愛について書かれた大作恋愛小説です。
「いや、恋愛小説なんだから当たり前じゃない?」
まあそうなんですが、でも一言にするとそうとしか言えません。本作はマジです。恋をした女の子がいて、恋をした男の子も出てきます。当然このジャンルの常套手段として、恋する人々の間には何かしらの障害が立ちはだかるわけですが本作のは世界最大級、もうねエレベスト。ネタバレしたくないので抽象的に言いますが、それは「終わり」です。もうこの先はない、エンドマーク。
つまり世界で一番燃える恋ですよ!
この物語の主人公、織崎紬実はやや内向的ですがどこにでもいる普通の女の子。高校でかなりしんどい目に遭い追い詰められますが、とある男の子に救われ恋をする。感動しましたがやや典型的。しかし、「終わり」に直面してそこから物語を逸脱し、真に自分の恋愛を始めます。悲しく苦しい場面も多いですが、彼女は決してめげずに一歩ずつ前に進んでいきます。その道のりに魔法や幻想的なことは起きません。何せ彼女は成長しても普通の大学生。内に抱えた凄まじい炎だけが煌々と行き先を照らし、しかし全ては極めて現実的に進んでいきます。文章も直接的で、「終わり」なんてとぼけた表現も無く、行動と心情が語られていくだけ。でも主人公が他のたくさんの登場人物を動かし、各人のドラマに波及していく、その大きなうねりは圧巻。そしてそれらが全て彼女の愛の為に収束し、「終わり」の先にある、奇跡のような一時、一瞬を見せる。現代社会を舞台に、社会的なテーマを扱いながら「愛に形があるのなら、これかもしれない」と思わせてくれる、稀有の体験をさせてもらいました。
本作について、語るべきことがもう一つ。主人公が恋をする男の子、飯田希和についてです。約46万字は全て彼に捧げられたものと言っても過言ではありません。作者様は彼や彼と世界を同じくする人々に関する物語を他にも書かれていて一種のサーガを形成しているのですが、本作はそれらを読まなくても十分楽しめます。ただ、本作はその集大成です。一人の人間の数年間の時間と努力を費やした一大事業には、そんじょそこらの物語にはない重みと輝きが籠るもの。本作の連載を追う日々は、飯田希和という一人の少年の、強くはないけど、あまりにも大きな存在感を追いかける時間でもありました。「この人のことを知りたい」、それは小説を読む時の原動力の一つですが、そのまま本作の魅力の一つでもあります。詳しく書くと損なってしまうので口惜しいですが、読んでいただければこの意味わかると思います。そして、それがわかった方にはぜひ作者様の他の作品も読んで欲しいです。
すいません、ぼかしてばかりで。でも気になったら本作を読んで答え合わせしてください。
「終わり」とは何か、愛はどんな形をしているのか、飯田希和はどんな人なのか。読み終えた時、きっと素晴らしい気持ちになれるはずです。