え、何食う??
ヒメが部屋を出ると筋肉マッチョメン達から解放された青髪の青年、蒼と目が合う。
ずっと待っていたのか、それとも一人でいじけていたのか……。
呆れていると見せかけた照れ隠しの見逃しインコース。
「軟弱者め」
「うっせ! こちとら腕相撲勝負ならワースト3の実力者だっての」
「開き直ってるのか? それは……」
「暴漢に襲われたらその時は助けてね?」
「ふんっ、軟弱者め」
「二回も言わなくていいじゃん!?」
防音などハイテクな技術なんてない。廊下であればなおのことだ。
陽の光が薄い中よくやるものだと陰鬱さを感じさせない二人の空気感は実のところ大いに役に立っていたりするのだが、二人にとっては知る由もないこと。
雑音が雨音だけでは物足りないと感じる者が多いのは、心に余裕があるからこそなのかその逆なのか。
「で、盗み聞きでもしてたのか?」
「失敬な。俺はそこまで
「そうです。アオ様はただヒメ様のことを恋する乙女の如き顔をして待っていただけです」
「あの、小蔭ちゃん。フォローになってないっす」
にっこにこの笑顔でどこからともなく現れた小蔭ちゃん。
世話役だからという上下関係は無いものの、一緒に仕事をしていく相手に対して遠慮なく物言うのはいかがなものか。
「だーいすきな子が今何をしているのか気になっちゃうのが普通なんです。恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ?」
「腹減ったし、二人でどっか食べに行かない?」
「私のことは無視ですか!?」
気にもしない両者だからこそ成立している関係、ということらしい。
「仕事が終わってからだ」
「いつもの悪いところ出てますよ。日常優先、がモットーでしょ?」
「……はぁ、分かった。じゃあお前も道連れな」
「もとより承知の上だって」
詳しいことは知らない。だって話は何も聞いていないから。
でも、一緒にできることなら一緒にやろうよ。
蒼という人間はそういう真っすぐな奴なのだ。
「え、何食う?」
「パスタ」
「え~? じゃあ俺も~!」
頭の後ろで組んだ手が蒼の嬉々とした声色を後押しする。
そんな彼の姿につい目を伏せてしまうヒメの口元には笑みが顔をのぞかせていた。
「ちょっと~! 私のこと忘れてませんかぁ~!?」
腕をぶんぶんと振り回し自己主張をするその姿は、幼い背格好である彼女のイメージ通りであった。
鼻で笑った時に漏れる空気の音。
耳に届いていたのは声ではない、そんな音。
「は、晴れてきた……?」
一人、ヒメの出ていった部屋の中。
空模様の変化にいち早く気付いたのはアイン。
嫌な予感がする。
それを誰に告げることもなく、そして事態は徐々に変化していく。
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