過去生きた恐怖の片鱗
テレポートをしては移動。そして移動をしてはテレポートを。
そんな風に繰り返して大陸を横断していくこと数週間。
時には食料の調達のために街へ寄り道をして。雨の日も雷が落ちる嵐の日であってもヒメ達を乗せたイノシシちゃんは進み続けた。
そのおかげで予定に遅れもなく順調に目的地へと近づいていった。
そして最後のテレポート地点。
残る移動距離はあと目的地までの数十キロメートルであった。
「えぇ、ではいきますね」
何度も繰り返していれば最初の頃にあったワクワク感などは薄れてきてしまっていた。
ヒメもコウも一番初めは身構えていたのに今となっては鼻をほじって暇を潰している始末。
まぁ実際にはそんなことしていない両者ではあるが、それくらいには慣れていた。
そんな二人に文句があるわけでもないゲゲは自身の仕事をするだけ。一応声をかけ、そしてテレポートをする。
問題であったのはゲゲを含むこの三人の気が緩んでいたことではなく、ある事実を隠していた人物。
裏で密かに動いている企みなんて知る由もなく、そしてその時が訪れてしまうことになる。
「ふ~。やっとだな」
背伸びをしたのはヒメ。目的地まではまだ移動が必要であるとはいえ、気合を入れ直すにはいいタイミングであるのは間違いがない。
そんなヒメの様子につられてなのかコウも呼吸を深くして気持ちを整えていく。
そして、ゲゲは改めて頼りになるなぁとぽやぽやした気持ちを膨らませていた。
「こちらの空模様は~……おや?」
「どうかしたか」
最初に異変に気付いたのはゲゲ。お決まりになっていたテレポート先の天気の確認をしている最中のことであった。
「なんでしょう。なんだか穢れが薄いような気がいたします」
「何か問題があるのか、それ」
「以前お話いたしましたが、テレポートを行うために穢れが集まっているような場所に拠点を構えているんです。確かにいつも穢れの濃さが一定であるというわけではないのですが……」
誤差にしてはあまりにも薄すぎる、ということ。最後まで言い切る前に何やら考え込んでしまったゲゲ。
何が原因であるのか思い当たるのか、ブツブツと何かを言っているが内容までは聞き取れない。
異常事態であるらしいが、それが致命的な状況なのか後回しにしてしまっても良いのか判断の付かないヒメ達はただゲゲの思考がまとまるのを待つしかなかった。
「逃げられる準備をしておけ。来るぞ」
「離れていましょうか」
「あまり遠くにはいくな。こっちの状況が分かるところにはいろ。……いや、できれば神具が欲しい」
ヒメにも焦りが見える。コウに出す指示がイマイチはっきりとしないまま、剣を抜き警戒態勢に入っていく。
「おい、ゲゲ。流石にヤバイか?」
「逃げてしまっても良いかと」
「……悪いが、それはできないらしい」
「そ、それは一体どういうことでしょう。もう逃げるには間に合わない、と?」
「いや、そうじゃないんだ。たった今、緊急強制依頼が私に舞い込んできた。悪いが付き合ってもらうぞ……ま、お前は逃げてもいいけどな」
緊急強制依頼。突発的に発生した危険度の高い異常に対して発行される依頼だ。
一秒でも早く、何が何でもたとえ死んでも解決しなければならない程の危険が生まれた場合に一番近くにいた余所者へと発行される依頼。
穢れが原因で起きた異常の対処が余所者の存在理由である以上、断ることは不可能。
逃げれば使命の放棄と判断され、神により意識を奪われ戦う人形にされてしまう。次に近い者が来るまでの時間稼ぎとして使われるのが最後の仕事になってしまうのだ。
運が良いのか悪いのか。
緊急強制依頼が発行されるのは十年に一回あるかないかという珍事であるのに、更にはそれを解決しろと指名されてしまうことになるだなんて。
「ヒメ様。神具全て揃いました」
「ゲゲ。目を付けられる前にコイツと一緒に逃げとけ」
「……いえ。それではミツキ様に軽蔑されてしまいますので、最期まで付き合いますよ」
「そうか」
澱み、それこそダムのように溜まっていた穢れを元に生み出された魔物。
穢れを多分に含んだ強力な個体は“
森の中。視界が悪いせいで姿こそ見えないがビリビリと気圧されてしまうようなエネルギーを持った何かがいると。
強制でなければ感じ取った瞬間に戦うという選択を最初から消してしまうような圧倒的な力が近づいてきていると。
「さてさて。どこまでやれるかな、っと」
神の加護。願えば勝手に装着されていく神具。
数年ぶりの神具フル装備。
「ハラ。ヘッタ」
耳元で響いた感覚に背筋が凍る。
ぐにゃぐにょん、と左右非対称な長さをした腕や足を地面に引きずりながらソレは近づいてい来る。
未だ木々の奥。
人型、であると言ってしまっていいものなのか。
所々に肉塊を膨らませた二足歩行の何か。
「あぁ。懐かしい匂いがする」
――まず、ヒメの右腕が喰われた。
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