破格の性能
「遅いぞ」
「えっへへ、ナンパされちゃいまして」
「食材は買えたのか?」
「あ、はい。そっちの方は問題なく。あれ、そんなに興味ない感じですか?」
「お前の兄はナンパされて鼻の下を伸ばしていたぞと妹にチクるつもりではある」
「あはは、冗談じゃないっすか冗談。……ホントごめんなさい妹に言うのだけはどうかご勘弁を」
「お師匠さんからの使いがもう来てるぞ」
「え、あの。告げ口しないですよね?」
「メンバーも揃ったことだし、さっさと移動しようか」
「しませんよねえ!?」
告げ口をしないと約束してくれないまま話が有耶無耶になっていく。
どちらの肩を持つべきか、ヒメの髪に揺られならがゲゲは窮屈な思いを一人しているのである。
「ではでは、移動先からまずは説明をしましょうか」
「頼む」
コウにとってはどこからともなく聞こえてくる声に驚く状況。しかし、彼の適応力を舐めてはいけない。
この声は派遣されてきた使いであることは間違いない。どこから聞こえてくるのかは分からないが、精霊って多分そういうモノなんだろうと一旦はスルー。名前はこっちから名乗れば自然と情報の交換ができるだろう、と。
「その前に自己紹介いいですか? ヒメ様の世話役をしています、コウという者です」
「あっしはゲゲ。しばらくご一緒させてもらいますから、よろしく頼みます。あ、ちなみにですけどヒメ様の頭にくっつかせていただいてます」
そんなにキョロキョロされるとこっちとしても悪い気分になると、ゲゲから告げられることになったコウ。
察しは良くても身体が好き勝手動いてしまえば台無しであろう。
本人はさり気なくやっているつもりなのだろうが、ハッキリ言って挙動不審。
ヒメからも何やってんだコイツ……と訝しげな視線を向けられてしまっていた。
そして、ここでゲゲはあることに気付く。『おや、もしかしてマトモなお方はいない……?』と、ヒメとコウの二人を前にそんなことを思うゲゲ。
『ミツキ様もハチャメチャなお方ですがヒメさま達も中々に癖のあるお方なようで……』とはゲゲの心の中の言葉。
愉快な旅ができそうだと前向き思考なゲゲなのである。
「では改めまして今回の目的地についてなのですが、こちらが地図になります」
「……遠いな」
「ほぼ大陸の反対側じゃないですか」
精霊の力なのか。ゲゲの言葉と共に地図が宙に浮かび上がり、目的地なのであろう場所には既にバッテンの印がつけられていた。
街の近くや山など移動ルートに適さない場所を迂回するようにおおまかな経路がゲゲの説明に合わせて矢印で示されていく。
「早く手に入れるに越したことはないが特別に急いでいるわけでもない。スケジュールの調整はゲゲと一緒になって決めてくれ……というのがミツキ様のお考えです」
「この距離を一気に移動したことはないので後で計算が必要になりますけど、一か月や二か月じゃとても辿り着きそうにない距離ですよこれ」
「えぇ、えぇ。そうでしょうとも」
予想以上の大移動になることが確定しヒメもコウも眉間にしわを寄せることになる。
一直線に寄り道なんかしないで移動するというわけでもないのだが、だとしても怖気づいてしまう距離というのが二人の認識。
ただ不思議なのはゲゲは何とも思っていないような様子であること。
長旅に慣れているのか、何か秘策があるのか。表情こそ無いゲゲではあるがその声色からは後者なのだと察することができる。
「安心なさってください。この果てしない距離を解決する方法があるんですから。実はあっしはこう見えましてもミツキ様から神出鬼没の変体野郎という称号をいただいてましてね」
「なんだその絶妙に信頼できそうにない肩書は」
「ゲゲさん、ひどい言われようですね……」
張る胸など無いが誇らしげなゲゲの態度に若干引き気味のヒメ。本人はそれで良いと思っていそうなところもまたツッコミにくくしてしまっていた。
薄情そうな声がゲゲの言葉をそのまま信用していいのか不安にさせてくるが、一体どうやって数か月かかる距離を解決するのか。
「テレポートと言えば伝わるでしょうか。二つの地点を瞬時に移動する術をもってして距離の問題を解決いたします、えぇ」
どやぁ。褒めてぇ。と書かれた吹き出しが見える見える。
「あっしの力があれば……こうなります」
書き換えられていくのは宙に浮かんでいる地図に示されていた目的地までの矢印。
一つだった矢印が複数の地点を境に途切れ途切れになっていく。
「途切れている部分はあっしの能力でなんとかできますから皆様に移動していただくのはこの矢印の部分のみとなります」
一番長い矢印でも数百キロメートル。
本来ならばその何十倍もの距離を移動しなければならないことを考えれば、微々たるものに感じてしまう。
「ここから目的位置まで一気にテレポートするってのは、やっぱ無理なんだよな」
「やろうと思えばできますが、デメリットが大き過ぎますのでどうかご勘弁を。あっしの能力も万能ではありませんので」
「……精霊ってヤベェんだな」
「もし出会う機会があれば絶対に仲良くなろうと思います」
「あの、自慢するわけじゃありませんけど。あっしが特別なんですよ、えぇ」
美味しいご飯をご馳走しよう、いっぱい褒めようなどなど……。
どうやって精霊と仲良くなればいいのかを話し合う二人には、ゲゲの言葉なんて届くはずなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます