『言葉』の存在意義を突き詰めた作品です。
言葉を軸に複数の怪しげな集団が暗躍するのですが、其々に未来を思って動いており、単なる勧善懲悪物でない点が大人向けです。
それでいて、もう一つのキーワードである『ゴーレム』の配置が読み易くしています。ゴーレムがファンタジー物としての世界観構築に貢献しており、正確じゃないけど、喩えるならば、『鋼の錬金術士』に近い。
登場人物達もシッカリ宿命なり立場を背負っており、キャラ設定に手抜きが有りません。
白里りこさんがレビューで"哲学"の単語を使ってますが、私も哲学の趣きを感じました。本作品が近づき難いと言う意味じゃないですよ。深遠な雰囲気を漂わせた良い作品です。
物語の中心となるのは、土から生まれ人間の代わりに様々な仕事を行うゴーレムたち。
ゴーレムと聞くとファンタジーのように感じられますが、本作はれっきとしたSF作品。
伝承で語られる設定を上手く取り入れ、そこから本作独自の要素を加えて、この作品ならではのオリジナルのゴーレムを作り出しています。
人間の命令を理解して行動することのできるゴーレムたち。
言葉が通じるということは、彼らに心はあるのか? そもそも心とは何か?
そんな話を「中国人の部屋」などの思考実験を引用しつつ展開していきます。
とはいっても、そこまで小難しい話ばかりではなく、ストーリーはしっかりエンターテイメント。
ある日、暴走したゴーレムに襲われた13歳の少女・ナーナ。そこに現れたのは、死んだ兄と同じ顔をした一体のゴーレム。
しかもこのゴーレムは普通のゴーレムと違い言葉を発することができる。
果たしてこのゴーレムは何者なのか? そしてなぜナーナは襲われたのか?
ゴーレム同士の戦いなどの、アクション要素も散りばめながら物語は進んでいき、徐々に真相が明かされていくストーリーは読んでいてたまりません!
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)
壮大で重厚な物語ですが、十三歳の少女の瞳を通して語られているため読みやすく、すぐにこの世界の虜となりました。
一話ごとの余韻が凄まじいです。
琴線にふれる言葉もふんだんに詰まっていて、ページをめくるたび、心が満たされていくのを感じました。
短い一言でサラリと確信を突いたり、同じ言葉がまったく違う味わいを持って再登場したり、たった一文で物語の手触りをガラリと変えたりと、鮮やかな筆致に終始魅了されました。
張りめぐらされた謎が解き明かされていく終盤はただただ圧倒されるばかりで、鳥肌と涙が止まりませんでした。
登場する人物たちもすごく魅力的で、私はマリウスさんに強く心を奪われました。彼の生き様も、彼が語る言葉も、ひとつたりとも忘れたくないほど大好きです。
SF初心者故レビューを書く勇気がなかったのですが、最後まで読み終えた今、この感動をちゃんと自分の言葉で伝えたいし、届いて欲しいと思い直しました。
自分の言葉で伝えること、相手の言葉を感じること、言葉の可能性を信じること、すべてを諦めずに大切にするべきだと、この物語が教えてくれました。
この超大作を書き上げた作者様は一体何者なんでしょう。言葉の伝道師とお呼びしてもいいですか……!!
少女ヘレナの前に現れた『ゴーレム』は、死んだ兄そのものの形をしている――。
チェコの首都プラハから始まるそんな物語は、どこかファンタジーな光景が脳裏に浮かびます。
私達の操る『言葉』とは?
そして『人』が造り上げた『ゴーレム』が『言葉』を発さない意味とは?
