ゴーレム。泥が象る人の形と愛の形。

どうにかなってしまったらしい世界。人類は、物言わぬ泥の働き手・ゴーレムたちに支えられ細々と生きながらえていた。チェコに暮らす少女ヘレナは、最愛の兄と死別し、鬱々と暮らしていた。しかし、そんな日々は、襲撃者たちにより一変する。

救いに現れた兄とそっくりなゴーレム、失踪した父親、原因不明のゴーレムたちの暴走、謎が謎を呼ぶスリリングなストーリー。そして、ゴーレムの製造を担う結社『その三文字』の抱えた秘密。言葉とは、人間とは、世界とは何か、語り尽くせぬ深遠なテーマ。たくさんの謎と秘密が目まぐるしく展開され、終盤で全てが解き明かされる。

非常に読み易く整理された、でも鳥肌の立つような熱狂のある、素晴らしい構成でした。

ヘレナはゴーレム・ヨゼフに複雑な思いを抱く。自分を守ってくれる、優しい、何より死んだ兄の似姿で、しかし人ではない泥人形。言葉を、心を通わすことなどできるのか、彼女は悩み苦しむ。また、冷たい父親レーヴとの確執も棘となって苛む。『その三文字』の重鎮であり、自分を相手にせず放って、どこかに行ってしまった。自分が追われる理由も父に何か関係があるらしい。彼女のゴーレムと言葉にまつわる冒険は、兄への想いと、父親の真意を追う旅でもあります。

そういえば、チェコが舞台でゴーレムがどうと言われると、カレル・チャペックを連想される方がいるのではないでしょうか。ロボットという語の初出である彼の戯曲では、ロボットとは労働者として作られた人造人間のことです。待遇に耐えかねてなんと反乱を起こし、人類を滅ぼしてしまいます。しかし最後にはとある二人のロボットが愛を獲得したところで幕が引かれました。
傷ついた少女の行き着く果てには、愛はあるのだろうか?

是非とも読んで確かめて欲しい、SFとしてもドラマとしても面白い贅沢な一品です!

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