第26話 収穫はいかほどに

 光る場所からの収穫を終わらせたのち、本格的な収穫作業へ移る3人。

 タイチとニーナの収穫は同じ位であったが、やはり加護の力が重複しているフェリスからは、倍以上の収穫が確認できていた。


「なんだかフェリスちゃんに全部掘り起こしてもらった方が良くない?」

「ちょっと、私だけ作業させるのは無しでしょう!!」

「だって、収穫量が全然違うんだよ~。勿体ないじゃん」

「だからって、ここの小さな畑なら良いかもしれないけど、他のは無理よ」

「あ、ここは良いんだ?」

「ダメ!!手伝って」


 ニーナに振り回されているのに、フェリスは優しいなと眺めながら作業をしていたが、そんなタイチにも声が掛かる。


「ちょっとタイチ、あなたは全然収穫している様に見えないんだけど?」

「あぁ、収穫した物を、加護の倉庫?の方へ勝手に移動するようにしてるから、収穫してないように見えるんだよ」

「ズルいじゃない!一人だけ力のいる作業を楽してるなんて」

「あ、説明してなくてごめん。フェリスもニーナも僕の近くなら同じように倉庫へ移動させることが出来るよ」

「え?できるの?」

「出来るよ。手に掘って収穫するって思うんじゃなくて、収穫して倉庫へいけ~って念じながらやると、手から消えて収穫されてるから」

「それを早く言いなさいよ!」

「え~、もっと早く教えてよ~」

「ニーナは、前にも見てたと思うけど?」

「そうだっけ?」

「前は浮かれてたから、気にしてなかったのかも知れないね」


 そこからは、あっという間に収穫作業が終わってしまう。本来の作業と比べると、疲れ具合が全く違う事が体感できた。

 そんな作業もひと段落した所で、タイチから離れて話し合う2人の姿がある。


「それにしてもニーナの言う事が分かるわね…」

「でしょ、でしょ?ヤバいよね。お兄ちゃんの加護」

「えぇ、短期間で作物が作れるのもおかしいし、収穫量も大量となれば女性陣もそうだけど他の人からも狙われるわね」

「だから、昨日の内に私とフェリスちゃんには売約済みって、お兄ちゃんに伝えておいたから」

「ちょっと?!…でも、ありがとうの方が良いのかしら?」

「だと思うんだけどな~」

「あぁ、そうか。だから、ミリア姉さんやヨミちゃんの名前があったのね」

「おっ?そこに気づいちゃう?」

「村長さんへの根回しと、商家のダインさんを味方にする為でしょ」

「えへへ、せいか~い。このままだとお兄ちゃん絶対にバレるもの」

「実際、この畑の状態を知った身からすると、間違いなく村中にバレるわね」

「フェリスちゃん、フェリスちゃん。これ、お兄ちゃんの力の一部だよ?全然、加護の全体を掴めてないみたいだし」

「本当に頭が痛くなるわね」

「あとね、お兄ちゃんの前で、お兄ちゃんに気のある女の子の名前を言うと、嫁候補に挙がるっぽい」

「迂闊に名前を言えないじゃないの?!」

「だよね~。で、昨日ミリアお姉ちゃんとヨミちゃんの名前を試しに言ってみて分かったの」

「ニーナ…。あなた、タイチで遊んでないでしょうね?」

「え~、そんな事しないよ~⤴?お兄ちゃんには幸せになってもらわないと~」

「タイチを守る為にも、私が貴方を監視していた方が良い様な気がしてきたわ」


 どうやらフェリスからも、ロックオンされたようだった。そんな2人の会話に気づかずに、収穫された内容を確認しているタイチの姿がある。


「ここの畑で採れる量じゃないな。普通の畑で同じことをしたら、平気で2倍~3倍の量が取れそうかも」


 簡単に収穫量の試算をしていたが、加護の力はまだ成長していないし、道具も更新されていな為、この試算はのちのち崩れ去る事になる。


「ねぇ、タイチ。これで終わりで良いのかしら?」

「うん、ありがとう。これで収穫は終わりだよ。もう一度ここに作付けするのでも良いんだけど、どうすれば良いと思う?」

「一杯あり過ぎても腐らすだけじゃないかしら」

「あ~、どうだろう?加護の中に入れてると、食べ物が腐るかどうか試してないね」

「お兄ちゃん、加護の中に入っているので、前に収穫した物って何か残ってないの?」

「昨日の魚があるね。出してみようか」

「まだ、あったんだ」

「調理の加護で何か出来ないかと思ってたんだけど、昨日はそれ所じゃなかったし」

「じゃあ、その魚で試したら?」

「加護で作れるか調べてみるから、少し待ってて貰える?」


 そう言うとメニュー画面を開いて、調理を思い浮かべる。見事にレシピがヒットした。取り合えず、一番簡単な魚の塩焼きに決定し、調理に入る。

 タイチが突然しゃがみ込んだと思ったら、突如フライパンを振っている姿に変わる。

 フェリスにとって、全く理解できない状況が目の前で展開されている。

 タイチが、30秒も掛からずに立ち上がり、その調理が終了となった様だった。


「塩焼の完成~」


 その手には、串にささった魚の塩焼きがあった。


「火も起こして居ないのに、出鱈目ね…。それに、なんで串に刺さっているのか教えて欲しいのだけど」

「さぁ?加護の力が作用したとしか言えないんだけど」

「お兄ちゃんの加護って、結構おおざっぱだよね」

「そんな感じがするね。塩とか合成すると壺が付いたものが出来上がるし」

「えっ??塩が作れるの?」

「岩塩を持ってるから、それを合成して塩を作るって感じになるけど」

「岩塩を持ってるって…。この辺りじゃ取れない物じゃないの」

「そう言われても、採掘したら取れたんだよ」

「……ニーナ、早くタイチの周りを固めた方が良いと思うわよ」

「フェリスちゃん、岩塩が採掘出来るって初めて聞いたよ…」


 タイチは、女性陣2人にジト目で見つめられる。

 確か塩は見せたけれど、岩塩は見せていなかったと思い出す。


「え~と、加工前のと加工した後の塩もみる?」

「……見せて頂戴」

「あ~、あの真っ白な塩?」


 見るとの事なので、メニュー画面から岩塩と壺に入った塩を取り出す。


「こっちが岩塩で、壺に入った方が塩ね」

「タイチ…、どうみても色が違うのだけど」

「あー、岩塩は赤みがかってて、キラキラしてる」

「壺に入ってる方は真っ白だし、サラサラの粒上になってるわね」

「でも、今作った魚の塩焼きを加護の力で調理すると、何故か一壺分の塩が消えるけどね」

「ウソでしょ?こんなに大量の塩を使ってるの?塩辛くて食べられないわよ」

「どうなんだろうね?食べてみようか」


 そう言うと、止める間もなく魚の塩焼を口にするタイチ。


「うん、丁度いい塩加減で、普通に美味しいね」

「それ、本当に食べても平気なの?」

「お兄ちゃん、無理してないよね?」

「塩辛ければ、食べれなくて吐き出してると思うんだけど…」

「そう言われればそうよね」「だよね」

「と、言う事で、2人とも食べてみる?」


 だが実際に食べるとなると、身構えてしまうようで手が出てこない。

 このままだと時間が掛かりそうなので、加護に収納した時に温かいままか冷めてしまうのか調べてしまおうと、アイテム欄に収納する。


「あっ、お兄ちゃん、どうして仕舞ったの?」

「ん?手が出ないみたいだったから、温かいままか冷たくなるか調べようかと思って仕舞ったんだけど、食べる?」

「ううん、そう言う事ならそのままで大丈夫」

「食べようとしなかったから、気分を悪くして仕舞ったのかと思ったじゃない」

「あぁ、変に気にさせて、ごめん。暖かい内に仕舞った方が分かり易かったから」


 なんだか雰囲気が微妙な感じになってしまったので、話題を変える為に収穫した芋の事へと誘導していく。


「そうだ、収穫した芋だけど。フェリス、どれくらい持って帰る?」

「えぇ?!収穫って言っても、途中から加護の力で殆ど疲れてないし、貰う為に手伝ったわけじゃないわよ」

「でも、かなり豊穣の力で収穫量が増えてるから、その分くらいは持って帰ったら?少なく見積もっても、30本以上あるけども」

「収穫時期でも無いのに、そんなに大量に持って帰ったら怪しまれるでしょうが」

「そっちの問題もあったね。どうしようか?」

「お兄ちゃん、加護の力で料理できないの?」

「調べてみようか」


 料理に変えてしまう案を採用し、メニュー画面を開いて検索を掛ける。すると、いくつかの料理が表示された。


「焼き芋にスィートポテト、大学芋に炊き込みご飯、栗きんとんか。でも材料が足りないものばかりだな~」

「ちょっとまって、焼き芋以外知らない料理ばかりなんだけど?」

「……んと、焼き芋しかなかったね」

「お兄ちゃんがそう言って言葉を濁すって事は、甘い物でしょ!」

「チガウヨ。うん、違う。そもそも、材料が足りない」

「と言う事は、材料があれば今言った物は作れるのね?」

「……黙秘します」

「ニーナ、作れるみたいよ」

「だね、フェリスちゃん」


 そもそも甘い物だと、どうして気付くことが出来たのだろう。迂闊にレシピを口にしたけれど、甘い事と分かる料理名ばかりではないのに。

 タイチは考え込んでしまった為に、2人から意識を離していた。その為、接近に気が付けなかった。

 2人に両腕を取られ、お願い事の攻撃を受ける。


「今は焼き芋で良いわよ♪」

「その内、作ってくれるんでしょ?ね、お兄ちゃん♪」


 2人による蠱惑的こわくてき微笑ほほえみと両腕に伝わる柔らかい感覚の二重攻撃によって、タイチは一気に顔が赤くなる。

 正常な判断が下せなくなる中、何とか言葉を絞り出す。


「あ、あの、その、が、がんばります」

よ?」

「待ってるからね~」


 やはり、頭に血が上った状態では、お断りの言葉は出せなかった。

 これから暇な時間には、素材集めに奔走する事になるタイチであった。


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