彼女は妖精。そう、気の弱い妖精さんなのです……


「あ、どうも……です」


「君が今回のヒロインか」


「乙女はいつだってヒロインなんだけどねぇ」


 受付嬢に案内されて入った部屋にいたのは、室内であるのにフードを深く被っている見た目陰気な一人の女性。

 フードの隙間から溢れさせているウェーブのかかった赤毛は、本人からすれば望まない視線を集めているようにも思える。


「彼女はアイン。精霊使い……ってことでいいんだっけ?」


「大きな括りでは、はい。それで大丈夫です……」


 自身の語る言葉に自信が無いのか、思った以上に声が小さいアイン。

 そんなアインの様子から、声が聞き取りにくいこと以上に本当に信用していいのか疑ってしまうような印象を持ってしまうヒメなのであった。


 受付嬢からの紹介である時点で信用しても良いハズなのだが、ヒメは彼女のことを観察してしまう。


 先程まで何かを書き記していたのだろうか。整頓された机の上には本とペンが。

 実はその本にはこの件の黒幕である証拠の計画案のようなものが残っているとか……なんて考えてしまうのは如何なものか。


 と、そこである事に気付くヒメ。


「……精霊使いだと?」


「はーん? 関係性が無いって思ったんでしょ」


「あぁ。現状、頼ろうとは思わないだろ」


「それがなんと。今回はゴリゴリに関係あるんだよねぇ」


 精霊使いと言えば、例えば幽霊やら怨霊やらを相手にする者達のことだ。

 物体に限らず、人の想いであったり自然現象であったり。


 そういった“人間の理解の範疇を越えた存在”を一括りに精霊やらと呼んでいるわけだが。


 精霊に限った話ではなく。

 霊と呼ばれるモノは、あらゆるモノのエネルギーが一個体として現れた存在のことを差す場合が多い。


 子供には守護霊が宿っていると信じる者も多く、実際多くの子供に当てはまる事実ではあるのだが。

 子供、特に今回に限った話で言えば捨て子が急増している原因とは関係がないように思えてしまう。


「精霊……精霊か」


「難しく考えなくても大丈夫です。精霊使いの中でも考え方が違うことの方が多いですし」


「オバケ、とか?」


「はい、間違いではありません。解釈は自由、ってお師匠が言ってました……」


「犯人は悪いオバケ……ってことでいいのか?」


「えっと、今回はそういうわけでもなくてですね……」


「誰かが操ってるとか?」


「それもまた違くて……」


 あーでもないこーでもないとヒメの言葉は次々に轟沈していく。

 正解を聞く、という選択肢はヒメの頭の奥の奥で眠っているらしい。


「――はぁ、憂鬱」


 そう呟いた受付嬢の視線は自然と窓へと向いていた。


 小さなお耳を頭に携えた雨合羽を動かすのは。

 空からの水玉みずたまが張りのある材質にはじける心地の良い音と、幼子達との合唱。


 最後には冷えてしまった一口分のコーヒーの苦みを楽しみながら……なんて幻想を反射させる不思議な窓ガラス。


 触れてしまえばそのまま腕を掴まれてしまいそうな。

 御伽噺みたいな部屋の主は、今。


「あぅう……話を聞いてくださぃ~……」


「あれだろ、ほら。実はこれは神様の夢の中で――」


 あぁ。そうだったらいいのに。

 アインはこのふざけた夢の袋が一秒でも早く弾けてしまえばいいのに、と思うのだった。

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