最後のお仕事

お仕事のお話


「久しぶりね」


「ん、仕事か?」


「お仕事じゃなかったら連絡しちゃダメだったかしら」


 通信機を震わせたのはアインの師匠。仮称クロリータちゃん兼ヒメの妹候補。

 あちらから連絡を寄越してくる事が意外で戸惑いを隠せていないヒメの目はあっちへこっちへと泳いでいた。


「前に仕事があればどうのこうの言ってた気がしたから、そうなのかと思って」


「まぁ、実際お仕事を頼もうと思ってるんだけどね」


「なんじゃい」


「ふふっ、ヒメって意外と人のこと覚えてるのね。すーぐ忘れちゃいそうな性格だと思ってた」


 うむむむむ。なんと返していいのか分からなくなったヒメはそんなうめき声を漏らすことしかできない。

 それもそうだろう対面で話をしたとはいえそれも一度きり。距離感が掴めないんだよなと思いながら、世間話がメインにならないようにとまずは仕事の内容について聞き始めていく。


 仕事以外の話が長くなりそうな予感。あまり重要じゃないのだろうからこその適当な頼み方になりそうな気がして。

 できるだけこっちから話を誘導しようと思うヒメであった。


「それで……仕事って?」


「道具を作るための素材集めって言えばいいのかしら。そういうのもやってるでしょ?」


「まぁ、難しいことをしないのなら」


「それなら大丈夫よ。ある場所にいって、そこにある物を取ってくるだけだから」


「ふーん。だったら自分で取りに行けばいいんじゃないか?」


「それができないからお願いしてるの」


 お師匠さんが言うには素材がある場所には手強い魔物がうじゃうじゃといるのだとか。

 穢れが澱んでいるせいということなのだが、逆にそのおかげで生まれる素材もあるのだとか。


「ほら。私ってか弱い女の子でしょ?」


「確かに。夜道に後ろからナイフで一刺ししてきそうな雰囲気はあるな」


「いいわねそれ。今度会う時やってあげる」


「やめなー?」


 実際のところ自分でもできない事ではないのだが、危険であることには変わらないとのこと。

 だったら金はあるのだから誰かに頼んだ方が良いよね。丁度、実力のある知り合いができたんだしお願いしよー、ってことらしい。


 何かを煮込んでいるのかごっぷごっぽといった液体が沸騰しているような音をBGMに。

 もしこの通話を夜にしていたら不気味さのせいで話が入ってこなかったかもしれないと、ホラー要素に敏感なヒメは頭の片隅でそんなことを思う。ヒメの心の中には今が昼飯の後のご機嫌な状態で良かったなと威張るミニひめがいるのであった。


「いつも頼んでた子はなんか最近忙しいみたいでね。引き受けてくれると嬉しいんだけどなー……ちらっちらっ」


「やるのは全然良い。が、内容が今のところふわっとしてて怖い」


「道案内とか報酬の話とか、どんな魔物がいるとか。そういった詳細は使いを寄越すからそいつに聞いてね。今どこにいるのか教えてくれる?」


 諸々の情報を交換して、使いが来るのは明日になるということで話が終わる。

 別れ際まで結局名前を聞けなかったのだが、もしかしたら派遣される使いから聞けるかもなぁなんて思いながらヒメは横になる。


 移動の準備だとか今後の戦闘に向けての準備だとかは後回し。

 明日、依頼の詳細を聞きながらでもやればいいだろうという精神。


「良かったんですか? 適当にゆっくりしていたいとか言ってましたけど」


「世話になった人だ。やらない理由はない」


「そうですか」


 到着予定は真夜中。急ぎはしなくてもいいが、寄り道している余裕があるわけでもない距離の移動。

 ヒメとコウを乗せたイノシシちゃんは、待ち合わせとなる場所へと歩き始めていくのであった。

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