精霊ゲゲ


「えぇえぇ、あっしがミツキ様から派遣されましたお供のゲゲでございます」


「……なんと言ったらいいか。その、光ってるな」


「えぇ、そうでしょうとも。精霊っちゅうやつは皆こんなもんですから」


 待ち合わせしていた地点にやってきたのは光。文字通り、光。

 例えるのならタンポポの綿毛のようなシルエットか。


 陽が差していると見失ってしまうそうなほど淡い輝きはどうにかならないものか。いやそもそも、別の姿にはなれないものなのか。

 精霊ならばその辺は自由が効きそうなものであるイメージだが、恐らくはならないからその姿なのだろうと。


「え、目障りですって? 安心してくだされ。これからはヒメ様の髪の毛にでも引っ付いていますので、それほど気にもならなくなるかと」


 移動に適した姿というわけでもないらしく、ゲゲは綿毛姿のままヒメの頭へとピットリ張り付く。

 明るさ調整なんかは微調整できるようで昼時であれば目立たない程度の光量になっているのだとか。


「それで、出発はすぐですかね。こちらとしてはいつでもOKな感じでございますけども」


「いや。実は連れがいるんだが、今は買い出しに行ってる最中でな。もう少し待ってくれ」


「左様でございましたか。それでは依頼内容の説明も後回しにした方がよろしいですかね」


「だな。二回も同じこと話すのは面倒だろ」


「えぇ、えぇ。ですです」


 コウを待っている間、ヒメは色々と聞きたいことを我慢することになる。


 初っ端に判明したことだが、アインの師匠つまりはミツキはどんな人物なのか。使いを任されるくらいには信用されているであろうゲゲはどういった立ち位置の存在なのか。

 そもそも、ゲゲはどういった精霊であるのか。ゲゲのような精霊をミツキは多く従えているのか……などなど。


 世間話として聞くにしても、多分コウとも同じような話をするだろうことが予想される。

 同じ話を二度させる事になるし、ヒメとしても知っていることを延々と聞きたくもない。


 であれば、依頼内容と同様に後で一緒に聞こうか。という判断をしたヒメであった。


「おや、どちらに?」


「下にたむろしてる連中がいるだろ? そろそろ掃除しておかないと連れが困るんだ」


 ヒメが見下ろした場所にはイノシシちゃんに群がってきている魔物が多数。

 大きさにビビって直接には攻撃を仕掛けてこないものの、ウロチョロされているだけでもコウにとっては危険な存在であるのだ。


 コウ一人では逃げ回るので精一杯。多くの荷物を抱えているとなれば買い出しが無駄になってしまう可能性もある。

 世話役である以上最低限の実力はあるにしても無理なものは無理。


 できないことを死ぬ気でやれと突き放すほどヒメは冷たい人間ではなかった。


「適材適所、助け合いの精神がどうたらってやつだ」


「……聞いていたよりもお優しい方なようで」


「はぁ? なんて聞かされてたんだ?」


「極悪非道。泣いている私の弟子をほっぽって行っちまった冷たい女。油断してたら斬られるぞ、機嫌を損ねたらすぐに手が出てくるからいつでも逃げられるようにしておけ……と、ミツキ様は仰っていました」


「ん~、全部が全部間違ってないこともないし否定しずらいな」


「え、ほぼ冗談だと思っていたのですが。実は結構危ないお仕事を任されちゃってます????」


「信頼してるってことだろ。知らんけど」


「あっ、えっ。ちょっ――」


 下手したら十メートル以上ある高さからの落下。

 自分で浮遊している時との勝手の違いにビビり散らかすゲゲの声は震えていた。


 問題などあるはずもなく着地したヒメは獲物が降ってきたぞ? 来いよ。と周囲にいる魔物達へと挑発。

 最初は恐る恐る様子を見るだけであったが、一匹が動き出すと残ったやつらも一斉に動き出してくる。


 最初に飛び掛かってきた一匹を軽い身のこなしでヒョイと避け、続いてくる二匹目三匹目をそれぞれ一振りで斬り捨てる。

 斬る構えと斬った後の残心。その二枚だけで構成されたアニメーションのように次々に切り替わっていく。


「き、気持ち悪……」


「吐くなよ?」


 果たしてゲゲのような姿をした精霊にそんな概念があるのか不明だが。

 動くたびに低くくぐもった声を漏らしているゲゲに念押しをするヒメなのであった。

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