第29話 ミルクの判定
リネットおばあさんの家を後にし、次の採取に向かう3人だったが、どの動物が採取の判定になるのか分からない為に、歩きながら相談となった。
「次はミルクで良いんだよね?」
「そうだね、この場合、何処からミルクを手に入れるかになるけど」
「ん?ヤギとかウシじゃないの?」
「そうなんだけどね、ほら牛の獣人のスタシアさんが偶にお裾分けしてくれる時があるだろう」
「あぁ、お乳を搾らないと体調が悪くなるからって、いつも搾ってるミルクの事ね。タイチはそっちがお好みなのかしら?」
女性陣の好感度が下がった気がするのは気の所為じゃないよね。ただ、ミルクの判定はどこまで有効なのかって話をしてた筈なのに…。
このままだと状況だけ悪くなると判断し、タイチは弁解を試みる。
「いやいやいや、そうじゃないよ。スタシアさんのじゃなくて、ウシの牛乳が好きだよ!うん」
「あら、タイチ君は私のミルクが嫌いなのね」
ニーナとフェリスに正面から問い詰められる形となっていた為、後ろから突然声を掛けられた事に混乱する。慌てて後ろを振り返ると、いま話題に挙がっていた人物がそこに立って居た。
「スタシアさん?!なんで此処に???」
「偶々通りかかったのよ。フェリスちゃんとニーナちゃんは気が付いていたみたいだけれど」
スタシアによるネタ晴らしによって、2人に
「2人とも、そう言うイタズラは感心しません…」
「あははは、ごめんなさい。スタシアさんの名前を出したから、気が付いてたのかと思って」
「おにいちゃんが慌てるかな~と思って♪」
「あのね、すっごく胃がキューっとしたんだけど」
「それでタイチ君は、私のミルク嫌いなのね?」
「いえいえいえ、大好きです!!」
状況的に一番言ってはいけない言葉をサラリと放つとは、空気の読めない男である。直にその台詞の代償が襲ってくることを考えていない様だった。
スタシアも分かっているのに、イタズラを仕掛けてくるとは無慈悲である。
「いっっってぇーー!!」
タイチは、二の腕の裏側を左右から思いっきり
「ごめんね、タイチ君。男の子だもの、急に言われたらそう答えるわよね。2人ともごめんなさいね」
「いえ、スタシアさんが謝る事じゃないです」
「そうですよ。お兄ちゃんが何も考えてないのがいけないんですよ」
「理不尽だ……」
腕をさすって痛みに耐えていると、スタシアから質問がくる。
「それで、ミルクの事を話していたみたいだけど、必要なのかしら?」
「えぇ、ミルクを使って試してみたいことがあるので」
「どこで貰うか相談してたんですよ~」
「それなら丁度よかったわ。今日搾った分が家にあるの。良ければ貰ってくれないかしら」
「ありがとうございます。お返しに何か持ってきますね」
「うふふ、無理のない範囲でお願いね」
スタシアの申し出によりミルクの入手先が出来たが、このミルクがどの様に判定されるか分かっていなかった。
ミルクを入れる物を用意してから向かうと伝えたが、今入れている物をそのまま持って行って良いとの答えが貰えた為、4人でスタシアの家へ向かう事となる。
「それにしてもスタシアさんが出歩くなんて珍しいですね。いつも子どものお世話で忙しそうなのに」
「あら、タイチ君は、そんなことを心配してくれるのね。今日はね、うちの人が息抜きに行っておいでって言ってくれたのよ。それで、お友達の家へちょっとね」
「キースさんがですか?素敵ですね、気遣ってくれるって」
「うふふふ、私の事大事にしてくれるから」
スタシアは、キースと言う同じ種族の男性と所帯を持っており、結婚してから数年経た今でも新婚の様なやり取りをしていた。これは村の中で知る人は知る情報だった。
タイチも噂には聞いていたが、話を振っただけで簡単に惚気を聞かされるとは思っていなかった。
「お兄ちゃんもキースさんみたいに成らないとダメなんだよ?」
「そうね、奥さんを大事にしないと」
後ろを歩いている2人から自分たちも大事にする様にとの催促らしき言葉が飛んでくる。
「おかしいな。2人に料理を振舞う為に食材集めをしてた筈なんだけどな~」
「あらあら、2人とも。大事にされる為には、相手も大事にしないとダメよ?タイチ君が料理を作ってくれるのでしょう?」
「うっ、わ、分かってます」
「お兄ちゃんは、ちょっと気を抜くと別の女の人を口説く可能性があるから、先に注意です」
「そうなの?タイチ君」
「濡れ衣です。そんなに口説くのが上手かったら、もっと女性に囲まれてるでしょう?」
「ウソですよ~、ミリアお姉ちゃんとヨミちゃんからの好意があるって知ってるので~」
「ッ、チョット?!何て事を言い出すんだよ!」
「え~、事実じゃん」
「あら~、タイチ君は罪作りね~」
スタシアは、クスクスと笑ってくれて居るが、確定してない事を言いふらされても困る事になる。
焦るタイチに対して、スタシアは現状を楽しんでいるのが見て取れる。
