第27話 焼き芋のお味とお願いと

 迂闊うかつにもメニュー画面に表示されたレシピを口に出した事で、2人のお願い攻撃を受けて作る約束をしたタイチは、まず焼き芋を作って渡す事となる。


「2人とも、焼き上がったから渡すけど、熱いから気をつけてね」

「ありがとう。食べなれたお芋でも、作り方が違うと味も変わるのかしら?」

「おいも♪おいも♪」


 そう言えば、焼き魚はいつもより美味しかった事を思い出し、焼き芋の出来にも期待ができる。芋の熱さに注意しつつ、いざ食べる事に。


「うわ〜、ナニコレーー!」


 2つに割って食べようしていたらしく、綺麗な色合いの可食部分がまず目に入ってくる。自分の分も割ってみるが、今まで食べた物とと全く違う「色・艶・匂い」の出来に、唾を飲み込む。

 早速、味の確認と思った所で、フェリスに後ろから肩を思いっきり叩かれる。


「ちょっと、痛いって!」

「もうもうもう、何なのよ!この焼き芋は!」

「何なのって言われても、調理を選んで作っただけだけど…」

「私の所で作った物と、見た目も味も全然違うじゃないの!!」

「え~~、そんな事言われても…。もらった物を作付けしてるよ。」

「うちのは、こんなに甘くないしぱさぱさした感じの物ばかり食べてたのに、これはしっとりしてて甘いのはズルいじゃない!!」

「そんな事を言われても、加護の力で作りましたとしか言えないよ」

「フェリスちゃん、あんまり深く考えたらダメだよ。お兄ちゃんの加護の力て結構おおざっぱだから、気にしちゃダメ」


 ニーナによるどうにもならない説明に、フェリスは頬を膨らまして睨みつけてくる。理不尽だ。貰った芋を作付けして増やしただけなのに、拗ねられるとは。


「フェリスも自分の加護があるから、その内同じような芋が収穫できるんじゃないかな?」

「違ったら?」

「あ~、その時はどうしようか」

「その時は、お兄ちゃんの貸し出しで、何とかするとか?」

「貸し出されても、その畑で取れた物しか収穫できないでしょ…。あれ?本当に同じ物しか収穫できないのか?」

「ちょっと、そこで考え込まないでくれる。違う物が取れるって事なの?」

「え~と、いま加護の倉庫の中に、今日収穫した物があるよね」

「そうね」

「これは、全部同じ芋の扱いになってるんだけど、他の畑の芋を収穫した時に、別の種類になるのか、それとも全く同じ分類になるのかまだ調べてないって気が付いたから」

「もし同じだと、今食べてるのと一緒の物になるって事?」

「そうなるね」

「……収穫場所で違うのか、作った人で違うのか、それとも収穫の時で判定されているのか、全部分からないって事なの?」

「今の状態だと調べようがないからね」

「ねえ、フェリスちゃん、あまり深く考えない方が良いと思うよ。収穫して同じなら得した位に考えていた方が心が楽だし」


 何とも言えない表情のフェリスを横目に、ニーナは焼き芋をどんどんと食べ進めていく。


「あったかい内に食べた方がいいと思うよ。このお芋なら冷たくなっても美味しいとは思うけど、勿体ないじゃない」

「そうだな。フェリスも止まってないで食べよう」

「止まる原因は貴方なんだけどね」


 そう言葉にしつつも、焼き芋を食べる事にしたようだった。

 先ほど、仕舞った焼き魚が温かいままなのか、確認するために取り出すと、しっかりと温かいままな事を確認できた。


「お兄ちゃん、焼き芋と魚の食い合わせは、美味しくないと思うけど」

「いや、食べる為に出したんじゃないから。温かいままかどうか調べようと思っただけだから」

「あぁ、そう言う事なのね。それで、結果はどうなの?」

「温かいままだった。なので、加護の中に仕舞うと、時間経過して居なさそう」

「つまり、収穫した物をそのまま入れたままに出来るって事よね」

「と言う事は、お兄ちゃんは動く倉庫って事だね♪」

「その言い方、嬉しくないんだけど…」

「その加護の中に仕舞えるのって、限界はあるのかしら?」

「あ~~、ん~~、仕様がいくつも違うから、一杯入れられるのもあると思う」

「なんだか曖昧だけど入れ放題って事ね」

「じゃあ、じゃあ、そこら中の光る場所を巡って、いっぱい収穫しようよ」

「家の畑仕事が終わってからな」

「それじゃあ、私も家の用事を終わらせたら来て良いかしら?」

「あぁ、一緒に探索しよう。それに、手伝いの終わった方が、相手の家か畑に向かうって事で」

「えぇ、分かったわ」

「フェリスちゃん、また後でね~」


 各々の家の手伝いへと移動する3人。目的地も決めずに居るため、村の中を移動して採取場所を探すことも考えていなければいけないのだが、タイチは微塵も考えていなかった。それに引き換えニーナは、ここ数日で採取をしているにも関わらず、調理の材料が足りないと言った言葉を聞き逃していない為、家畜のいる家々を探る気でいた。

