あくまでも浄化ってことにしようぜ?


「ズバリ、あのワラワラと湧いてくる子供たちは精霊なのです」


「急に口調が変わったな」


「はぃ~……、ちょ。調子に、乗りましたぁ……」


「いや別にいいんだけどね。気にしてないから」


 驚きの真実ぅ~! えぇ~! となるべき場面ですよ。ヒメさま。


 子供達が実は人ではなく精霊であった、という事実よりもアインの口調の変化の方がヒメにとっては重大な事であったらしい。


「あぁ、情緒不安定なのよね。彼女」


「ひ、酷いですよぉ……」


「事実でしょ」


「はぃ~……」


「デカくなったり小さくなったりで大変だな」


 その度にフードから顔を見せている赤毛が気になったり気にならなかったり。

 ヒメの視線はアインちゃんに釘付けであったのは間違いない。


 この先に待っている自身の仕事の陰鬱さなど、どうでもよくなってくる。


 雨の湿気のせいだろう余計に縮れたアインのクセ毛をストレートにしたいと思ってしまうくらいには、今回の件からは気が逸れてしまっていた。


 愛剣を熱せばそれくらいはできるだろうなぁ、なんて思ったり思わなかったり……。


「……それじゃ私はこの辺で~。さいなら」


「おう。助かった」


「てへ。奢られる準備はいつでもできてるからねぃ~」


 やる気も無いだろうに自身の持ち場へと帰っていく受付嬢。

 流石と言うべきか、いや言うべきなのだろう彼女は空気の読める女(自称)。


 ヒメの態度の変化に気付いたのか、はたまた偶然か。

 自ら席を外していくのはどちらにせよファインプレーであった。


 ヒメ自身は気にもしないが、深く本題に入る時には必ず場を離れるのが彼女の立ち回りなのであった。


 乙女ってば思ってるより繊細なのよ? 特に自分では気にしてませんなんて思ってる子はね。

 これまでの経験の話なのか、適当にそれっぽいことを言っているだけなのか。

 受付嬢のウインクは誰に見られることもなく、この呟きを聞かれることもなく。


「……それで、やり方は?」


「へ? えっと、何のことでしょう……?」


「“消す”方向で考えてたんだろ? 私が呼ばれたってことはさ」


「きょ、拒絶はされないんですね。普通、嫌がると思うんですけど~……」


「それが私の生き方だからな。嫌な奴だろ」


「……否定はできません。でも、誰にでも真似できる生き方でもないと思います」


「ははっ。そりゃ、私みたいな奴ばっかりだったらそれこそ成り立たないって。私は、私みたいな奴は一人で十分なんだよ」


 笑っているヒメが何故か眩しかったのは、気のせいか。

 アインにとってはその瞬間、彼女のことが空から飛んで舞い降りてきた女神に見えていた。


 自分が憧れても掴めないその真っすぐな姿に、胸の奥が熱くなる感覚を覚えてしまう。

 焦がれても追い求めても決して掴めない理想を思い出した気がして、アインは崇拝に近い感情を抱いてしまいかける。


「や、やり方ですよね。子供たちの、つまりは精霊の殺し方ですけど……」


「ちょい待ち。その表現は良くないな」


 熱くなった感情のままに強い言葉を使ってしまったのは、まだまだ未熟である証拠。

 アインは成長途中。まだまだ元気な育ちざかりというわけだ。


「あっ、え? で、ではどうすれば……」


「そうだな。無難に浄化とかでいいんじゃないか? 流石に」


「す、すみません……浅慮でしたぁ……」


 実は思った以上にヤバめな思考の持ち主なのか? なんて疑ってしまうのは仕方がないだろう。


 相手が精霊である以上、精霊使いとしての距離感はヒメには分からない。

 分かりはしないが、言葉の選択くらいはできるだろうと。


 専門家相手に口出しできる立場ではないのは承知で断りを入れることになったヒメ。


 アイン、人の生死にはあまり興味がないのかもしれない。

 心のノートにそっとメモをするのであった。

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