ヘレナが持つ疑問と謎を追いながら、物語に惹き込まれていきました。
気付けば、最終話まで一気読みしていました。
全ての設定に意味があり、読んでいてふと浮かぶ違和感も、後々きちんと説明されます。
丁寧に敷きつめられた伏線が回収される心地よさは、是非味わってほしいです。
あとお風呂シーンもあります
どうにかなってしまったらしい世界。人類は、物言わぬ泥の働き手・ゴーレムたちに支えられ細々と生きながらえていた。チェコに暮らす少女ヘレナは、最愛の兄と死別し、鬱々と暮らしていた。しかし、そんな日々は、襲撃者たちにより一変する。
救いに現れた兄とそっくりなゴーレム、失踪した父親、原因不明のゴーレムたちの暴走、謎が謎を呼ぶスリリングなストーリー。そして、ゴーレムの製造を担う結社『その三文字』の抱えた秘密。言葉とは、人間とは、世界とは何か、語り尽くせぬ深遠なテーマ。たくさんの謎と秘密が目まぐるしく展開され、終盤で全てが解き明かされる。
非常に読み易く整理された、でも鳥肌の立つような熱狂のある、素晴らしい構成でした。
ヘレナはゴーレム・ヨゼフに複雑な思いを抱く。自分を守ってくれる、優しい、何より死んだ兄の似姿で、しかし人ではない泥人形。言葉を、心を通わすことなどできるのか、彼女は悩み苦しむ。また、冷たい父親レーヴとの確執も棘となって苛む。『その三文字』の重鎮であり、自分を相手にせず放って、どこかに行ってしまった。自分が追われる理由も父に何か関係があるらしい。彼女のゴーレムと言葉にまつわる冒険は、兄への想いと、父親の真意を追う旅でもあります。
そういえば、チェコが舞台でゴーレムがどうと言われると、カレル・チャペックを連想される方がいるのではないでしょうか。ロボットという語の初出である彼の戯曲では、ロボットとは労働者として作られた人造人間のことです。待遇に耐えかねてなんと反乱を起こし、人類を滅ぼしてしまいます。しかし最後にはとある二人のロボットが愛を獲得したところで幕が引かれました。
傷ついた少女の行き着く果てには、愛はあるのだろうか?
是非とも読んで確かめて欲しい、SFとしてもドラマとしても面白い贅沢な一品です!
5-4まで拝読させていただきました。正直SFは難解なイメージがあり、苦手意識があったのですが、このご作品はSF初心者でも入りやすい設定で世界観だと思います。ゴーレムという人型の存在なくては人類が生きられない世界。そこで少女は今は亡き兄とそっくりなゴーレムと相対し、普通のゴーレムではありえない挙動に一喜一憂します。少女がゴーレムの成り立ちについて深くを知ったとき、こちらは思わず感動を覚えてしまいました。……私達の世界でのロボットも、遥か未来でこんな風に躍動するのでしょうか。実に感慨深いご作品でした。SFが苦手な方もぜひご覧になってみてください。
「薔薇の名前」を少し想起させる、マニエリスティックな世界観があります。構築された世界観が渋く、舞台がチェコで設定もファンタジック。そのためSFとしては珍しく、しっとりした手触りの作品です。
とはいえ短文中心の表現を本作では採用しているため、読みづらさは皆無です。
亡き兄をゴーレムに投影する主人公は哀れですが、土塊に過ぎないゴーレムが徐々にその限界を超えていく描写が続き、次第に物語に引き込まれます。
暴走するゴーレムに禁忌を破るゴーレム――。ゴーレムを巡る思索的な謎が徐々に深まっていきますが、最後「第九話」の数エピソードで、すべての謎と鍵がほぐれるように語られるのは、ミステリ的で快感でした。
中世の景観を留め、モルダウの流れを望むチェコの首都プラハ。
『破局』により激減した人口と、その労働力を補うゴーレム。
ファンタジックな舞台設定がどこか詩的な文体で語られるが、
読み始めてすぐに「そうだった」と思い出した。
そうだった。
この作品はSFだ。
作中のゴーレムとは、身体性を持つ人工知能であり、
『言葉』による入力を受けて命令を理解・実行し、
身体を動かして労働するという出力を為す。
一定の自律性を有し、人を模した動作を課されている。
物語の冒頭で、ゴーレムの暴走の様子が語られる。
人の使う言葉は定量性に欠け、ゴーレムの頭脳に負荷を掛ける。
命令であるその言葉が規定すべきフレームがあまりに曖昧で
解釈に矛盾が生ずれば「フレーム問題」がゴーレムを暴走させる。
アイザック・アシモフのロボットSFを、私は真っ先に想起した。
ロボット三原則という本能に忠実なロボットたちの振る舞いは、
自己犠牲を厭わぬ優しさを備えているかのように、人の目に映る。
本作のゴーレムも、ひどく忠実で純粋で、時として優しすぎる。
