燃料補給
「少し話が逸れましたが移動に関してはそんなところですね。あとは目的地に着いてからの話ですが……おや? どうかなされましたか」
「多分、燃料切れってやつですね」
「しまったな。完全に忘れてた」
完全停止。きゅぅ~と切なげな鳴き声を出しているイノシシちゃんであった。
「ええっと、それは召喚獣のお話でございましょうか?」
「そういうこと。ん~、この辺ならまだいけそうか」
窓から見渡した景色から何を確認したのか。
事情を掴み切れずに話から置き去りにされたままのゲゲは、どうするんだろうと不安なのか髪を掴んでおろおろとしているようにも見える。
逆に一体これから何が始まるんだろうとウキウキしているようにも見えるが、実際はどうなのか気になるところだが。
そして説明がされないままいつかと同じようにいきなり訪れた自由落下の速度に驚くことになるゲゲは何かと不憫であった。
「あの、何をするのか聞いても?」
「イノシシちゃん、というか召喚獣は共通して言えることなんだけどな。当然だけど動くには何かしらエネルギーがいるんだ」
「えぇ、そうですよね。無条件に動き続けられる存在はいないかと」
「んで、肝心のエネルギーをどうやって摂取するのかって話だが……よし。イノシシちゃんお願いしていいか?」
グルグルと螺旋状になった滑り台からコウが降りてきたことを確認し、ヒメはイノシシちゃんの前足を叩いて何かを促す。
『BOOOOOOOO!!』
これまでの可愛らしい鳴き声ではなく遠く遠くに響かせる雄たけび。
「これで魔物をおびき寄せるんだ」
「わざわざ魔物を? ということは魔物……というより穢れがエネルギーになるので?」
「まぁ多分そんな感じだ。詳しくは知らん」
「なるほど。精霊に近い存在なのですかね、召喚獣というものは」
「だから詳しくは知らんと言っただろう。ただ一つ言えるのはイノシシちゃんは召喚獣になる前はちゃんと生きてたんだぜ。
「えぇ、知っていますよ。川を造り山を起すとても大きな身体を持つお方達なのだとか」
「そうそう、それそれ」
「あの姿は後から形作られたモノではなくてそもそも元になったお身体があったわけですか」
「それがコイツの持ってるちっこい石から出たり入ったりしてるんだから、不思議だろ?」
「これです。召喚石ってみんな呼んでますね」
「ほうほう。確かにその辺に転がっている石ころとは全く違って――前が見えな……あぁどうもありがとうございます。えぇ、独特な魔力を纏っているようで」
「あ、やっぱり精霊って魔力どうこうには敏感なんですか?」
「えぇ、そうですね。皆さんの感覚がどれほどなのか体験したわけではないので絶対にそうだと言い切るのは難しいですが、やはり比較した時には精霊の方が魔力に対する感知能力は長けているみたいですね」
途中、コウとゲゲの二人で話が盛り上がり始めた頃。
邪魔をしたら悪いという気遣いからヒメは自身の頭の上にいるゲゲを鷲掴みにして、コウの頭へとなすりつける。
そしてそのまま二人から離れ、一人イノシシちゃんの鼻先へと歩いていった。
ヒメのことを余程空いているのだろう。イノシシちゃんは喜んでヒメが触れやすいように頭を下げていく。
「お疲れ様。今回は長い間呼んじゃったけどありがとうな」
『きゅぅ、きゅぅ』
それが嬉しいのだと。もっと呼んでも良いんだよと目を細めて。
言葉は伝わらないけどこの想いは届いているのかな? なんて気持ちが伝わる日は来るのだろうか。
「うん。少しの間、待っててね」
そう告げたヒメは、名残惜しそうにしつつもコウへと視線を送る。
それが合図であったのだろう。コウが召喚石を掲げるとイノシシちゃんは光に包まれて消えていった。
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