トゥンクの波動レーダー(反応弱)


「じょ、浄化の方法は簡単ですぅ。ずばり未練を断ち切ること、ですぅ」


「それはこの剣で、ってことか?」


「半分正解、です。そ、それだと一時的には姿を維持できなくなりますけどぉ、えっと。しばらくしたら復活しちゃうんですよぉ。それだけでは足りないんですよねぇ」


「未練とやらを解決しなきゃならんということか?」


「そうです。ですが、それだと今回の場合は時間がかかり過ぎちゃいますので。一人一人の願い事を叶えるのは、現実的ではありません~」


 未練となっている何かのせいで精霊として存在しているのがあの子供達であるわけだ。

 その未練を処理することで精霊としての形を保つ想いを薄れさせるのが、正規の手順だとアインは語る。


 しかしそれだと時間がかかり過ぎるため、別案を考える必要があるのだと言う。


 ヒメはボランティア団体の一員ではない。

 誰かの正義に合わせて全ての人を救う絶対的な善を胸に刻んでいるわけでもない。


 もっとも、害が無いのであればヒメとて時間を惜しむことはなかっただろうが。


「じ、時間が経てば雨雲が去っていくように、この異常も勝手に収まっていくのならば良かったのですが~」


穢界化わいかいかしてしまっている以上、それは無理だろうな。逆に言えばそのおかげで解決までの道程が掴みやすくなったとも言える」


「リ、リベルは動きませんかねぇ?」


「動きたくても動けないだろうな。戦力だけで見ればここだけでもそこらの国じゃ相手にならない規模だろ?」


「か、数の暴力という言葉がありましてぇ、流石に国を相手にするのは無理なんじゃ」


「その数をどうにでもできる奴がいるんだよ。ここにはさ」


「はぇ~」


「ま、信じられないのは分かるけどな。実際に見ないと、いや見ても理解はできないな、アレは」


 雨音の強くなるガラス窓の向こう。もう、そこには子供たちの姿は無くヒメはぼんやりとその景色を眺める。


 普段であれば他人の事情に踏み込むことのなかったアインだが。

 場の空気に流されたのか、自らの感情が熱くなった余韻のせいなのか。


 彼女は窓の向こうに何かを見ているヒメに聞いてしまった。


「辛い、ですかぁ?」


「どうだろうな。慣れちまっただけなのか、本当になにも感じていないだけなのか。私には分からない」


 辛そうな顔をしています。とは、言えなかった。

 言ってしまったらヒメがどうなってしまうのか想像できなかったから。


 アインは会ったばかりの誰かを気遣えるような性格ではない。

 そんな彼女が言葉を飲み込んだのは、目の前にいるのは特別な人なのだと気が付いたから。


 世界に選ばれた人であるだとか、特殊な能力を持っているだとかそんな話ではない。


「……これが、未練を断ち切るための道具。お守りになりますぅ」


「これ、どう使うんだ?」


「特に、考える必要はありません。も、持っているだけで効力を発揮する物ですから」


「ふーん。難しく考えなくていいのなら助かるな」


「い、一応、仕組みとか聞いておきますかぁ?」


「いらね」


「あっ、はぃ~」


「あとはこの剣を振るうだけの簡単なお仕事、だろ?」


 持ち主が感情を表に出せない代わりに、というわけなのか。

 静かにその刃は熱を帯びていく。


 しかし、アインではそのことに気が付くことはできなかった。

 

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