第31話 最後の1つの行方は
さっそく完成したお菓子を食べ始める3人は、それぞれの感想が異なった。
「ん~~、このお芋のお菓子、口の中でお芋の匂いが広がって、凄く美味しいわね」
「こっちのケーキの方はフワフワの台座と、巨峰の甘さと白いクリームが一緒になって、口の中が幸せ~~♪」
「あ~、ちゃんとした砂糖じゃないから、少しメープルの匂いと味が残っちゃってるね」
「…ねぇタイチ、こんなに美味しいのに不満なの?」
「そうだよ、まるでもっと美味しいって知ってるみたいだしって、知ってるんだ!!」
「あ、え~と、うん、これよりもメープルの匂いと味がしない方が、個人的には美味しく感じるから…」
「ズルい!!お兄ちゃんだけ食べた事があるなんて!」
「ズルいも何もないだろう!前の人生だよ!!」
「あ、そっか、今はまだなんだっけ」
「やっぱり前の記憶があるって言うのも、良い事と残念に思う事の両方あるのね」
「そうだね。2人みたいに出したお菓子が美味しいって、素直に思えない所とか残念かも知れない。まあ、それよりも良い物を知ってるから、より美味しい物を出せるって思うと良い事だって思えるかな」
「本当にごちゃまぜの感想になるんだね」
「それに、生活が楽になる方法を知ってて、加護の力で何とかなりそうなのも嬉しいし、料理も加護を使えば結構再現し易くなったから、2人の喜んでくれる姿を見ると嬉しくなるよ」
タイチは現状についての素直な感想を話したつもりが、2人にとっては口説いている様に聞こえたらしい。
それぞれが顔を赤くして言い返してくる。
「も、もう、何言ってるのよ」
「美味しい食べ物を次々とだして、離れると悲しくなる様にした人が何を言うのかな~」
「まだ、ほんの一部の料理しかだしてないから、楽しみにしてて」
そう言葉を伝えると残りの合成でプリンを作ろうとしたが、メニュー画面内で更に表示されるレシピがあった。『アイスクリームが作成可能になりました』とあった為、今度こそバレない様にとポーカーフェイスを貫く。
実際、お菓子の方に夢中になっていた為に、2人にはバレる事が無かったが、見られていたら同じことの繰り返しだった。
気づかれない内にプリンを作り、材料に余裕があった為アイスクリームも作り出す。合成が終わったところで、食べ終わった2人がこちらに意識を向けてきた。
「お兄ちゃん、さっき言ってたプリンも出来たの?」
「あぁ、作り終わったけど、今食べるのか?」
「え?食べるに決まってるでしょ」
「太るぞ」
ピシッとフェリスとニーナの動きが止まり、笑顔だった顔が厳しい物へと変わる。
タイチは、もう少しオブラートに声を掛ければ良いとは思ったが、お菓子の魅力にハマりかけている2人を現実へと引き戻す力としては十分だった。
「どうしてお兄ちゃんは、そう言う事を言うかな?!」
「そうよ、太るだなんて。もっと気を利かせなさいよ!」
「じゃあ、そのままプリンを出してたら、どうしてたと思う?」
「「ゔっ…」」
「2人して同じ反応をしてるって事は、気にせず食べてたって事だろ」
「仕方ないじゃない。初めて食べるお菓子なんだから」
「そうだよ。だからって、太るって言うのは酷いと思う」
「2人は働いているから大丈夫だと思うけど、これ以上食べると確実に太る方に天秤が傾くよ。残りは明日以降にしなさい」
「う~~、お兄ちゃんのイケず。鬼。悪魔。」
「そんな事言うなら、もう作りません」
「フェリスちゃ~~ん、お兄ちゃんがイジメる~~」
「もう、ニーナも今日は我慢しなさい。タイチもそういう風にイジメないの」
ニーナはフェリスに抱き着いてこっちを覗き見ている。フェリスもニーナの頭をあやしながらこちらを伺っている。何だか悪者にされた気分がするが、こちらが折れるしかないかとタイチは息を吐く。
「健康の為に注意してるだけだから。あとで泣きついても痩せる方法を教えないよ」
またしても2人の動きが止まり、タイチは凄い勢いで詰め寄られる。
「どう言う事。痩せる方法がある様に聞こえたのだけれど」
「お兄ちゃん、どうなの?!」
余りの剣幕に
「2人とも今のままで十分綺麗で可愛いから、そんなに食いついて聞くことじゃないと思うけど」
「そ、その評価は嬉しいけど、綺麗なままで居たい女性の気持ちを考えなさいよ!」
「そうだよ!最近お兄ちゃんの周りに女性が増え始めてるんだから、綺麗でいないと気を引けないでしょ!」
「あ~、それはありがとう。でも、そうするとお菓子の追加は、禁止だよね」
「オニ!!」
「どうしろと…」
そんなやり取りをしていると、玄関のドアが開き両親が帰ってくる。
詰め寄られているタイチを見つけると、母であるサーナはクスクスと笑いながら声を掛けてくる。
「あらタイチ、両手に花で楽しそうね」
「いや、違うから、詰め寄られてるだけだからね」
「詰め寄られるほど大事な場面だったのね。あなた、外で時間を潰して来ましょうか」
「それは良いんだが、詰め寄ってる2人の表情がそんな感じには見えないが、良いのか?」
「大事な話みたいだし、良いんじゃないかしら」
「お母さん、一緒に聞いておいた方が良いと思うよ」
「あら?どう言う事かしら」
「「痩せる方法をタイチ(お兄ちゃん)が知ってるって言う(の)んです!!」」
父であるカインは目に手を当ててタイチを見ない様に顔を逸らし、母さんは一気にタイチに詰め寄ってくる。
