くろりーたちゃん


 黒髪の少女。子供なのか判別しにくい雰囲気を纏った、しかし姿は明らかに子供。


 いつの間にやら雲間から陽の光が差している今、異様な空気が鼻先をかすめたような気になってしまう。


 ヒメを含めた賑やかしトリオ(?)が彼女を横切ろうとしたその時だった。


「ありがとう」


「ん? なんのことだ?」


 不意に声をかけられつい相手の顔色を窺ってしまう。


 恨みの一つや二つ吐きつけられることはあれど、感謝されることに身に覚えが無ければよく思い返してみても面識は無い。


「遠慮なんてしなくていいの。分からなくても良いから、頷いて」


「あ、あぁ。分からないが、分かった」


「ありがとう」


 不気味な状況であるはずなのに、何故かヒメは不気味であると感じることがなかった。

 それは黒髪の少女に敵意や恨みといった負の感情を持っていないからなのか、ただヒメが鈍感なだけなのか。


 黒を基調とした、ゴシック・アンド・ロリータ。

 普通、道端にいれば必ず身を引くような服装であるはずだ。


 もっとも、異国の衣装なんてそんなものだろ? といった感性を三人が持っていた場合、特別おかしい話というわけではなくなってしまうが。


「それだけを言いに来たの」


 意識してしまえば違和感しかない状況。


 騒々しい街からは随分と離れた言わば僻地と呼ばれるような場所。

 森とまではいかないが、木々が乱立した整備もされていないような道が続くような場所。


 人気の無いのは通常運転だが、逆にたった一人で誰かを待つかのように居る人物がいるのは異常だ。


 であるはずなのに、声を掛けられるまでその異常を認識できなかった。


「……さようなら」


 それが最後の言葉だった。


 ヒメが声をかけても、少女は木漏れ日に煌めく黒髪を揺らして歩いていくだけ。


 蒼が引き留めようと追いかけるものの、何者かに足を掛けられた感覚に襲われそのまま転んでしまうことに。


 小蔭お得意の俊敏な動きをもってしても結局は蒼と同じ結末を辿ってしまうのは、明らかに異変が起こっている証拠であった。


 密度なんて知らないとばかりに穴ぼこだらけの木々でできたトンネル。

 吹き抜ける風に舞う木の葉が名前も知らない黒尽くしの少女へと吸い込まれていくように。


 どこからか取り出したのかいつ開いたのかも分からない、またまた真っ黒の傘。


「あの模様どこかで……?」


 三日月模様。それはどこか見覚えのあるデザインがされた傘だった。

 ヒメはどこでそれを見たのかをすぐには思い出せず、そして思い出せないまま黒少女を見送ることになる。


「いてて、結局なんだったんだ?」


「アオ様、かっこわるーい!」


「ちょ、小蔭も人のこと言えないだろ!?」


 お互い尻もち態勢のままお互いにつつく様はまさに滑稽。

 とはいっても、変わらないよく見るいつも通りの二人ではあるのだが。


 そんな二人を見ていると、急にお腹が空く感覚に襲われてしまうヒメなのであった。

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