと平穏を取り戻しつつあった。


 そして――

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