 手伝いの最中、いつもの様に雑談をしながらの作業だった。タイチは、いつも同じような問題は起こさないとばかりに、事前に大よその収穫量と焼き芋の試食を両親にしていた。そんな中でのやりとりであったが、報告漏れがニーナによって伝えられてしまったのだった。


「ふん♪ふん♪ふふ~ん♪」

「あら、ニーナ何か良いことでもあったのかしら」

「お母さん、お兄ちゃんがね新しい料理を振舞ってくれるって約束してくれたの」

「へぇ~、新しい料理ね~」

「あれ?もしかして、お兄ちゃん、さっき焼き芋と一緒に報告してなかったの?」

「聞いてないわね。ニーナは、どう言う料理か聞いているのかしら」

「ううん、料理の名前しか聞いてないよ。でも、作るのには最近手に入れた素材だと材料が足りないって言う事だけは聞いたよ」

「塩と胡椒、イチゴに葡萄に蜂蜜、それに魚だけだものね。それの中から作るのは難しいわよね」

「違うよ。お芋が中心の料理だったから、きっと甘いものだよ」

「焼き芋があれだけ甘くて美味しかったのに、それを料理するって見当もつかないわね」

「だからね、今度は村の中を回ってみて、材料の足しになる物を探すの。もちろんフェリスちゃんも一緒に」

「ニーナ、加護の力が広まらない様に、注意深くやりなさい」

「うん、それはもちろん!」

「それと、できれば私にも料理のお裾分けをお願いね」

「は~い♪」


 勿論、2人が話している内容は離れて作業をしているタイチと父カインの耳には入ってはいない。何かと食べ物への試食候補から漏れるのは、どこの父親も同じ境遇な気がする。

 そんな離れた所では、こんな会話がされていた。


「なあ、タイチ。お前さんの加護は、農作業や素材集めばっかり目立ってるが、他にはどんな事が出来るんだ?」

「どんなって言っても、色々あるけど、どのくらい聞きたいの?」

「どの位って、どの位?なのか分からんのだが…」

「えーと、前に言ったと思うけど、この世界の地図がみれて、どこの種族が戦いに向かってるとか、職業を選択すれば戦士にも魔法使いにも聖騎士にもなれたり、お金があれば家も建てられるし、戦闘用のロボット、じゃなくて、戦闘機械でもわかりにくいから、戦闘ゴーレム?が買える」

「聖騎士になれるとか、ゴーレムが買えるとか初耳なんだが…」

「職業が一杯あるとは教えてたけど、細かい職業の内容は言ってなかったかもしれないね」

「まあ、職業は設定して貰えば確認できるか…。で、ゴーレムについてはどうなんだ?」

「分かりやすい説明なら、中に乗り込んで甲冑の様な感じで動かせるはず。モンスターとかに武器が効くのか分からないから、何とも言えないけど、加速して蹴ったりすればオーガ位倒せるんじゃないかな?」

「オーガって言ったら、かなり強い部類じゃないか。十分だろう」

「ただ、高すぎて買えない」

「高いって、どれくらいだ?家よりもか?」

「家の値段が$100って単位だったけど、こっちのは平気で$2,500,000とか付いてたりする」

「なんじゃそりゃ?桁が違いすぎるだろう」

「うん、だから加護の中のオマケの部類だと思うよ」

「中に入って動かすだけなんだろう?どうしてオマケ扱いなんだ」

「この世界で暮らしていく分には、全く必要のないハズの存在なんだよ。あ~、大きさとか見た目が分からないと疑問になるよね。え~と、この辺だと教会より大きいから」

「はっ?」

「だから、教会よりも背の大きい甲冑だと思って」


 その後もゴーレムと説明した、搭乗できる戦闘兵器の説明をする羽目になるが、仕事の終わりが見えた事により、タイチはニーナを連れて逃げ出すことを選択する。

 

「それじゃあ、一通り今日の作業が終わったから、フェリスを迎えに行ってくるよ!ニーナ、いくよ!!」

「あ、は~い♪いってきま~す」

「タイチ、帰ったらちゃんと報告しなさいね。ニーナ、監視よろしくね~」

「また加護の内容を教えろよ~~」


 一見、説明から逃げれたように見えるが、より注意が必要な探検が待ち受けているとは考えていないタイチであった。


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