食いしん坊のイノシシちゃん


「直接、ではないんですね」


「イノシシちゃんにあんな奴らを喰わせられるかよ」


 ふよふよと。コウの頭から離れてきたゲゲは再びヒメの頭へと戻ってくる。

 どうやら既に定位置は彼女の頭の上になってしまっているらしい。


「召喚石に戻ってる状態で魔物を倒した時、召喚獣が使用するエネルギーへと変換されるんです。仕組みは分かりませんけどね」


 何やら文様がゆっくりと点滅を繰り返している召喚石。

 この状態はもう召喚獣が持っているエネルギーが足りなくなりますよ、補充してくださいね。という合図であるのだとコウが説明する。


 この状態では召喚できなくなるわけではないが、いつエネルギーが切れて強制的に召喚解除されてしまうのか分からないという危険性がある。

 イノシシちゃんは自身のエネルギーがゼロに近いことを理解し、ヒメ達に危険が及ばないようにと自らエネルギー消費を極力抑えるために停止したのであった。


「イイ感じに寄ってきたな」


「先程のは猪嶽いだけの能力ですか? それとも、召喚獣としての力なのですか?」


「ん~、知らね」


「恐らくは、効率的に餌を用意するための手段なのでしょうね。地道に魔物を探してエネルギー補充するには時間がかかりますから」


「随分と使用者に優しい設計のように思えますな」


「使う側の不便をできる限り減らしていく、って考えを持った作成者だったのでしょうね」


 呑気に話を続けているところ悪いのですが囲まれていますよ。と、状況を冷静に指摘してくれる人はいないらしい。

 ぐるる、がうばう。最初にヒメ達の元に集まってきたのは足の速い犬のような狼のような四足歩行の魔物達であった。


 遠くには人型に近いオークやオーガといった魔物達の姿も確認でき、空を見れば翼を持った鳥型の魔物も多数集まってきているのが分かる。


 ゲゲは思う。あれ、以外に多くね……? と。


「その、手助けは必要ですかね?」


「あ? 必要ないって。丁度良いし、私達がどれくらいの実力を持ってるのか確かめておけ」


「コウ様の身の安全はいかがなさるので?」


「大丈夫ですよ。この簡易魔法発動玉、別名マジックボール略称マジボがありますから」


「どうも説明ありがとうございます。それを使うと、一体どうなるので?」


「えいやっ!」


 語るより実際に見た方が早いだろうとコウがマジックボールを地面へと投げつける。

 すると、モリモリと地面が盛り上がっていき三メートルほどの高さになる土製のやぐらが完成する。


「文字通り、高みの見物です」


「どうやら非常に腕の良い魔法具の製作者がいるようですね」


「その分だけ金をもっていかれるけどな。設計したのはあいつじゃないのにどれもこれも高い値段で売りつけてくるんだよ」


「ほう、お知り合いなのですか。ミツキ様もきっとこの技術に興味を持つことでしょうし、もしよければ紹介していただけたりできませんか?」


「そういうのあんま好きじゃない奴なんだよなぁ。一応今度会った時に聞いてみるけど」


「ヒメ様。是非、よろしくお願いしますね」


 既に戦闘は始まっていた。

 それなのにもかかわらず会話に参加する余裕があるのは流石の技術と賞賛するべきなのか神具のおかげだと言うべきなのか。


 もっとも、そもそも騒ぐほど強い魔物ではないという話もあるのだが。


「親玉発見っ、はいっと完了!」


「お見事です」


 他の個体と比べると二回りほど身体の大きい魔物を見つけるや否や一直線に跳んでそのまま一撃で葬るヒメ。

 まだまだ足りないと休むことなく次の獲物へと斬りかかっていく。


「ほう? これは……穢れですか?」


「分かるのか」


「先程説明しましたように、えぇ。これでも精霊ですから」


 ヒメに斬られた魔物は次々に消滅、ではなく次々に黒い靄のようなものへと変わっていた。

 

 その正体が穢れを含んだ何かであることをゲゲは瞬時に気付き、同時にそれが召喚獣のエネルギー源であるということも理解する。

 どういう理屈で何がどう変換されているのか詳細など全く不明だが。不自然な力が働いているように思えたゲゲは今回は色々と収穫できそうだと密かに心を躍らせる。


 知的好奇心という側面もあるが、ミツキへと報告できる事柄が豊富にありそうだという点で喜ばしいと思っているのである。


「飛んでるやつは苦手なんだよな~。面倒臭ぇ」


「お手伝いしましょうか?」


「ありがたい申し出だけど、いらね」


「左様で」


 個を狙うのではなく全体を狙った面の攻撃。

 剣技ではなくヒメ固有の能力を使った熱風といったところか。


「焼き鳥入りまぁすっ!」


 剣筋より広がった炎が上空で今まさに急降下をしてきていた魔物達を阻む。消し炭にできるほどの威力は無いが飛行能力を奪うには十分な威力であった。

 勿論、焼かれてもそれがヒメによるものであれば召喚獣の餌になる判定を受ける。落ちていく間に黒い靄へと変わり、コウの持つ召喚石へと吸い込まれていく。


 屍が残っていればとっくに山積みになっている数の魔物を倒しているが、それでもまだ足りないらしい。


「もしかしなくてもやはりり四方八方を囲んでいる魔物を全部倒すまで続けるので……?」


「当たり前だろ」


 ゲゲの想像以上に。猪嶽いだけという種族は食いしん坊なのであった。

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