好機 好機 好機
「おい! あいつ無茶苦茶してきやがるぞ!」
『さっきまでの威勢はどこいったんですか』
「悪い。舐めてた」
直線に移動してくる穢鬼の接近であれば対処に困ることは無かった。
しっかりと反応することができて、反撃もできるくらいには差があまりないと思っていたのに。
鞭のようにしならせた腕の対処がこんなにも難しいとは。
危ないと思ってテレポートをすることはできるが、それが限界。一歩間違えればそれすらも間に合わなくなってしまいそうなくらいにはギリギリであった。
何が隙をついて反撃をしようだ。何が斬って殴ってダメージを与えようだ。
「無理じゃねぇか」
「いやあなたがやるって言ったんですけど?」
「代わってくれ」
「無理ですけど」
このまま時間をかければいつかは穢鬼がエネルギー切れを起こすことになるのは間違いがない。
しかし。それがあと十分なのか一時間なのか一日なのか、それとも一週間かかるのかは不明。
ゲゲの目算ではこのままであれば最低でも一日はかかるであろうとのこと。
ダメージを与えていたからこその穢れの消費であったのだ。ダメージが無ければそれくらいはかかるということらしい。
一日くらいだったら逃げてもいいのでは? という問いにはNOと答えることになる。
あくまでもヒメと戦闘状態にあるからこその計算であり、仮に穢鬼が自由に動けるようになってしまえばエネルギーを蓄えながら一層に手が付けられない状態になる。
言ってしまえばガス欠状態である今だからこそ成立している戦い。
ピンチではなくチャンスだと捉えるべきなのだ。
ヒメ以外に戦える者はいないのかだが、当然ヒメ以上の実力者なんてゴロゴロといる。
ただ、その者達が穢鬼の元へと到着するまでの時間を考えれば任せるわけにもいかない。
生まれたばかりの穢鬼に接触できた奇跡。接触することになった者が餌になることなく穢鬼と渡り合えている軌跡。
「いや、待てよ」
『悠長に暇を潰す余裕はないと思いますが……』
「うるせぇそういうことじゃないっての。見ろよアレ」
『どこですか?』
「あいつの攻撃してる場所だよ」
『見ろと言われても目で追えない件についての謝罪会見を開かせていただきたく思います』
「だーっもう面倒だなオイ」
ヒメが気付いたのは穢鬼の攻撃速度。一度動き始めてしまった今は入る隙すら皆無に思えてしまう連続攻撃だが、それは先端が音速を越えているからこそ感じる絶望感でしかない。
よく観察すればわかること。外側だけが速く、内側の腕の根元は遅い。
十分ヒメでも対処できる速度であった。
「普通ならばそれに気付いたところでそれがどうしたって話なのだが」
『今のあなたにはテレポートがある、ということですね』
「ご名答」
対処のできない外側を通り抜けるための手段があるじゃないかと。
敵もそれに気付いていて、罠の一つや二つ用意されていない限りは問題ない作戦だ。
「いけるっ」
『ですかね?』
反撃をもらうリスクを心配するゲゲとは反対に乗り気のヒメ。
自分で考えた作戦だもん。そうなるよね、と納得はするゲゲなのである。
「これでも、喰らえっ!」
周囲には薙ぎ倒されていた樹木がそこら中に転がっていた。
丁度良い大きさのソレらを次々に穢鬼へと投げつけるヒメ。
「おい知らないのか? それは喰えねえ」
「てめえは樹液でも吸ってろ」
何度投げてもしなった腕に粉砕されてしまい意味は無いようにも思えるが、勿論これもヒメの作戦。
右へ左へ、そして穢鬼の背後へとテレポートを繰り返しあたかも隙を探しているように思わせる。
「効かないねぇ。意味無いって分からない? まぁ最後の悪足掻きってそんなもんか」
「――だな」
穢鬼の言葉に同意したヒメ。
穢鬼にとって予想外であったのはヒメが同意をしてきたこと。そして、自身の両腕が斬り落とされたこと。
「悪足掻きって、手足をジタバタさせるもんな」
「っ、ぁぁぁぁああ゛あ゛あ゛!!!!」
「癇癪を起した餓鬼みたいだな」
新たに胴から生えてきた腕が迫ってくるものの、それくらいは想定内。
また振り回されて近づけなくなるまえにさっさと斬り落としてしまおうとヒメが動く。
反撃は無い。罠もない。
だったら攻めるのは今しかない。
斬るのをやめない。腕も、足も。胴も頭も斬れるところは滅多斬りにする勢いで。
これが最後だと信じて、この後の体力の心配する人格を無理やり抑え込む。
いける。このままやれる。
後ろへ下がる意識を捨て、多少の反撃を受けても致命傷でなければ問題ないと。
攻めるのをやめるな。斬るのをやめるな。考えないことをやめるな。
『ヒメ様っ、あと少しです!』
ゲゲからの激励に反応する余裕もない。ヒメにできたのはただ攻撃する手を緩めないことだけであった。
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