ゲゲ式テレポートへの羨望


 燃料の補充完了。今回のミツキの依頼を終えるまでは足りるであろう量は確保できた。

 しかしながら何十、下手をしたら百を超える数の魔物をエネルギーに変換したところで満杯ではない。


 恐るべきイノシシちゃんの燃料タンク。

 お腹が膨れてご機嫌なのか。イノシシちゃんの進行も跳ねるように思える。


「アホみたいな数でしたね」


「質が良ければもっと少なくて済むんだけどな」


 速度こそ大きくは変わらない。しかし普段よりも早く進んでいるような気がするのは何故なのか。

 空に浮かぶ雲もいつもよりも先へ先へと流れていっているような。


「そろそろ到着しますね。ある程度近づいたら、予定通り徒歩に切り替えましょうか」


 あまり目立ちたくないから。そもそもイノシシちゃんの大きさをテレポートするにはいつも以上に手間がかかるから。

 言葉を選ばずに言うのならばイノシシちゃんは邪魔、ということであった。


 明確にここまでといった線引きはしていないが、拠点まであと数キロメートルのところで一旦イノシシちゃんとはお別れとなるが。

 近くに流れる川の流れ沿って三人は拠点へと移動を始めていき、何事もなく到着する。


「ここです」


 ゲゲがヒメの頭から離れて飛んでいった先にあったのはレンガで造られた小屋。

 基本的には地下にあるだとか言っていた気もするが、いきなり数少ない例外の拠点であるらしい。


 本命は建物の中に隠されている階段から行ける地下室という話なので、あながち間違いというわけでもないのか。

 建造物であったり何かしらの目印であったり。テレポートをするための施設を隠すカモフラージュのような役割があるということだ。


「思ったよりも中は綺麗なままだな」


「適当な精霊を雇ってますから。掃除くらいならばやってくれるんですよ」


「え、何それズルい」


「もしよろしければ紹介しましょうか?」


「是非お願いしますゲゲ様、精霊様」


 部屋の中央、特に何もないように思える箇所にゲゲが近づいていくと床が怪しく光り始める。

 どういった仕掛けなのか、床ががちょんがちょんと階段へと変形していき地下室への道が完成する。


 仮に小屋ごと爆破したとしても地下室への道が見つかるというわけではないらしい。

 ゲゲ含め、勝手を知る者が都度地下室への道を作るからこそ辿り着けるのだ。それに小屋が吹き飛ぶほどの衝撃であればそれを感知して勝手に地下室は埋もれる仕掛けもあるのだとゲゲは言う。


 そう簡単にはいけない場所へと向かっている、というわけだ。


「三日月模様……」


「えぇ、ミツキ様の好きな模様を拝借しております」


 何もない広々とした空間。人が百人押しかけてきてもまだまだ余裕のある広さの空間だった。

 その床に描かれていたのはミツキを象徴する三日月模様。ミツキ作成というわけではなく、ただ単に模様を真似しただけらしい。


「時間をかける理由もないのでさっさと済ませてしまいましょうか」


「このまま、何もしなくていいのか?」


「えぇ。寝てても、腕立てしててもジャンプしてても構いません。二次元ではなく三次元の空間としてこの部屋全体を有効範囲を設定しておりますので」


「複数人、一気にいけるのは凄いですね」


「あなた方が利用しているものは一人ずつとのことでしたね。それに、膨大な魔力が必要なのだとか」


「使うにしても許可されるまで謎に数日かかる申請が通ってからだけどな。それに比べていつでも使えて人数制限もなし、魔力も穢れを代用すれば不必要ときた。羨ましいよ」


「ウチでも導入して欲しいところです。まぁ、あったらあったで利権どうこうの問題で運用は難しいでしょうけど。上の人達はそういったことに敏感ですからね」


「えぇ……と、テレポート先は……」


 テレポートの準備をしている最中なのであろうゲゲ。

 二人の愚痴などは適当に相槌だけで済ませて必要な作業を進めていく。


 いくつも存在する拠点の場所を覚えておくことは難しいため、何かにメモを残しておく必要がある。

 ゲゲは今まさにそのメモを確認しながら場所の設定を行っているのである。


 事前に目印を付けていた地図で何度も見ながら間違いが無いのかを確認をしていく。


「では、いきますよ」


「あぁ、よろしく頼む」


「なんだかドキドキしますね」


「子供か」


「だって仕方ないじゃないですか。何度も経験してるってわけでもないんですから」


 待っていたのは静寂。空気を震わせていた者がいなくなれば当然のことである。

 徐々に明かりも消えていき、残ったのはぼんやりとした微かな光を放っている三日月模様だけであった。

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