死んだ街
「……乙女への解像度が低いな」
「解像度が何ですって?」
「貴様のその角ばった顔は一体何
「せめて
アオの顔はそんなにカクカクしてないです。
どちらかと言えばキリィッ……! とした主人公の
「そちらも終わったようだな」
「ひめたんが注意を引いてくれていたからな。簡単なお仕事だったぜ」
既に街からは音が消えていた。
短かったとはいえ戦闘があったのだからアオVSヒメの時みたく騒ぎになっているのが自然だ。
しかし、誰一人として声を張り上げることもしない。
足を止める者がいるわけでもなく、それどころか目を向ける者さえ一人としていなかった。
「小蔭、死んだ街は嫌い」
「気味悪いって話だったら分かるけどな」
ヒメが邪魔をしてきたヴィリィの相手をしている隙に、アオが穢物を倒したことで起きた変化。
感情の起伏が極端であったとしても、街に住む人々は人としての生活をしていたのだ。
小さくとも幸せを心に残し、つまらなくとも誰かが笑えば一緒になって笑い出しその内に自分自身も楽しくなっていく。
「おっちゃん、店の周り汚しちゃって悪かったな」
「…………」
返答を期待して言ったわけじゃない。
ただ、アオが言いたかったからというだけ。
しばらくすれば街そのものが消えていく。
誰かが居た痕跡も、誰かが生きていた記録も記憶も。
それが明日なのか百年後なのかは分からないが、それまで人々は魂を抜かれたようにただ動き続けていくナニカに成り果てたのだ。
否定し、拒絶し、そして壊す。
それが余所者の役割。
「帰るぞ」
「あの、治療はしていただけたりなんて……」
「悪い、俺はそういうの分かんねぇんだよな。包帯とかも持ってねぇし……」
ヒメ様からの返答を待っていたのですが。
なんてお小言を貰ってしまったとしても、自分が何か言わないと話が進まないという判断。
予想通りというかいつも通りというか。
当たり前のようにヒメが自身の世話役に対して何か言葉を返すことはなかった。
冷たい。と、最初は思うだろうがそれには何か深い事情が。なんて話があるわけでもなく。
比較的に付き合いのあるアオですら、多分そ本当に冷たいだけなのだろうと決めつけていた。
誤解なのか本当に性格がねじ曲がっているのか、誰かはその答えを知っているのだろうか。
「小蔭を見ても何も出てこないよ?」
話を戻そう。
アオが包帯持ってない? という期待の目を小蔭へと向けていた時にこの発言。
そこは持っておけよという言葉を飲み込んだアオが勝手に咳込んでしまうことに。
怪我人に優しくない世界であった。
「ちなみにですがアオ様は包帯を持っていないと言いましたが」
「おう、言ったな」
「ほらここに。アオ様は嘘つきでございますね。ホラ様ですね」
「そのホラってほら吹きとかの?」
「妹様にお尻ぺんぺんをされてしまうのは嫌なので、仕方なくこの可愛い小蔭が手当てをしてあげましょう」
「ねぇ無視しないで?」
アオのポケットに入っていたはずがないであろう大きさの包帯を手に、小蔭はテキパキと手を動かしていく。
トイレットペーパーの親玉みたいな図体の包帯が踊るようにあっちへこっちへ右往左往と。
もしや小蔭ちゃんは手品がお得意な子なのカナ!?
「あの、ちょっと締め付けがキツイのですが」
「知ってて言ってるでしょ」
心得があるのか適当にやっているだけなのか、知識のないアオには判別できなかった。
ただ、小蔭の得意げな笑顔を見ていればそんな些末なことはすぐにどうでもよくなっていくのであった。
「小蔭ちゃん可愛すぎ」
「本音はここぞという時まで隠しておくもの、ですよ」
「心が離れていかない保証なんてないからさ。言える時に言わなきゃだろ」
「……本音なのは否定しないんですね」
「は? なんて?」
「はぁ。その何かが詰まった耳のトンネル工事はいつ終わるんですかね」
蟻すらお腹いっぱいだと逃げていきそうな甘い空間では。
ヒメは独り苦い思いをすることなんて到底不可能であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます