第28話 家畜と草むらと

 フェリスを迎えに移動し始めたタイチとニーナだったが、相手も同じことを考えていたらしく、両家の途中で合流する事となる。


「さあ、フェリスちゃん、お兄ちゃんの力を使ってお菓子をご馳走して貰おう」

「待ちなさい。どこに行くかを決めていないのに、どうしてお菓子やご馳走って話が出てくるのよ」

「およ?お菓子の材料を探しに行く予定じゃないの?」

「そう簡単に見つかるのならね。で、どうなの?タイチ」

「ん~と、さっきの芋を使ったお菓子になるんだよね?そうすると、村の中で家畜を飼っている家を回ると集まり易いかも知れない。ただ、村の中だよね?人に見られる可能性の方が高いんだけど」

「ふふふ~、その為の私とフェリスちゃんだよ。2人で周りを見てれば大丈夫でしょ?」

「なに?私たちが信じられないの?」

「イヤイヤイヤ、信じてるよ。うん、信じてる」

「なぁ~んか怪しいけど、まあ許してあげましょうか」

「それで、足りない材料って何が必要なの?」

「…卵とミルクがあれば一応作れる可能性がある。重要なのが無いけど」

「重要なのって?」

「砂糖」

「……ニーナ、どこかで手に入れられたかしら?」

「ん~~、ダインさんの所でも殆ど見た事ないよ」

「まあ、砂糖が取れる植物は知ってるんだけど、遠すぎ無理なんだよね」

「えっと、何で知ってるのかは聞かないけど、どこで取れるのよ」

「てん菜ってカブみたいなのが北の大地で、サトウキビって言う茎から取る物は南東の島だったかな」

「お兄ちゃん今一わからないよ」


 そう言われてしまった為、目の前に野望系のメニュー画面をだし地面に地図を描いていく。その際、自分たちの住んで居る場所も目印になる様に書くのも忘れない。


「ここが今住んで居る場所で、こっちが北の大地で、南東の島がここね」

「ちょっと、何で住んでる場所がって、加護なのね……。それにしても、随分と離れた場所でしか取れないのね」

「お兄ちゃん、これ取りに行くのにどれ位掛かるの?」

「ん~~、この大陸しか表示されてないから、世界の大きさが倍以上になっていてもおかしくないんだよね」

「どういう事なの?世界の大きさが倍って」

「まぁ、ここま色々知ってるからフェリスなら良いか。少しだけど、前世の記憶があるんだよ。その記憶にある地図と殆ど一緒なんだ」

「前世の記憶ね…。まあ、後で考えるとして、地図が殆ど一緒なら大きさも同じでしょ?」

「違うんだ。前世の世界には他の大陸もあったんだよ。でも、他の地図が出てこないから、この島国しかないのかな~と考えているわけ」

「それのどこに問題があるの~?」

「地面に書いた地図だと大きい様に見えるけど、前の記憶だと海が7で陸が3位の大きさでね、更に今住んでるこの島国は、陸地の千分の3位の大きさしかないんだ」

「千分の3?」

「そう、もっと砕けて言うと、お芋千個の内の3つ分の大きさ」

「物凄く小さいじゃないの?!あぁ、それで他の大陸が無いから大きさが変わってるかもしれないって事ね」

「そう言う事になるね。だから、大きさが変わってると、前世だと3か月~4か月位で行けた距離が、年単位になるかもしれないって事」

「とんでもない距離になるからって事ね。これは諦めるしかないのかしら…」

「まあ分からない事だらけだから、その内取れるって考えてて良いんじゃないかな」


 世界の大きさの説明が一段落した所で、ニーナ自身が気になった事を聞いてきた。


「ねぇ、前世の記憶って事は、料理も前世の物なんだよね?」

「そうなるね。もっと甘いお菓子も一杯あったけど」


 どうもタイチは、前世の記憶を探っているときに、余計な一言を話している自覚が無い様だった。その為、女性陣2人で頷き合って、決意を新たにしている事に気が付いていない。


「タイチ、まず手に入れるものから行きましょうか。家畜のいる家で良いのよね?」

「そうだね、分けてもらえると良いんだけど」

「さぁ、お兄ちゃん、村の中の光る場所も探すよ~」

「そっちは、あまり期待しないで。村の中で光る場所なんて早々無いでしょ」


 まず最初に村でニワトリを飼っている家を訪ねる事にする。個人で飼育しているだけなので、そんなに数が居るわけじゃないが、お祝い事の時などに卵と収穫物を物々交換する事はしてくれている。

 メニュー欄から交換してくれそうな物を見繕っていたが、どれが良いか女性陣に質問することに。


「ねえ、卵と物々交換してもらうと思っていくつか見繕ってたんだけど、何がいいかな?蜂蜜と魚と芋のどれが良い?」

「ん~?今日収穫したお芋で良いと思うけど」

「あれだけ甘い芋なのだから、それで良いと思うわよ」

「そっか、芋の方が良いならそれにしとく」

「そもそも何で蜂蜜が候補にあるのよ。中々手に入らないじゃない」

「加護で簡単に取れる事が分かったんだよ。だから、出来るまでに時間の掛かる芋よりも、手に入りやすいって言うか何というか…」

「……後で、はちみつ頂戴」

「うん、芋と一緒に届けるよ」

「お兄ちゃん、私には?」

「え?母さんに渡してあるけど?いるの?」

「いるに決まってるでしょ。お母さんが仕舞ってたら自由に食べられないじゃない!」

「でも、見つかって取り上げられるまでが想像できるんだけど」

「むぅ~~、じゃあ、お兄ちゃんが預かってて」

「今の状態と同じだろう…、欲しければ渡すから」

「それなら良し!!」


 道すがら交換品の話をし目的地へと到着する。この時間なら家の近くに居るだろうと辺りを伺うと、庭先で日向ぼっこしている姿を発見する。

 その姿を見つけると、ニーナが先行して挨拶に向かっていく。


「リネットおばあちゃん、こんにちは~」

「おや、ニーナちゃん、こんにちは。それに、タイチちゃんにフェリスちゃんも」

「「こんにちは」」

「今日はいったいどうしたんだい?3人一緒だなんて珍しいね」

「実は卵を少し分けて貰えないかと思って来ました」

「そうかい、そうかい。でも、どうしようかね。今日の分はもう分けてしまったばかりでね。庭にある茂みにまだ残ってるかもしれないけど、探してみるかい?」

「探していいのならお願いします。もちろん見つけたら、報告するので」


 そう声を掛けて庭の茂みに向かう3人。ざっと見た感じでは卵が見当たらない物の、光る場所が3カ所ほど見つかっていた。

 やはり光る場所が気になる為、集まって小声で相談することに。


「ねぇ、卵は見つからないのに光る場所があるって言うのは、どういう事なの?」

「何かしら素材が手に入るって事だけど、ニワトリの居る庭だから、卵が取れそうな気もするけど…」

「家の近くみたいに胡椒だったりするのかな?」

「試してみるしかないね。誰がやる?」

「言い出しっぺでしょ」

「だよね」

「了解」


 茂みの前に移動し、採取作業に移る。何もない茂みでゴソゴソ動いている姿は、言い訳に困りそうだとフェリスは感じるが、こればかりはどうにもならない。

 1カ所目が終了した時点で、収穫物の報告を声を潜めてする事になる。


「光が消えるまで収穫し続けたんだけど、結果は」

「結果は~?」

「卵が18個です」

「ちょっと、多すぎるわよ!!」

「どうしようか?1個見つけましたと言うには、良心が咎めるんだけど…」

「まだ1カ所目だよね…」

「残りも一応やっておくか…」


 再び採取作業を進めると、数の違いはあるものの全ての場所で卵が手に入るのだった。


「どうしよう、報告しにくい…」

「なんで、こんなに一杯になるまで取ったのよ?」

「お菓子作りには、卵が大量に要るんだよ」

「あぁー、作ってくれる約束も考えた上で一杯取ってくれたんだ」


 悩んでいる3人の後ろから、いつの間にか近づいていたリネットおばあちゃんから声が掛かる。


「どうだった?この辺りは朝に取ったから無いと思うんだけどね」


 ビクッと体を震わせて3人の様子に、何かが合った事を直に察してくれる。


「何やら言うと拙い事でも起きたんだね。タイチちゃん、加護の力とかが関係してるのかい?」


 コクコクと頷く3人に、改めて質問を投げ掛けてくる。


「それで、卵は落ちていたかい?加護の方は別にしていいからね」

「あ、それなら無かったです…」

「タイチちゃん、それだと加護の力だとありましたになるからね。気を付けなさいな」

「あ、はい…」

「あの、おばあちゃん、卵どうすれば良い?」

「そうだね。ニーナちゃんは卵が必要なのかい?」

「うん、料理に使いたいから必要なの」

「そうかい。ん~、もし出来上がって、お裾分けしてもらえるなら持って行って良いよ」

「本当♪?」

「ああ、そうさね。今みたいに笑顔でいてくれないと寂しいからね」

「おばあちゃん、ありがとう!!」


 ニーナはリネットおばあちゃんに抱き着いて感謝を表している。タイチはフェリスと顔を合わせた後、交換に出すものを改めて相談する。


「フェリス、全部でも良いよね?」

「もちろん、ただ食べきれる量にしなさいね。逆に迷惑になっちゃうから」

「わかった。それじゃあ、喜んでもらえる量を聞かないと」


 タイチは、リネットおばあちゃんと希望する量を相談して渡すことを伝えると、実際には無いものに交換する必要はないと断られるが、ニーナのお願い攻撃によって受け取ってもらえることとなる。

 その時の受け取った量に、「これは大量だね~」との感想を頂いたが、気にしないことにした。

 さて、次の採取はどうなるのやら。


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