英雄か、それとも化け物か
曰く。
化け物は化け物ではない。英雄殺しの悪になるのはこちら側である、と。
「何度も僕は助けられてるんだ。僕だけじゃなくって、皆そうなんだよ」
森の奥の方。湖の近くにある小屋に棲んでいる化け物がいるのだと少年は語る。
人と同じように武器を持ちそして人と同じように鎧を着ているらしい。
昔、森で迷子になって獣に襲われているところを助けられたのが最初の出会い。
言葉は理解できないものの、意思の疎通はある程度ならばできるようになっているんだと。
「大人に話したらそいつが化け物の親玉だって言い出して、やっつけるようにってお姉さんたちを呼んだんだ」
「ん? さっきの話じゃそんなこと言ってなかったような……?」
「お金が節約できるんだって言ってた。大変になるとお金もいっぱい要るんでしょ??」
「……ん、あ~なるほど。調査中心の依頼ってことにすれば確かにそうか。ウチは最初に決めた金額以上には貰わないってのが売りでやってるし」
ちらりと聞いた話では、定期的にやってくる化け物退治の内容自体はそれほど難しいものではなかった。
一般で確認されている魔物の範疇であれば金額としてもそこまで高くはならない。
そこにプラスで調査を依頼したとしても原因を絶つことができれば今後の支出は抑えられることになる。
しかし、未確認の魔物の討伐。それも滅茶苦茶に強いという話になれば化け物退治+調査の依頼金額を軽く超えることになる。
村としてもできるだけ安く事を済ませられるのならばその方が良いという話にまとまったのだろう。
「ただ、誠意が足りないな。生き方としてはその方が上手いっていう意見もあるだろうが……面倒臭ぇ」
人のことを言えるのか? という疑問はあるが。
実直に生きている人間は好感が持てる。だから助けてあげたいと思いたくなるというだけの話。
少年の話を聞いて事実を知ってしまった以上、今後はこの村から依頼があったとしても後回しにされることになるだろう。
あそこは金のために依頼内容を誤魔化すぞと共有されてしまえば、嘘をつくような村の依頼など誰も受けようとはしなくなるのは当然の流れ。
埃被ったまま、最後の最後で適当に手の空いている誰かに話がいくまで待つことになる。
「少年はどうしたい?」
「僕は、あの魔物を助けてあげたい。悪い魔物じゃないし、助けてもらったから僕も助けてあげたいんだ」
「では聞くが少年よ。お前は金は持ってるのか?」
「え?」
「子供のお願いだからとタダ働きをするわけにはいかない。もし少年が私に何かして欲しいのならば正式に依頼を申し込め。そうしたら正式に仕事として受けてやろう」
「……無理だよ。皆がお金を出し合っても足りないかもって言ってたんだ。無理だよ、そんなに持ってないよ!」
断られると思っていなかったのだろう。いや、断ってはいないのだが。
少年にとっては無理な事を言って断ろうとしているように思えたはずだ。
ヒメの言葉に拒絶されたと感じてしまい涙が溢れそうになる。
絶望。もし自分が払えるだけのお金を持っていたら、なんて悔しさも混じっているかもしれない。
声が大きくなったとて所詮は子供。
臆する理由などなくヒメの態度は変わらない。
もっとも、ヒメにとっては断るつもりはそもそも無かったのだが。
少年が勝手に勘違いしてしまっただけ。
「そんなすぐに涙を流すんじゃないっての。今すぐ払えなんて言ってないだろ?」
「っく、ぼ、僕が大人になってからでもいいの?」
「いつになってもいい。少年がじじいになってからでもな。その代わり、払う気が無いって分かったら奴隷商に売りつけるからな?」
「う、うん。わかった。約束する!」
奴隷になるかもしれない、なんて言われれば怖くもなるだろう。
しかし少年は力強く頷く。口先だけの虚言ではないことくらいは読心術を会得していないヒメでも分かってしまう。
「ほら、手を出せ」
「指切りだね!」
いつからか伝わる古の儀式、指切り。
互いの小指同士をひっかけて唱えごとをしていくのであった。
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