第30話 3人寄れば文殊の…

 ミルクを手に入れた後、ひと先ず人の目の付かない木陰に移動してから状況を確認する事に。


「この量だと1回の調理の合成で使い切る気がするけど、どうしようか」

「思ったんだけど、魚の塩焼きの時も、1壺分の塩を使ってたじゃない?」

「そうだね、何であんなに使うのか謎だけど」

「で、普通に作る場合、そんなに塩を大量に使わないでしょ」

「うん」

「だから、小分けにしてみるのはどうかしら?」

「ミルクも塩も少しだけにして大丈夫か試すって事か。物は試しだし、やってみるよ」

「ところで、入れ物ってあるの~?」

「あ~、コップと小皿に、鍋も作ってみるかな」

「……食器や調理道具まで作れるのね」

「まあ、色々と作れるね」


 タイチは木製のコップと小皿を5個づつに、鍋を1つ作り始めた。

 横から見ていると、光っている部分に対して手を動かしている姿が見えるだけど、何をしているのかさっぱり分からない。

 一通り合成が終了した所で、出来上がった容器と小皿にミルクと塩を分けていく。

そして分けた品を再びアイテム欄へ戻す時がやってきた。


「このままミルクって判定してくれると良いな~…」

「大丈夫じゃないの?お兄ちゃんの加護って、大雑把なんだし」

「いや、食べ物を小分けにしてると、ミルク(小)とかで量が減った状態で出るかも知れないし」

「タイチ、取り合えず仕舞ってしまいましょよ。それから考えれば良いことだし」

「分かった、(小)とか付きませんように」


 いざ小分けにした物を仕舞ってみると、ミルクに関しては大丈夫であった。また、塩に関しても、量が極端に少ないものは(小)と表記が付いたくらいで、大よそ問題なく正常な品として判定が下された。


「ふぃー、良かった。普通にコップ1つ分でもミルクって判定してくれたみたい。これなら、5回は試せそうだね」

「もしそうならなかったら、ウシかヤギから乳しぼりになってたんだよね?」

「それならそれで、採取の加護が働くから、いっぱい取れたんじゃないかな」

「そっちもどれ位採れるのか興味が出てくるわね」


 取り合えず複数回合成の目途が立ったが、実際にミルクを搾る場合の恩恵も捨て置けない状態になっている。

 ミルクをバターにするのか、チーズにするのか、それとも生クリームにするのかで作れるものが変わってしまう。

 そう考えると、5回の合成の機会と言うのは、もの凄く縛りのある状態とも言える。


「それで、何を作ろうか?バターが必要な物だと、それだけでミルクが1つ使用する事になるけど」

「と言う事は、ただ単にミルクを使用するだけだとダメなのね」

「そうなるね。他にもチーズや生クリームにするとか色々料理の幅を広げるなら、いまの量だと1個分のお菓子を作るので終わるかもしれない」

「ねぇねぇ、普通にいくつも名前が出てるけど、バターもチーズも生クリーム?も作れちゃうの?」

「合成の調理の中にあるから作れるけど?」

「それを1個づつ作って小分けにする事は出来ないの?」

「あ~、どれ位の量ができるんだろうな?目的のお菓子より、途中の材料の方を増やした方が良いかな」

「ダメだよ、お兄ちゃん!お菓子はいるの!!」

「お、おぅ。それじゃあ、ミルクを追加で手に入れないといけないかな」

「その前に、どんなお菓子を作ろうとしていたのかしら?そのお菓子に必要な物を優先しないと、何時までたっても食べられないじゃない?」


 そこでタイチは考えていたお菓子のメニューを伝えていく事になる。一番アイテム欄の中に持っている芋を中心にしたお菓子を予定していたが、小麦が手に入ればケーキの方向も目指せる状況にある。


「さっきまでメニュー画面で小分けにして収納してた時に、砂糖が欲しいと思ってたら、メープルシロップで代用出来そうなことが分かったんだよ。だから、スィートポテトって言う芋のお菓子か、それとも小麦を手に入れてケーキを作るかで悩んでる」

「お菓子の候補が複数あるのは分かったけど、私達食べた事が無いからどんなものか分からないんだけど……」

「あ、ごめん…。え~と、収穫した芋にミルクと卵と砂糖を使って甘く焼いた物がスイートポテトで、小麦と卵と砂糖でスポンジって言うふわふわなパンの親戚の様なものに、ミルクを使って作る生クリームをあんこの餡の様な状態にして、スポンジに塗って果物を乗せた物を、基本のケーキだと思ってる」

「タイチ的には、どっちかが良いだろうって事なのね」

「そうだね」

「お兄ちゃん、どっちが美味しいの?」

「どっちもかな~。人の好き好きがあるから、何とも言えなけれど。砂糖をふんだんに使ったお菓子になれていないから、スイートポテトの方が食べ易いかも知れない」

「じゃあ、両方で♪」

「おい!どっちって聞いたのに両方なのか」

「小麦があれば、2つ作れるんでしょ?じゃあ、試さないと」

「はぁ、しょうがない。家に戻りつつ、昨日取った巨峰の所によって行くよ」

「は~い」「付いて行けばいいのね」


 一旦家路に戻りつつ、昨日の巨峰を収穫してケーキの材料として予定を立てていく。ケーキの材料にする前に食べつくされそうな気がしなくもないが、アイテム欄にいくつか隠して置けばいいかと、判断を切り替える。

