乙女は小さくなるものです
「犯人がいない、だと?」
「あの、いえ……いないというか、何と言いますか……」
「なんだそれは、ハッキリしてくれ!」
「ひぃっ!? 大きな声は苦手なんですぅ……!」
指をわなわなと
アインはそんな怒り狂う彼女のことを
ヒメにとってはいつも通り。でも、アインにとっては激昂しているんじゃないかと不安になってしまうのだ。
小さな身体が丸まってしまって、もっともっと小さくなってしまって。
手のひらに乗るくらいにまで縮んでしまうのでは……? なんて思ってしまうくらいには酷い怯え様であった。
「いやホントに乗っちゃうって受付嬢」
「アインも乙女だからねぇ」
「乙女だからねぇ……で説明できる状況じゃないだろう!?」
「乙女の力ってのは凄いんだよ」
ちんまい。ちみっこい姿になってしまったアイン。
どのくらいかというと、くどいくらいに言うが手のひらサイズ。
さながら妖精のようだ、とでも言えば想像に容易いか。
ガチャガチャのカプセルに収まってしまいそうなほど、彼女の自信の大きさを表しているかのように。
「水にでも浸せば戻るか……? 浸透圧的な」
「死因、溺死。なんて笑えない冗談話をまた増やすつもり?」
良く言えば思い切りが良い性格。少し言葉を濁すなら、愚直。
愚かという字が使われているからとマイナスな印象を持ってしまうが、愚直であるのは時には良かったりもする。
なんて話は横に置いておいて……、この状況においての愚直とは馬鹿正直だという負の言葉。
「というか、彼女。精霊とのハーフだし、小さくなったくらいで驚いてたら心臓が先に参っちゃうわよ」
「は? ハーフ……?」
「そ。確かに珍しいかもだけど、いるでしょ。……その辺を探せば」
「いないよなぁ~、って考えてるのが最後の一言に詰まってるぞ」
バレたか。てへ。
なんて可愛くてへぺろしても刺さる癖の持ち主はこの場には――
「ぐはぁっ!?」
「ヒメちゃんにクリーンヒット!」
「ぐわらぎぃーん!!」
「悪球打ちなのカナ!?」
自身のてへぺろを悪球と認識しているのは乙女としてどうなのか。
自己評価の低さを思わせる受付嬢の発言は、実際の所はノリの良さから来ている。
その場のノリ、大事。
「あ、あの。放置はやめてくださ~い……」
小さくなったまま、精一杯に声を張る小さな小さな赤毛の小人。
洋服までもが小さくなっているのは一体どう説明がつくのか疑問ではあるが。
精霊と人とのハーフである精霊使いのアイン。
彼女の懸命の訴えは、雨の音の前に虚しく溺れ消えていくのであった。
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