ゴーレムは口を噤む。語りえぬものについては、沈黙せねばならないから。
ここは中欧チェコ、百塔の街プラハ。
災厄により衰退した人々は、奇跡の産物たるゴーレムを使役することで永らえていた。
ゴーレムは「言葉」に忠実だが口をきくことができない。
人と同じ外見で同じように振る舞うが、意志や感情を持ち合わせない。
ある日の夕暮れ、旧市街で暮らす少女は暴走ゴーレムに襲われる。
追い詰められた彼女を救ったのは死んだ兄と瓜二つのゴーレム。
亡き兄の面影を背負うゴーレムと共に、少女は言語と信仰を揺るがす事件に巻き込まれていく。
・ 全39話
・ 1話あたり3000~6000文字
プラハのゴーレム伝説を元にした言語にまつわる物語。
フレーム問題や「中国語の部屋」を乗り越え少女がゴーレムと言葉を交わし、やがて世界の秘密へ至ります。
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………登場人物………
・ ヘレナ(主人公)
母は既に亡く、兄をモルダウの大洪水で喪っている。
唯一残った父も失踪中。
言葉へ不信を抱き、物言わぬゴーレムに縋る。
・ ヨゼフ
ヘレナの前に現れた兄そっくりのゴーレム。
口こそきけないが、その振る舞いは兄そのもの。
次第にヘレナは心惹かれていく。
・ レーヴ教授(ヘレナの父)
結社『その三文字』に属する高位の導師。
ゴーレムへ刷り込まれる『戒律の書』の記述において大きな成果を残した。
現在失踪中。
・ 白髪の少女、黒い男
ヘレナを襲撃した二人組。
人外の早口言葉でゴーレムを狂わせる少女と、その護衛。
・ ハレマイエル先生
ヘレナの通うクレメンティヌム修道院学校の先生。碩学。
言語学・論理学に造詣が深く、ヘレナへ啓示を与える。
・ ナーナ・バールシェム
ヘレナと同じクレメンティヌム修道院学校に通う少女。
明るく快活なヘレナの友人。
・ マリウス
結社『その三文字』の戦士。
ヘレナを保護し父レーヴとの再会を約束する。
言葉やゴーレムに対し何らかの執着を持っている。
・ ファブリ師匠
ゴーレムを象る陶工。
口数少なく気難しいが、彼の説話はヘレナに啓示を与える。
………キーワード………
・ ゴーレム
百塔の街で使役される泥人形。
意志や感情を持たず、言葉を発することが出来ない。
額に『真理』を意味する三文字が刻まれ、これがかりそめの知性を与える。
胸には『その名(シェム)』と呼ばれる文字列が記され、これが形状を規定している。
人と暮らすには不器用で、『戒律の書』を刷り込まれてようやく人と共存できるようになる。
・ 『戒律の書(セーフェル・ミツヴォート)』
朗誦によってゴーレムへ刷り込まれる長大な書物。
ゴーレムが受け取る言葉の意味を定め、思考を規定する。
・ 『破局』
二度の大戦と地球環境の悪化が引き起こした災厄。
これにより人類は衰退、ゴーレムの力を借りなければ生存すらままならなくなった。
・ 結社『その三文字』
百塔の街を統べる結社。
ゴーレムを生産し運用するのみならず、信仰の統一を成し遂げている。