陽だまりが照らす景色


「それでは我々もいきましょうか」


「歩くのか?」


 コウを見送った後のこと。次は自分達の番だとゲゲは移動を促す。

 どこへ向かうのか、どうやって向かうのか。詳しい話など一切は聞いていないヒメは導かれるままに歩くしかない。


「ここはもう拠点として機能してませんからね。廃棄です廃棄。穢れが無ければ意味がないんです」


「テレポートではい着きましたってわけにはいかないか」


「いえ。できますがそれはしません」


「なんでだよ」


「ヒメ様に起った変化を知っていただきたいからです」


「……神具は使えない。前みたいに戦う力がないってことか」


 突き付けられる事実に足が重くなる。一人だったら今すぐにでも寝転んでしまいたい。


 身体が重い。激しい戦闘の疲労を癒す暇もなく動くことになり、どうしても気も同じように重くなってしまう。

 この先どうなるのか、という不安を抱えていることも足取りを重くさせる要因の一つであった。


 いつもは小難しいことなんて考えないヒメ。

 目の前のことに取り組むことで精一杯の彼女は、今はその目の前も暗闇に包まれてしまっていた。


「ま、なるようになるか」


 暗かろうが進むしかないよな、と。

 先が見えないからと言って立ち止まるわけにもいかないよな、と。


「前向きですね」


「考えなしって見方もあるけどな」


「それをご自分で仰るので?」


「他人に言われるよりかはマシさ」


 先が見えないからこそ深く考えても仕方がないだろうと。

 一寸先は闇。しかしそれはなにも絶望への道のりというわけでもないのだ。


 だったら希望の光が見えてくる可能性にでも期待していた方が万倍も良い。


「途中、街に寄って旅の準備をしていきましょうか」


「準備?」


 ゲゲは地図を浮かばせてここですよと行先を示す。

 現在地からはそれほど遠くないように思えて、少し安心するヒメ。


「装備を揃えたり、食料の補充をしたり色々とやることがあります」


「……思っている以上に大変な旅になりそうだ」


「時間もかかりますし、それにこれからは身の危険も考えなければしけませんからね」


 権能の喪失とでもいえばいいか。

 今まで強制されてきた余所者という立場から外れることになったせいで失われたものが沢山あった。


 移動にはかかせなかった召喚獣との契約。敵と戦う際に使用していた神具や連絡手段として利用していた通信機器の使用権利。

 神具を使用できなくなったことによる諸々のバフ効果。神より与えられていた神具による特殊能力。


 ハッキリ言って今のヒメには戦力としての価値は無く。

 更には情報収集や治療関連が得意なわけでもないため後方支援としての価値があるわけでもなく。


 ゲゲにとってはお荷物を抱えての旅。

 ヒメにとっては自身の変化を自覚するための旅。


 ここから一番近い街までは数キロメートル。

 その間に何も起きないと良いのだが、果たして。


「いや、思ったより遠いのか。これ」


「召喚獣が使えていたからこその感覚なのかもしれませんね。あっしは別に遠いとは思いません」


「絶対、嘘。テレポートなんて便利な力があるのに……。本当は面倒だって思ってるだろ」


「あっし、こう見えてもお散歩とか好きなので。一人のんびりとフラフラしているのも案外良いものですよ」


「こう見えても、とか言われてもいまいちピンと来てないけどさ。まぁ、らしいっちゃらしいのかもしれないけど」


 お散歩日和。暖かい日差しに背中を押されながらヒメ達は進む。


 未来は視えなくても長閑な景色は見えているのだ。それだけで今は。今のヒメにとってはそれだけで十分であった。

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