 隠して持っていると後で色々と言われそうだが、知らなければ問題なしとたかくくる。

この判断が吉と出るか凶とでるかは、タイチの反応によるだろう。


 予定の物を収穫後、家に戻った3人はタイチの調理の準備へと取り掛かる。


「取り合えずバターと生クリームを1個づつ作って様子をけど、それでもんだいないかな?」

「作れるかどうかの確認なのだから良いんじゃない?」

「ごー、ごー♪」


 女性陣の許可が出た事を確認し、目的のバターと生クリームを完済させていく。

両方の材料が完成した所で、小麦を使わずに作れるお菓子が自分を忘れるなとばかりに、メニュー画面の端の方でお知らせの様に表示される。

 そのメニューをみたタイチは、一言女性陣へのうかがいを取る事に悩んだが、その前に顔の動きをみられていた為、説明を求められる事となる。


「タイチ、顔が一瞬「失敗した」と取れる口の開きをしていたのだけれど、何かあったのかしら?」

「そうだよ、お兄ちゃん。眉に皺が入った後、動きを止めたよね」

「あの、2人共、そんなに細かい動きで、心の動きを読むのをやめてくれない?ちゃんと説明するから」

「それなら良いのよ。あなたって判りやすい行動ばかりしているの気が付いて居るでしょ?」

「そうそう、分かりやすいよね~」

「なんとなくわかりやすい行動をすることがあるとは思ってるけど、そんなに気づくものかな…」

「分かりやすいから言われてるんじゃないの。それよりも、ほら、何があったの?」

「え~と、小麦を使わないケーキ以外のお菓子が表示されたから、どうしようかと考えたんだ。名前はプリンって商品で、つるんとした触感のお菓子だよ。一番近いのは、茶碗蒸しかな」

「……材料が足りないって事ね」

「そうなるね。小麦も必要ないし作り易さも、こっちの方が簡単かな」

「フェリスちゃん、どうする?明日、ミルクを追加で貰いに行くしかないと思うんだけど」

「連日スタシアさんから貰うのも悪いから、ウシやヤギのを中心に集めましょう。タイチはスタシアさんに料理を教える約束しちゃってるし」

「そうだった。お兄ちゃん、スタシアさんに今のお菓子も教えるの?」

「どうしようか?ミルクと卵と砂糖の3つだけで、簡単に作れるんだよね」

「砂糖があるだけで、簡単じゃないと思うけれど…」

「あ~、簡単に代用品が作れる様になったから、意識が少し低くなってる気がする」

「そういうところが分かりやすいって事だよ。お兄ちゃん」

「……分かった。で、どっちを作る?」

「全部♪」

「おまえはそう言うヤツだったな…。材料を机の上に並べるから、ミルクと同じ様に分かられるか一緒に考えるよ」

「そうね、大量に消費して1個しか作れないのじゃ勿体ないし」


 机の上に、完成したばかりのバターと生クリームを並べていく。アイテム欄と実際に取り出した材料とでは、見て取れる量に差が出ていた。


「ねぇタイチ、凄く気になるんだけど。あんなに少ないミルクで、こんなに多くのバターと生クリームって作れるものなの?」

「無理だね…。全然量が多くなってる」

「この量なら、分割しても作れるんじゃないの?」

「スイートポテトとケーキの分はこれで賄えると思う。物は試しだからやってみよう」


 言うが早いか早速スイートポテトを作り上げてしまう。台所にある小麦も小分けにし後アイテム欄に移動させ、ケーキの合成を開始する。

 イチゴの代わりに巨峰を使った豪華な物になっているが、女性陣2人はまったく知らないのが怖い所。このケーキが基準になった場合、他の果物で納得してくれるか今一不透明な所となる。

 


「今ので、どちらのお菓子も作れたからミルクに余裕がまだあるよ」

「それは分かったから、早くお菓子を出してくれないかしら?完成って言ってもあなたの加護の中のままだから、どんな物なのか分からないのよ」

「はやくはやく~」

「はいはい、それじゃあ、こっちがスイートポテトで、こっちが巨峰のショートケーキだよ」


 目の前に取り出される淡い焦げ目の付いた芋の甘い匂いのお菓子と、白い台座に巨峰が飾られたホール1つが取り出される。


「うわ~、お芋の匂いがすご~い♪白い方も綺麗~」

「ほんと、良い匂い。これは凄く楽しみね」

「良かった、スイートポテトも6個だし、ケーキも1ホールできて助かったよ」

「ん?どう言う事なの?」

「スイートポテトの方は1個しか出来ないかもって思ってたから」

「なるほどね。あなたの加護が大雑把で助かったわね」

「本当だね、1個づつ作ってたら材料が足りなくなる所だったよ」

「ねぇ、ねぇ、食べて良い?」

「1個だけね、ケーキの方も切り分けるから待ってて」


 目の前の完成したお菓子にテンションの上がっていた3人は、両親が戻ってくることを失念したまま食べ始めようとしていたのだった。


------------------------------------------------------------------

ご覧いただきありがとうございます。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る