小蔭ちゃんは今日も可愛い
「あの、すみません。これ、丁度で……」
「あいよ毎度アリぃ」
頭を下げ迷惑をかけましたと謝るその姿はおよそ英雄などには見えない。
騒ぎの後であるにもかかわらず、いつもと変わらずいやいつも以上に落ち着いているんじゃなかろうかといった具合で代金を受け取る会計係のモブおっさんの方がよっぽど大物に見えてしまう。
「慣れてるんですか?」
「あいよ毎度アリぃ」
「あ、いや。落ち着いてるなぁって思って」
「あいよ毎度アリぃ」
「こ、壊れたオモチャみたいになってる……!?」
ゲームのNPCよろしく同じセリフが連続しただけで急に不気味な人に見えてしまっているモブおじ。
懐の深さが椅子の座り方にでるんだぜぃ。とばかりに丸椅子の奥深くへと腰をかけたせいで最早太ももで丸椅子を挟んでしまっているのだがそれでいいのか。
筋トレでもしているのかと思いたくなる態勢でさえ、モブおじの表情は涼しいままなのが、余計に不気味さを加速させている。
「アオ様、お戯れはその辺に」
「ねぇずっと言ってるけどその人のこと色で呼ぶの、やめない?」
「アオ様はアオ様であるからして……アホとかけていますし」
「本人を目の前に言うことじゃないよねそれ」
どこに隠れていたのかスススと現れたのはアオの世話役。
頭一つ分、二つ、三つと視線を下げても見えることのない愛くるしいそのお顔はぷっくりとした頬を携えて『何のことやら?』なんて自身の発言を誤魔化している。
「では私からも一つ」
「どんとこい」
「では遠慮なく。馬鹿なんですか?」
自分の懐の金を使ったからなのか。それとも街の中で派手に動いてしまったことなのか……。
それともそれとも一回の昼食とは思えないほどに膨らませてしまった代金のことなのか。
「早く可愛いって言ってください」
およ? どれも違ったらしい。
「よっ!
「……むふんっ」
「フリフリのお洋服も似合ってる! その髪型もイケてるねっ、今日は誰に頼んだのカナ!?」
「ふへへ、最初からそう言ってくれれば何も文句はないんですからね。次はちゃんといの一番に言うんですよ?」
「あー面倒で草」
「ビンタです」
「あひん」
アオの腰ほどしかない背丈の
彼女がビンタするぜぃと意気込んだその瞬間、なんとアオの方から勝手に彼女のビンタが届く位置に頬を移動させていたのだ。
まぁなんてことはない。
特殊能力というのは冗談で、小蔭の能力でもなんでもなくただアオがビンタをされにいったというだけ。
「可愛い子のお願いなんだからしかたないよね。ね?」
「……はぁ、またやってるのかお前達は」
一人呟いただけのつもりだったのか、最初から近づいてくるその人に向けて言ったつもりだったのか。
「同意を求めるな。とうの昔に何かを愛でるような心ではなくなっている」
「あーたんってばいつもながら重すぎ」
「いつも言っているが冗談だ」
「顔がマジなんだよなぁ」
あーたんは自身に与えられた仕事は早々に(´・ω・`)っ⌒〇ぽいーっしてきたらしい。
「あとそのあーたんはやめろ」
「じゃあひめたん」
「そ・れ・も・だ」
「oh!! 俺の頭が握りつぶれそうだ!」
あーたんなのか、ひめたんなのかハッキリして欲しい。
呼び方が定まらないと久しぶり会った時、なんて声かければいいか分からなくなるだろって。
「ヒメ様」
「ありがとう」
「修復、完了いたしました」
「感謝する」
どうやら彼女の名前はヒメらしい。
漢字で書くと姫になりそうな響きだが実際のところはどうなのか。
かーしぃーっ。ぱーしぃー。なんてカメラの鳴き声を響かせて詰め寄る記者の一人や二人はいないのか。
「それで、見つけたか?」
「怪しい動きをしていた者はいなかったように思います」
「む、だったら仕方がないな」
「いつものアレ、ですね」
「あぁ。
異常の元。街の住人が歪んでしまっている原因を顕現させようと、姫は準備を促す。
街の人間らを変えるよりも手っ取り早く事を終わらせることができる方法こそが、彼女の言う
厳密に言えば、ソレのせいで街が変わったというわけでもないのだが。
元から異常であった穢れた街を破滅へと導くだけ。
穢れた場所を害のない正常な場所へと綺麗にお掃除をするように。
「――浄化の時間だ」
彼女は、この街からすれば悪者なのである。
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