「違います、ちょっと特別な情報がそれっぽい事だったので、ニーナは勘違いしてるんですよ」
「あら、それっぽい情報なのね。今度、噂の2人に聞いてみるわね」
「スタシアさん、本当に勘弁してください。お願いします」
「って、事らしいけど、2人はどうなの?」
「ん~、知りたいけど増えるのが確定しそうで、何とも言えないかも」
「出来れば聞かないで下さい。タイチの周りに人が増えると村の人をもっと巻き込みそうなので」
「なんだか2人とも大変そうね。お手伝いできるなら言って頂戴ね」
「ありがとうございます。スタシアさん」
「できれば、お兄ちゃんの指導もお願いします」
「うふふふ、タイチ君もしっかりね」
「…はい」
タイチは、内心で「解せぬ」と思いつつも心の中に飲み込んだ。
その後も、タイチを
「ちょっと待っててもらえるかしら、今、ミルクを持ってくるから」
「「はい、ありがとうございます」」「は~い」
待っている間にニーナが、余計な事を質問してくる。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?なんだ」
「スタシアさんのお乳も採取出来るの?」
「おい!」
「あら、私も知りたいわね」
タイチは焦りつつも声を落として素早く答えていく。
「おいおいおい、近くに居るんだからそんなこと聞かないで貰えるかな」
「出来るか出来ないかだけじゃない。やって欲しいなんて言ってないんだから」
「出来るか出来なかだけなら……。たぶん、出来る…」
「人でも良いのね…」
「判定が曖昧な部分だから…」
「あ~、スタシアさんは配るほどお乳が出るからかな?」
「それでいくと、畑と同じ様に倍以上になるのかしら?」
「そろそろ、この話は止めにして貰ってもいいです?」
中からこちらに向かう気配を感じた為、タイチは話を切る方向へ進める。
ミルクを持ったスタシアと、子どもを抱いたキースがやってくる。
「やあ、3人とも久しぶり。スタシアのミルクが必要なんだって?」
「「こんにちは~」」
「キースさん、こんにちは。料理に使わせて貰おうかと思ってて」
「へぇ~、もし良ければ今度スタシアにも教えて貰えないか?」
「えっと、はい。スタシアさんは、ミルクを使った料理はどんなものを作ってますか?」
「私が作る物で言ったら、ミルク粥とかお味噌の代わりにミルクを入れてスープを作る位かしら?あとは飲むだけよね」
「そうすると、料理の応用に使えるソースみたいな物はどうですか?」
「ミルクをソースにするなんて考えたことも無かったわね」
「いえ、スタシアさんが知っている料理方法かも知れないので、都合の良い日に一から作り方の確認をしませんか」
「えぇ、それでお願いするわね。もし良ければ、明日とかでもどうかしら」
「はい、今のところ予定は無いので大丈夫です」
「タイチ君、ありがとう。料理の幅が広がるとスタシアもやりがいがあると思うから」
「あぁ、これを渡してなかったわね。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。大事に使わせて貰います」
スタシアからミルクを受け取り、お菓子作りに一歩近づいたが、予定になかった料理のレシピの依頼も増えてしまう。お菓子のレシピでは食事をすると言う部分には向かないので、ホワイトソースの麺類を予定しておく。
タイチは安易に決めているが、ミルクを使用した麺類は中々思い付く様な手順ではない為、どの家庭もミルクを入れただけのスープが一般的だった。
「ねぇ、タイチ。あなたミルクを使った料理って、そんなに知ってるの?」
「一応ね。昔にミルクを使った料理を知る機会があったから」
「昔って?…あぁ、昔なのね」
「そう言う事」
「なんだか意味深なやり取りをしているのね。ニーナちゃんは仲間外れになってない?」
「大丈夫ですよ。フェリスちゃんより知ってるので」
「うふふふ、知っても大丈夫な事だったら、今度教えてね」
「その場合、秘密の仲間に、キースさんも巻き込みますよ~」
「おや?僕もかい?それは大変な秘密になるね」
「ニーナ、その辺で口を閉じようか。お二人とも、巻き込まない様にしますから、今は聞かないで下さい」
「タイチの加護が絡むので、お願いします」
「何やら深刻なようだね。何かあったら力になるから遠慮せずに相談するんだよ」
「はい、その時はお願いします」
別れの挨拶をし、スタシアとキースの元から移動を開始する。
目標のミルクは手に入ったが、量的に言うならば 500㎖と言った所になるだろう。この量を上手く利用して作るには、小分けにして調理が可能なのか試す必要がある。
3人は追加でミルクの入手をするのか、それとも小分けにして合成が成功するのかを相談する事ととなる。
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