村の危機を救う者達
穢れに浸食され世界のゴミと化した空間。
穢界化した場所へと侵入すれば誰であっても変化に気付くことになる。
息苦しい。身体が重い。といった身体に影響する形で気が付くこともあれば、直感的に理解することもある。
感じ方は人それぞれであるが、余程に鈍感でなければ何かおかしいと気付くはずであった。
今回はヒメもコウも両者共に穢界化へと侵入したという認識していなかった。
お互いに穢界化を認識していないということは、穢れは関係ないのだろうと。だからこそというか、見積もりが甘めになっていた節がある。
もっとも、今立っている場所がその瞬間に穢界化することを常に頭に入れている人間など普通はいないが。
余所者の中でもそれほどに気を張っていられるのは数えるほどしかいない。しかも完璧に対応できる程の実力者はもっと少なくなる。
「強い。俺よりももっと強い戦士が来てる……」
守護者としての第六感。
信頼していた少年からの一報がなければフォグエットはすぐにでも村へと向かっていただろう。
今日は襲撃の日。
いつもならばいつでも戦えるように待ち構えている時間なのだが、今回はその必要はない。
少し寂しいような。でも、少年が自身の為に動いてくれたことを嬉しく思っていた。
今は少しばかり窮屈な思いを我慢するだけ。そうすればもう少し夢を追い続けられるのだと。
フォグエットは流れ星に願う子供のように祈るのであった。
「村の者だけでも最低限の防衛は可能、ということであったな」
「そうですな。全てを打ち倒すことは無理でも、時間稼ぎくらいのことはできますのでな」
「やるだけのことはするが最悪数匹は逃がすかもしれん。もし近づかれたらすぐに合図を送ってくれ」
人食いの怪物。大柄な身体を持った人に近い姿を持っている魔物。
地域によっては名称が違う、オーガや鬼と呼ばれる魔物が村へと群れを成して迫ってきていた。
毎回やってくるのは不思議と同じ方向からだけであり、そして時期も暦を使えば予想できるもの。
何者かに手引きされているとさえ思える規則性であった。
「一匹残らず贄とさせてもらおうか……!」
必要のないであろうその言葉。
それを自覚していないヒメは数十匹の群れの中へと突っ込んでいく。
自身の腕を足をその首を斬り落とされることなど思いもしない魔物達は、獲物がやってきたぞと嬉々として。
そのゴツゴツとした大きな手に持つこん棒を振り上げ、ヒメへとめがけて走り出していく。
本日は晴天、合戦日和。見晴らしが良く状況が分かりやすい平地での戦。
防壁の中から弓で狙うには少々遠い地点で戦いは始まった。
『ゴオオォォォォ!!』
「まずは一匹」
大きく振りかぶったデカブツの胴体を真っ二つ。
刃の切れ味というより圧倒的なパワーをもって両断したように見える。
これが神具を身に着けたヒメの力。
いかに彼女が腕の良い剣士だとしても神具が無ければ不可能な芸当。
正確には。一度や二度ならば可能であっても大量の肉塊を同じように繰り返し両断するのは不可能。
さて、人の域を越えた人間のことを力の無い人間はなんと思うか。
「あ、ありゃあ文字通り鬼嫁だて……」
呆ける村人のことなど知りもしないヒメは。
腕を。そして足を。首をそして腹を。
勇ましい雄たけびかそれとも恐怖からの悲鳴か。
どいつもこいつも似たような断末魔だなうるせえな。とか思うこともなくなった今、ヒメは一匹を仕留めた余韻など置き去りに次々に魔物を屠っていく。
青々とした若草が広がる大地へと降り注ぐのは血飛沫。
「噂には聞いていたがこれほどまでとは……!」
「並みの感想、だな」
「レ、レベルが違う……凄いな」
起こっている事実にモブおじABCが
距離のせいで迫力には欠けるが、夢でも妄想でもなく現実に繰り広げられている光景を目の当たりにしているのだ。
もし自分が、と想像した者も少なくないだろう。
それが敵対したことを想定しあんな風に斬られたらと恐怖したのか。ヒメのようになれたらと羨望で脳内を埋め尽くしたのかは人それぞれだが。
嬉々として見守る者がいて。鬼気に震える者がいて。
絶えず。ヒメは変わらず自身の仕事をこなすだけである。
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