少女と名乗るには


 化け物だと恐れられるようになってきてからは住処を森の中へと移していたフォグエット。


 最初に試したのは村を離れる事だった。

 多少の距離では意味が無い。ならばとそれこそ誰もいないような場所へ行くことを決める。


 結果は村の壊滅。見晴らしの良い平原だったのが良かったのか悪かったのか、家屋から燃え上がる炎がよく見えた。

 急いで戻って見れば村の中を闊歩していたのは魔物の群れであった。


 魔物の姿になってまで守ってきた村がフォグエットの選択で一瞬で炭になったのだ。


 涙を流せなかったのは熱に蒸発したからなのか化け物には不必要だと身体が忘れてしまったからなのか。しかしその声はかつての風景を求めて何かに縋る者のそれ。

 フォグエットは叫びながら村を襲った魔物達へとその恨みをぶつけていった。


 原因はフォグエット自身であるのはずなのに。


「化け物っ……!」


 一日。呆然としたまま夜を明かしたフォグエットの耳に飛び込んできたのは朗報。

 目の前に広がる光景は穢れの仕業であるのは明白。しかしフォグエットはひどく安心してしまった。


 燃えた家屋も。転がっていた肉塊も。全てはフォグエットが逃げる前に戻っていた。変わらず化け物と恐れられる状況も変わらず、同じであった。


 それがもうとても嬉しくて。自身の過ちを自ら許してしまった。


 終わることのない輪廻。


 逃げ出すことができないまま一生をメビウスの輪に捕らわれ続けることになる村の人々の気持ちなど、その時のフォグエットにとってはどうでもよかった。


 化け物だと迫害されても、救った村の人々に石を投げられたとしても。

 しばらくすれば忘れてくれる。何をしても、無かったことにしてくれる。


 そうやってすり減り続ける自身の正常性を誤魔化してきたのが。

 狂ってしまったことにも気付かず自身を英雄だと思い込んでいるのが、今のフォグエット。


 そんな彼が。最後に穢れによって何もかもを奪われてしまうのは必然であったのかもしれない。

 事実として穢れは膨大なエネルギーを持っている。それこそフォグエットと同じように個人の願いを叶えてしまえるほどに。


 しかし、万能ではない。だからこその穢れの名を付けられたのだ。

 人を人でなくしてしまう負の方向性。世界を蝕む毒としての側面。


 この世界は最初から失敗作であったのだ。

 誰にでも起き得る事象。そう考えるとフォグエットは犠牲者の一人に過ぎなかった。


「――遅いっ!」


「すみませんっ、後で好きなだけご飯作ってあげますから!」


 停滞していた戦闘に変化をもたらしたのはコウ。

 世話役の到着に気付いたヒメの表情たるや太陽のように眩しさがあった。


 自分一人で解決できないのならば誰かに力を借りるしかない。

 事前に打ち合わせをしていた“もしも”の状況を覆すための逆転の一手は、ヒメとコウの二人が揃って初めて成立する。


「変☆身!」


 前もって考えていたのか。

 普段そういったことをしなさそうなコウが何やら決めポーズをして。


「バカ言ってないで早くしてくれ……」


 そんな余裕があるわけないだろうと。


 時間稼ぎをするなら今。ここぞとばかりにフォグエットの両足へと斬りかかり、接近されないようにと負傷させ。そして真剣な面持ちでポーズを崩さない真面目さを持つ自身の世話役の元へと急接近を果たすことになる。


「変身ってより、合体だろ」


 ぴっかーん! ☆のパーティクルが溢れ出す輝きの中。

 クルクルと二人を中心に回るカメラが The 必殺技 っぽさを演出する。


 時間にして三秒。

 広報の連中に編集された映像が残るのだとしたら、イイ感じに引き伸ばしに引き伸ばして数十秒の変身シーンになっていることだろう。


 きゃぴきゃぴの男児女児が食い付いてくるように凝られたワンシーン。

 ステッキではなく持っているものが剣であるのは少々らしさを損なっている気もするが……。


 希少性こそ話題の種。あとはヒメのぷりっぷりでキュアッキュアのなんやかんやがあればいけるやろの精神。


「忘れられた戦士に。終焉を!」


 フォグエットとの決着をつけるため。

 神に選ばれた者として穢れの使者に終焉をもたらそう。


 気分の上がったヒメは心の中でそんなセリフを告げるのであった。

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