呼ばれて飛び出て
「さて、仕事の時間だ」
「おう。それで、何するんだ?」
「ぷぷぅ~。アオ様そんなことも知らないで付き纏ってたんだぁ~」
「その言い方ちょっとチクチクしてない???」
「ふふんっ♪ そりゃもう待ち針で刺してますから」
「よりにもよって物理かよ! ケツ痛ぇのはそれが原因だったのかよ!?」
いつも通っているパスタ屋を出た三人はご機嫌だった。
何故かって? パスタが美味しかったからさ!
「ん? 何かあったのか?」
ぷぷるぷぷるとヒメのケツを揺らしたのは手のひらサイズの通信端末。
ヒメの性格上ぞんざいに扱われてきたソレは壊れてこそいないものの、傷も多く入ってしまっている。
些細な用事では連絡など来るはずがなく、そもそも友達のいないヒメに連絡できるような相手はごく少数。
どうでもいい愚痴やら世間話を一方的に吐き出す受付嬢くらいが最近の通話相手なのである。
「ちょっと今どこで遊んでるのよ」
「丁度、飯食い終わったところだけど?」
「呑気なものねぇ。早いところ戻ってきてくれる??」
そんなにも早く愚痴を吐き出したいのかと言いかけるヒメ。
しかし、それにしては何かが変だと違和感を抱く。
「ノイズがひどい……いや、これは子供の声か?」
「そうなのよ。なんか、急に皆の様子が変になっちゃって」
「アインはどうした? なにか知ってるだろ」
「それが、なにか考えてるみたいで返事が曖昧なのよ」
「わかった。すぐに向かう」
「そうしてよね。私、子守は苦手なのよ~」
いつもの癖で軽口を叩いてしまいそうになるヒメであったが、状況を考え最低限の礼節は弁えられるのが彼女。
一瞬、不自然な間ができてしまうもののそっちの方がまだマシであった。
通信を切ると、会話が聞こえていたであろう蒼へと視線を向ける。
「急ぎだな? 急ぎだろだったら先に行ってるからな」
何が起きているのかといった理解ことできていないものの、ヒメから向けられた信頼に応じないわけにはいかない。
まぁ、相手がヒメじゃなくとも蒼であれば同じ対応をしたのであろうが。
「小蔭も行ってくれ」
「一人だからって、サボっちゃダメだよ?」
「ふん。それはどうだろうな?」
先行させるのは蒼だけではなく小蔭もセットであるらしい。
戦闘要員として数えられない世話役が居るのにはちゃんとした理由がある。
一人だと寂しいだろうとか面倒事をやってくれるだとか、まぁそういった理由も勿論あるのだが。
一人に力が集中しないための制御装置のような役割も担っている。
「はいよぅほぉ~! 君に決めましたっ」
独特な掛け声とともに手のひらサイズの何かを投げる小蔭。
物を入れておくには小さすぎるソレは宙をくるくると舞った後、地面にぶつかるとともに砕け散ってしまう。
それは召喚石とも呼ばれる代物であり、世話役にだけ許された特権のひとつ。
強大なエネルギーが発生しているんだと言われればそれで納得してしまいそうな、失明しそうなほどに強い光は一体何を隠すためのものなのか。
わおーん。と自身の登場を主張する雄たけび。
モフモフとした毛並みを存分に見せつけるのは、強靭な四肢をもつ獣。
戦闘よりも移動用に価値を見出された種族。
『俺の背中はちょっとばかし揺れるぜ!』
なんて書いてあるプラカードを浮かばせて現れたのは
文字通り碧い毛を持つ狼だった。
彼の名はウォル。
「よっしゃ今日も頼むぜぇ? 相棒っ!」
『あんまり喋ってると舌噛むぜぇ!?』
「ごーごー! しゅっぱ~つ!」
蒼い髪を持つ青年を乗せた碧い体毛を持つ狼。
非常に絵になる組み合わせであった。
蒼と小蔭を乗せてもまだ余裕のある大きな碧狼の姿は小蔭の合図と共に遠く離れていく。
「ふぅむ、休みを出したのは間違いだったな」
見送られたまま立ち尽くすほどの余裕は無く、小走りに後を追うヒメ。
契約上、蒼や小蔭と一緒に碧狼の背に乗れないのだ。
自身の世話役がこの場にいないことを愚痴るヒメ。
「あっ、これ渡しておいた方が良かったか……?」
アインから貰ったお守りのありかを確かめるようにポッケをモゾり。
ヒメは、ちょっとばかし速度を上げることにするのだった。
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