穢れた世界と共存を
そして、正反対の色を着飾った少女が一人。
「ようやくやって来たわね」
「久しぶりだな」
「知らない間に色々あったみたいだけどそれはまた今度ね。今日はもっと大事な話しがあるんだから」
必要以上に長いテーブル。用意されている椅子は全部で三つ。
ミツキが座っている椅子と、ヒメが座ることになるであろう椅子と。
「時間は有限。早く、座って」
豪華で大きい椅子が一つ。豪華と言っても白だけで彩られた椅子である。
そんな椅子に座っているのはミツキよりももっと幼い子供の女の子。中性的な見た目ではあるが声から判断するヒメ。
「……なぁ、誰だ?」
「あっしから言えることはなにも」
用意された席へと移動する間にゲゲへと小声で質問するヒメであったが欲しかった回答は得られないまま。
ミツキと対面になる形で用意されている椅子へと座ることになる。
幼女へと視線を向けていたミツキは、幼女が頷いたのを確認するとヒメへと向き直る。
事前に打ち合わせをして用意していたセリフをミツキはそのまま告げる。
「彼女は星導神。気軽にせーちゃんって呼んであげて」
「……なんて?」
「星導神。つまり神様。彼女がこの星で一番偉い存在ってことよ」
神様……。かみさま? カミサマ。
反復してもいまいち頭に入ってこない神様という単語。
「見事に混乱していますね」
「素直なのは良い事。あなたみたいに子供扱いしてくるよりもずっとね」
「おほほほほ。そんなこともあったかしら」
「兎も角。説明、お願い」
話に全くついていけないヒメ。
突然目の前にいるのは神様です! なんて言われれば、それは誰でもヒメのような反応にもなるだろう。
冗談かと笑うか、困惑するか。なにを試しているのかと警戒するか。
誰がどんな反応をしたとしてもそこにおおきな違いはない。
「信用できないのは分かるわ。私も最初は何の冗談だって思ったもの」
「でも、本当のこと。なんだな?」
「あら。案外納得するのが早いじゃない」
「納得したかと言われればしてはいないんだが。信じられないんだがっ」
「まぁまぁ落ち着いて。早口になったって何も変わらないんだからさ」
がらがらがら。ゲゲはワゴンを転がして一体何を運んでいるのか。
音が気になって見ればお菓子やティーポットであった。
「お気になさらず」
「私、甘いのね」
「はい。分かっておりますとも」
「ふふんっ」
余計に。より一層に子供にしか見えなくなってしまう。
最初こそ威厳があってただならぬ雰囲気を纏っていると感じたものの、早く早くとゲゲを急かす様子は完全に子供のそれ。
何を信じればいいのかどんどん分からなくなっていく。
「……証拠は」
「またベタなセリフね」
「仕方ないだろう、他にどうしろと……!」
「うーん。そうね、逆に聞くけど何が起きれば神だって信じるの?」
「……私に神具を用意してくれ。神であるのなら可能だろう」
今まで培ってきた価値観からの見極め方。
今まで神から贈られたと思っていた物が実際に贈られれば信じるに値する。そうヒメは判断したのである。
モグモグ。
「今、彼女の口は甘いお菓子でいっぱいみたい。少し待ってあげてね」
頬の膨れ方を見るに本当に、文字通り口いっぱいにお菓子を押し込んでいるらしい。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ焦りが見える視線の泳ぎ方をさせているのが可愛らしい。
「急ぐ必要はありまむぐぅ」
「人に早くと言っておきながら私が待たせるのは失礼。って、姉さんが言ってた」
「むぐご。だからといってあっしを握るのは違うかと思うのでむぎゅ」
「こうしないと黙らせられないから。……それで、神具だっけ。私には無理。用意できない」
「だったら天罰は? 雷を自由に落とすくらいはできるだろ?」
「私にはそんな力は無い」
「神がやってたことじゃないのか? できないって、だったら誰がそんなことやってたんだよ。やっぱり神じゃないってことなのか?」
「あなた、余所者だったのよね」
「今は違うみたいだけどな」
「あっちは姉さんが創った勢力だから。神具も、天罰も。全部姉さんがやってること。だから、私にはできないの」
「姉さんって、どういう意味だよ」
「姉さんは姉さん。私の、大事なたった一人の家族」
分からない。何を言っているのか分からない。混乱が加速していくだけ。
神であると語っているのに、神の権能であったと信じていた物事を引き起こす力は無いと語っている。
更には姉がいるのだとも語って。余所者は姉が創った? 神具を作ったのも、罰を与えているのも姉?
「何を言っているんだって顔ね。いいわ、あなたが混乱してる原因の一つを解消してあげる。この世界には神が二柱いるのよ」
「神がふた、はしら?」
ミツキが淡々と語る。彼女にとっては当たり前の情報なのだろうが、ヒメにとっては常識が覆るに足るトンデモマル秘情報。
「“いた”って言ったほうが正しいかしら」
理解が終わる前に。
「あなたにはかつて存在した神、創造神の夢を阻む組織リベルの一員になってもらうわ」
告げられたのはかつて敵対していた
「あなたに課される役目はたった一つ。星との共存を目指すことよ」
そう語るミツキの目は本気だった。
どこまでも真っすぐで。とても力強くて。
そして、バトンを目の前にいる神へと渡す。
「穢れた世界に終焉を。姉の最期の言葉に縛られるのは、もうおしまいよ」
ヒメの余所者として生きてきた物語は。
神のその一言によって終わることになる。
そして。
新たな物語が始まる合図でもあった。
穢れた世界に終焉を あいえる @ild_aiel
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