果たして、行く先に光は在るのか

 それは余所者だけに与えられた言わば神に選ばれた者だけが身に着けることを許される装備。ヒメを護るそれは赤が多く彩られ髪と瞳に合わせているように思える。


 ヒメが神より授かった武具の名は卑鎧ひがい

 なんとした意味を込められた名であるのかなど理解に及ばないが、良い意味を持っていることはないことは察せられる。


「それを身に着けるのも久しぶりですね」


「今まで適当で済ませてきたからな」


 余所者には基本的に与えられているそれらを、敬愛している者達は神具しんぐと呼び。唾棄だきする者達は呪縛具じゅばくぐだとか呼んでいる。正式名称のようなものはなく好き勝手に呼んでいた。


 本来は普段から身に着けるべき装備であるのだが、動きにくいという理由で剣以外はヒメは外したままにしている。

 全てを身に着けることで発揮されるバフのような概念があることを共通して認識しているはずなのだが、ヒメにとっては別に重要な事ではないらしい。


 素の身体能力が長けている奴は余裕があっていいよな! なんて蒼から羨望の声が聞こえてくる。


 ここで豆知識。

 普通、身体を鍛えればどうなるのか。筋肉がつくなり、持久力がつくなりといった変化が起こるはずだ。


 しかし、余所者は違う。いくら身体を鍛えても見た目が変わることはない。

 その代わりに神具を身につけた時のバフの効果が変化する、という形で成果が現れてくる。


 だから蒼は神具を身につけなければそこらの暴漢に好き勝手される貧弱な身体のまま。しかし、神具を身に着けさえすれば立場は逆転する。

 それほどまでに神具の有無は大きな変化をもたらすものなのだ。


 豆知識終了。


「何を企んでいるのかそろそろ教えてもらっても?」


「森の奥にいる魔物をなんとかする。多分、原因はそこにある」


「……どうしてそんなことを知っているのか分かりませんが、方法は?」


「子供に救ってくれと頼まれた。やり方は知らん」


「見切り発車は上等ですが。それ、確証もないのに約束しちゃったんですか」


「悪いか」


「結果次第では期待を裏切ることになる可能性を考えれば、そうなりますね」


 コウの批判を聞きピタッと動きが止まることになる。

 自身の思いと判断の甘さを自覚したから。


 しかし、だからといってやめてしまおうとは思わない。


「まぁ、ヒメ様がそう判断したってことは私でも同じ判断をしたと思いますよ」


 ちゃっかりと。付き従う者として背中を押すことを疎かにしない男。

 静止していた時間は数秒。やってやるんだと感情を高ぶらせていくヒメなのであった。


 ……と、やる気を出して準備を終えたものの今日できることはあまりない。

 作戦では明日その未知の魔物に助けてくれる人が来たことを少年が伝えに行き、明後日の防衛戦の直後に行動開始をすることになっている。


 ヒメの予想だと村から教えられた原因の調査をしたところで進展はしない。

 しかし、お金がもらえるのならばやらない理由はない。調査などは適当にやっていればいいのだ。


 村側の作戦では防衛戦に毎回現れる森の魔物を親玉だと語り一緒に討伐してもらおうということなのだろうが、そうさせない一手を打っておけばなんとかなるだろうとヒメは考えていた。


「防衛はできて、森に棲む魔物に怯えなくても済むようになる。終着点を考えると思惑通りで変わらないような気がしますけどね」


「こっちの知らないところで何かが起こっているよりかはよっぽどマシだろ」


「悔やむのは依頼の料金をぼったくられたことくらいですか」


「帰るときにチクチク言ってやればいいさ。今度からは後回しになるけど問題ないよな? ってさ」


「何もなければ文字通り優先順位は下げ、仮に言い訳はあったとしても金さえ払ってくれれば見逃す。ってことですね」


「さて、方針も決まったことだし本番までは適当に時間を潰すか」


 遠く。青空の広がるその先で。

 この先に起きる困難を示すかのように暗雲が顔を覗かせていることに気付くことはなく。


 不確定要素はあるものの十分にカバーできる範囲だと高を括ったヒメに訪れるのはどんな結末なのか。


 今はまだ。鏡に反射したそこにある顔を見ることしかできない。

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