「詳しく説明して頂戴」
「あははは…、母さんは、そのままで十分綺麗だよ。無理に痩せる必要は無いと思うけど」
「あら、タイチにはそう見えるのね。ありがとう。でも、それとこれは違うのよ」
凄みのある笑顔が寄ってくる。左右もニーナとフェリスに塞がれている為、逃げ道がない。
「今までどうしてその話が出なかったのかしら?前から知っていたのでしょう?」
「痩せる必要が無いと思ってたんだよ。加護の力が現れるまで、普通に食べるだけだったでしょ。今日は、ニーナとフェリスにお菓子を出すって約束したからそうなったけど」
「あなた達、タイチからそんなに食べさせて貰ったの?」
今度は2人に意識が向いたようで、ホッとする。こちらからも説明をして状況を悪くしない様に手を打たなければと、追加で説明をしていく。
「2人はお菓子を既に2個完食してるんだよ。それで、これ以上食べると太る可能性があるからって説明した所で」
「だそうだけど、2人はどうだったの?」
「とっても甘くて美味しかった…」
「今まで食べた事のないお菓子でした。たぶん、あれほど素敵なお菓子を食べた事がある人は居ないと思います」
「それほどなの?タイチ、私たちの分はあるのよね?」
「もちろん取ってあるよ。夕食後で良いよね?」
「えぇ、ありがとう。2人がこれ程って事は相当すごいのよね」
「すごく美味しかったんですけど、タイチはこれ以上を知ってるみたいで」
「え?あなた達がべた褒めしてるのに、更に上があるって言うの…?」
「え~と、人によってはあるかも?」
「タイチ、ハッキリ言いなさい。どうなの?」
「チョコレートとかアイスとか、まだまだ再現出来てないのが一杯あります」
「……タイチ、お前逃げられないからな…。頑張れよ…」
「父さん…」
優しさとも哀れみとも取れる激励を貰ったタイチだが、何とも言えない表情をしていた。ただ、女性陣にはそんな事は関係ないとばかりに、話が戻される。
「で、どうすればそれを食べる事が出来るのかしら?」
「今は無理だと思うよ。アイスなら何とかなるかも知れないけど、チョコレートはカカオ豆が無いから作れない。加護の力に期待するしかないんじゃないかな」
「お兄ちゃん、探そう!」
「だから、無理だって」
「タイチ、ダインさんにも聞き込みをしましょうよ」
「分かったよ…。だけど、甘い物ばかりは太るって説明したよね?教えたお菓子はみんな気を付けないと太るよ」
そう言った途端に、母さんに頬を摘まみ上げられる。
「女性に太る太るって、言い過ぎよ。ちょっとは考えてから言いなさい」
「ごめんなふぁい。もっほきおふけていふから」
「分かればいいのよ。で、聞きそびれたけど、痩せる方法は?」
「結局そっちに戻るんだね…」
「当たり前でしょう。綺麗で居たいなんて、女性にとっては当然の事なんだから」
「え~と、甘い物を食べない゛っ」
言っている途中で頭をベシッと叩かれた。
「それじゃあお菓子を食べられないでしょう。別の方法があるはずよね」
「良く体を動かす事と、痩せるための体操?とか呼吸法かな。でも、一番効果があるのは、余計な物を食べないって事なんだけど」
「あなた、ここ最近美味しい物を私たちに出し続けてるのに、何を言ってるの」
「ごもっともでした…」
取り合えず覚えていた簡単な動きを伝えていく。
「まず、背筋を伸ばします。2つ目、お腹を上に引き上げる様にして、ゆっくりと呼吸をします。3つ目、肘を曲げた状態で大きく腕を回します。4つ目、胸の前で肘と肘がくっつく様にゆっくりと回します。これを毎日30回以上繰り返すと、太るのを止められるはず」
「はずってどうしてかしら?」
「いや、知識としては知ってるんだけど、試したことが無くって」
「あぁ、過去の知識なのね」
「取り合えずやってみて貰うと分かるんだけど、30回しない内に汗が出てくるよ。下半身に関しては、また別の運動なんだけど、椅子を使って足を上げたりするだけだから」
そう伝えた傍から腕を回し始めている。ニーナとフェリスが食べた分のカロリー消費で運動するのは分かるけれど、何で母さんまで今やってるんだろうか。
畑仕事をしているから、元々の代謝が良くて平気だと思うんだけど、黙っておいた方が良さそうだ。
予定回数を終わらせた時に、薄っすらと汗をかいているのを確認してたみたいだった。
「ゆっくりやる事で汗をかき易くなるから、水分はちゃんと取ってね。それと背中の筋肉の部分が一番痩せる効果をだしてくれるはずだから」
「これを毎日すると痩せるのよね?」
「う、うん。そのはずですよ?」
「これで、食後のお菓子を安心して食べられそうだわ」
やっと女性陣が落ち着いたので、時間的にも遅くなり過ぎない内にフェリスを家まで送り届ける事にする。
その後、約束通り食後に渡した後にデザートとして出したら、両親2人とも食べた事のない甘味にとても驚いていた。
残り1個づつ余りが出てるんだけど、誰に食べて貰うか考えておかないと。
このまま出したら揉めるし、勝手に食べても余計なトラブルを招きそう。
このままアイテム欄の肥やしにするか、それとも良いタイミングで食べてくれる人を見つけるしかないかと、考えているタイチでした。
「食い物の恨みは恐ろしい」と呟いて居たとか居ないとか。
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