私の知人に「人工知能を備えたソフトロボット」の研究者がいる。
彼の専門は遺伝的アルゴリズムを用いたシミュレーションだが、
人工生命が自然界のモデルと同じように進化するケースは、
素人が予想する以上にまれであるらしい。
例えば、水中で前進する機能を持つ人工生命を造るとする。
魚かウミヘビかヤゴか、人はそういった形への進化を予測するが、
シミュレーションで最も評価が高かった個体は予測を裏切り、
ジャイロ回転しながら進む円筒状の異形の代物だった。
そういったソフトロボットの進化論の話を、
ゴーレムの体と言葉の関係性への言及を読みながら思い出した。
労働という出力を為すために、体と言葉は直結している。
体が欠損すれば、実行すべき命令は宙に浮き、暴走に繋がる。
『中国語の手紙』というテーマは「言葉への理解の意味」を問う。
事象が先に存在し、言葉がそれを定義するのか。
言葉があるから、それによって事象を定義できるのか。
人は言葉を使い、事象の本質をどこまで正確に理解できるのか。
哲学みたいな、目に見えないものを論ずる学問が、私は苦手だ。
本作では「言葉」についての問答に難解な言葉は使われないが、
内容はやはり雲をつかむようで難しく、反芻しながら読み進めた。
言葉に対する信仰、懐疑、期待と、言葉にならない何らかの思い。
孤独な少女ヘレナの前に現れた、死んだ兄そっくりのゴーレムは、
ゴーレムに禁じられているはずの「発話」を為し、自然に微笑み、
しかしゴーレムでしかあり得ない忠実さで命令を実行する。
彼は何者か、彼を追う『大隊』や『その三文字』の意図は何か。
人にとっての言葉と、人工知能にとっての言葉。
かつて世界を襲った『災厄』の真相、『神の言葉』の正体。
ヘレナを巡る謎、父と兄の秘密、世界が直面する新たな『破局』。
それらすべての謎がほどけていくクライマックスは圧巻だった。
チェコは、「ロボット」という言葉の生まれ故郷である。
カレル・チャペックへの敬愛を本作から感じ取った。
言葉による齟齬が何度生じても、それでも、わかり合いたい。
その葛藤の描かれ方がとても美しいと思った。
甚大な被害をもたらした『破局』の後の世界。
その後人類は衰退の一途をたどっていた。
復興に思うような人材が確保できず、土くれで構成されたゴーレムが労働力になっている。
ゴーレムはともすると暴走を起こす。家族を喪い一人で暮らすヒロインヘレナ。
彼女の窮地を救ってくれたものとは。
錬金術の過程で生み出されたとされるゴーレム。
その動力源、動く理由をファンタジーではなく、数学的証明で解説していく本作。
先生や師匠に提示される説話によって、新たな事実が展開されていくのには唸らされます。
兄によく似たゴーレム。ヨゼフと名付けられた彼との出会いはヘレナにどんな変化をもたらすのか。
豊富なSF知識が活かされたロジカルなSFをどうぞ。
(ちゃんと、巨大戦もあるよ。
チェコ、プラハ。
災厄で人口は激減し、ゴーレムの労働が街を支えている。
暴走ゴーレムに襲われたヘレナを助けたのは、亡兄にそっくりなゴーレムだった。
人は語るが、ゴーレムは口をきかない。
ゴーレムには「言葉」で命令を与えるが、適切に指示しないと、人の意図しない行動を取る。
塔の囚人。ゴーレムは「言葉」に従うが、果たして意味を理解しているのか。
中身はがっつりSFですが。
心の中の思いを完璧に言葉で表現することは難しく、口にした瞬間に嘘になってしまうかもしれない。
自分の発言で誤解を与えたり、傷つけたりするかもしれない。
不完全な言葉でのコミュニケーションを恐れ、沈黙に傾く少女の気持ちは、SF関係なく、共感できます。
それでも、少しでも思いを伝えるためには、語らねばならない。
人は、言葉を持っているのだから。
この作品は、京極夏彦にとってのルー・ガルーであり、宮崎駿にとってのナウシカであり、押井守にとってのケルベロスであります。
この筆者は今後、より洗練された作品を書いていくことでしょう。
そしてきっと、筆者の多くの作品には今回の「語りし者はさいわいなり」が根幹として必ずある筈です。
それ程に、この作品には著者の興味、知識、思想が詰め込まれています。もはや表出された著者自身であると言えるでしょう。
このような”著者の内面が見える”作品に出合った時、人は心震わせるものです。
他者のフェティシズムを垣間見る事は途方もない誘惑と逸楽に満ちています。誘惑と逸楽に満たされたこの作品、是非一度最後まで読んでみる事をおススメします!
古典SFが好きな人は最後まで読むとニヤリとする仕掛けも用意されていますよ。