赤い月
月の綺麗な夜だった。
雲が少なく、月の光と星が空を照らす夜だ。
そんな夜の世界に、無粋な赤が混じっている。
空の下を染めるのは、ゆらゆらと一面を揺らめく赤い炎。誰にも例外なく、等しく死を与える炎が大地を燃やしている。
そこは地獄だった。
見渡す限りの、死。骸の大地がそこにはあった。腐臭が鼻を刺激し、肌の焼ける感覚に気持ち悪さを感じ、誰かの助けを求める声が慟哭する。
その光景を、一つの影が他人事のように見下ろしていた。
逆巻く炎が人を焼き、崩れる瓦礫が魔族を押し潰す様子を見ながら、おまえたちの勝ちだ、と影はどこか満足そうに背後にいる少年に言う。その唇から血が流れ落ちていた。
ふざけるな、と少年が影に向かって叫ぶ。少年の手には一振りの剣が握られていた。
約束を果たそう、と影が告げる。その瞳が濡れていた。深紅の瞳が涙で濡れている。
ふざけるな、と再び少年が叫ぶ。少年の瞳も影と同じように涙で濡れている。
これでようやくすべてが終わる、と影は嬉しそうに――笑った。
悪夢のような光景を眺めている。
最良で最悪の結末を眺めている。
その結末を――長きに渡って続いた『聖戦』の最期を、ルアード・アルバは見届けていた。
一つの希望。それに縋り、頼り、信念を貫いた。その結末がこれだ。
笑うしかない。偽善を貫き、幾多の屍を弔って、その手でいくつもの命を奪った――その結末がこれなのだと、諦めて、嗤うしかない。
すべては過ぎ去った過去の筈なのに、あの月明かりと大地を燃やす揺らめく赤い炎を忘れることができない。
まるで、それがおまえの贖罪だと言われているようだった。
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