いつかの戦士は消されたのか
少年から詳しい話を聞き終わった少し後のこと。
暇だとベッドで横になっていたヒメへとドア越しに声がかかる。
ある程度の打ち合わせが終わったから取り合えず村の周りを見てくるらしく、護衛に付いてきてほしいとのこと。
「一人で出歩けないなんて。まだまだおこちゃまだな」
「はいはい、お待たせしてしまってすいませんでしたね~」
「一度、戻って準備を整える」
「……どうしたんですか? 急にやる気になっちゃって」
「恋、ってやつかな」
「ぶん殴っていいですか?」
「いいぞ。殴り返されても文句ないならな」
「どうせ村の外に出ますし寄っていきましょう。喜んで」
警戒の目に囲まれたまま二人は歩く。
一つの行動に逐一口を挟まれることはないらしい。
不都合な動きをされたら何かしらの邪魔をしてくるのであろうが、彼らの思惑通りに動いていれば問題は無いということだ。
少年に言われた森の奥へと様子見をしに行くというのは難しいだろうとヒメは結論付ける。
行動を起こすのならば二日後に来る襲撃の時。
「珍しく何か考えてるみたいですね?」
「しょうがないから後で話してやるよ」
確かに。言われてみれば化け物が棲むという森の方向への警戒が強いことが分かる。
調査だと理由を告げれば森への侵入ができるのかどうかも確かめてみたいところだが、まずは装備を整えるのが先。
討伐が目的ではないとはいえ未知の魔物が相手だ。
少年の話からも戦うことになれば一筋縄ではいかないことが分かっている。やり過ぎというくらいに準備しておいた方が良いという判断であった。
「なぁ、聞いてもいいか?」
「おう、どうした。なんでも聞いてくれよ」
ヒメが道すがらに話しかけたのは防衛設備の修復をしている男。
ガタイの良さからは力仕事に慣れていることが窺える。
「いっちゃん初めにこの柵とか防壁を作ったのって、誰なんだ?」
「最初に作った奴? 変な事を知りたいんだな」
「それに村中の人間が武器とか構えてただろ? 最低限の訓練を受けてるみたいだしさ。指導者がいるんじゃないかって思ったんだよ」
「こんだけ襲われてたら嫌でもそうなってくるよ」
「今はそうかもだけどさ、誰かはいただろ。自警団の腕利きなり衛兵なり」
「覚えがねぇな。少なくとも俺が生まれた時にはこんなんだったぜ?」
「……そもそも、魔物の襲撃ってのはいつから続いてるんだ?」
「知らねえよそんなの。親父が子供の時から変わってねえんだろうし、下手したら百年とか続いてるんじゃねえの?」
知らない。記録はない。昔からそうだった。
誰に聞いてもそういった返事ばかりであった。
訓練を先導している者。村一番の年長者。過去の資料。
意図的に消されているとしか思えないほど綺麗さっぱりで情報が出てこないのは何故か。
年月と共に忘れられたという可能性も勿論ある。
逆にその可能性が高いと考えるのが普通であるのだがヒメはそれをおかしいと考えていた。
「別にそんなもんか、で終わるような感じじゃないですか?」
「だよな」
「なんだ。そこは認めてるんですね」
「まぁただの勘だからな」
根拠を説明しろと言われても困ってしまうくらいには曖昧なものがいつまでも。
胸の中でぐじゅぐじゅになったまま、不快感だけをヒメへともたらしているのであった。
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