第37話 本命の値段はオマケでした
色々と横道にそれた事により、まだスタシアのミルクを出荷箱に入れていない事に気が付いた4人は、少し強引な話題変更を経て軌道修正を
「と、ところで、巨峰じゃないショートケーキってあるのよね?」
「ショートケーキは、土台のスポンジ部分と上のクリームがあれば、中身は結構自由に変えれたはず」
「巨峰じゃないっていうと、この間食べたイチゴとか?」
「イチゴが一番基本形だね。ほかは、メロンだったり桃だったりマンゴーだったり、色々とフルーツを変えて楽しめるようになってる」
「……せっかく話題を変えて調子よくなってきたかもと思った矢先に、何で知らない果物の名前がいくつも出てくるの!お兄ちゃん!!」
「ちょっと、テンパってただけだよ。急いで説明して誤魔化そうと考えたから、つい喋っただけだから」
「で、その果物は美味しいのかしら?」
「それは勿論…、無理だからね。直に探してこいとか、無理だから!!」
「そんな酷な事は言わないよ~。どの辺りなら取れるの?」
「……桃は探せば近くで取れると思うけど、たぶん加護の力で採らないと甘くないと思う」
「「ふむふむ」」
「メロンは、まくわうりの仲間だったと思うから、加護の力でメロンって祈って収穫すれば行けるかも知れない…」
「ん」「それで」
「マンゴーは、南東のず~~と先まで行けば、取れるかも知れない」
「じゃあ、桃とメロンだね」
「頑張ってね。タイチ」
「タイチ兄、がんば」
「……鬼」
気恥ずかしさを誤魔化すために、ショートケーキついて喋り過ぎたのが原因のなので、何とも言えないもどかしさがある。
1人で探すのは無理なので、手伝って貰う事を前提に話を返す。
「あのね、これだけ広い土地を1人で探すのは無理だってわかるよね?せめて手伝いをして貰わないと、いつまでたっても見つけられないよ」
「大丈夫、匂いを辿って探すの手伝う」
「ヨミちゃん、ありがとう。で、そっちの2人は?」
「遠くならないなら手伝えるわ。家の仕事もしなきゃいけないし」
「お兄ちゃんと一緒に家の用事を終わらせれば、そこから開始だし」
「あぁ、予定にはいれてくれてるのか」
手伝うつもりある様なので一安心する。一番力になりそうなのがヨミの嗅覚と言う所が若干不安が残る。別の物を見つけそうで、ちょっと怖い。
「ねぇ、タイチ。いい加減スタシアさんのミルクを箱の中に入れましょうよ」
「そうだったね。じゃあ、入れるね」
全てのミルクを入れて欲しいと言われてなかったので、取り合えずコップ1杯分のミルクを箱の中に入れてみる。
「で、いくらって出たの~?」
「…¥3,000円」
「壺1個分の値段よね?」
「壺のミルクは、ウシとかのだったでしょ。スタシアさんのは、コップ1杯分」
「なんで、そんなに高いの…?」
「元々スタシアさんのミルク事体が高級品って説明されてたんだけど、ここまで高いと思わなかった」
「それを使ったお菓子を食べてたわけよね…。他のミルクで作ったお菓子との差が凄そうね」
「どうしようか、もう少ししか残ってない…」
「あれ?言ってなかったっけ?スタシアさんからミルク搾らせてもらえる約束してるの」
「その話知らないんだけど…、えっ?そんな約束したの?」
「うん」「この子は恐れ知らずで、
「その内、決めた日に採らせてくれるって。やったね♪」
「よくお願いできたね…」
「その時、お兄ちゃんはスタシアさんの家の前で待機ね」
「はっ?もしかして、加護の力で採取するつもりなのか?」
「そう説明してあるけど?」
「お・ま・え・な~~」
「だから恐れ知らずって言ったじゃない」
「自由にさせると、ニナッチは結構危ない」
スタシアのミルクが破格の値段だったにも関わらず、ニーナの予想外の行動に全てを上書きされてしまう。
スタシアのミルクを再び手に入れる事ができる機会が、比較的簡単に巡ってくることは運がいい事ではあったが、加護の力を使って採取するまで話が進んでいるとは思わなかった。
「それで、スタシアさんにはどれ位の事を話したんだ?」
「んと、加護の力を借りられることと、ミルクの採取量が倍になるかもって言うことだけ」
「本当に?」
「嘘なんか言ってないよ。ね、フェリスちゃん」
「えぇ、そうね。それ以外は言ってないわよ」
「そもそも、お兄ちゃんが自分で頼む事はしないでしょ。毎回、ミルクを下さいって頼みに行くのも変な目で見られるようになるし」
まさにその通りなのでぐうの音も出ない。
「ほら、それにもしかしたら、本当に胸を揉まずにミルクが手に入るかもしれないでしょ?そうしたら、肩を揉みますよ~って言いながら、ミルクが貰えるし」
「いや、それはちゃんと説明しないとダメだろう」
「そうよ、それは説明しないとダメだわ」
「ちょっと冗談を言っただけなのに、二人して突っ込みが早いよ」
「でも、半分くらいは黙ったまま貰えるかもと思ったろ」
「うっ、少し位はそう思うけど…」
「そもそも、人に対して加護の力を使ったことなんて無いんだから、どうなるかわからないだろう」
「じゃあ、スタシアさんに使う前に、自分たちで試せばいいじゃない」
「どうやって?」
「何かないの?お兄ちゃん」
「いきなり無茶ぶりしないでくれる」
「あ、でも、何かの加護の力が私たち3人に働いてるってニーナから聞いたわよ」
「……」
咄嗟にニーナに目を向ければ、同じ速さで目を背けて知らんぷりをしている。
「タイチ兄、ワタシ今日加護の力を見たばっかりなのに、何かしてたの?」
「…自分は何もしてないんだけど、勝手に加護の影響下には入ってたかな」
「どんな影響?」
「……」
「お兄ちゃんに好意を持ち易くなる加護?」
「え?お嫁さんになるんじゃなかったの?」
「フェリス…、そんな加護があったら、怖くて女性と話せなくなる」
「あ、そうよね。それじゃあ、ニーナの言ってるのが本当かしら?」
「半分正解で、半分違う…、好意的な行動か、相手の嫌がる行動だったかが視覚的にわかる。ただし、加護の画面に名前が出た人だけど」
「ワタシの名前がでてるんだ」
「…出てるね。まあ、ニーナが原因だけど」
その一言でヨミがニーナの前まで移動していく。ニーナは近づいてくるヨミに対して、悪びれた様子もなく堂々としている。
「ニナッチ、ナイス」「でしょ」
2人は「「いえ~い」」と掛け声を上げつつハイタッチをしている。
その姿に、タイチは頭の中で「?」を浮かべる。てっきり、文句の一つでも言いに行ったのだと判断したためだ。
「タイチ、あなた、ヨミから好意を持たれてるの、薄っすら知ってたでしょ」
「ま、まあなんとなく知ってたけど…」
「つまり、今の説明を聞くと、私たち3人は同じ土俵に居ますよって分かるのよ」
「あぁ、加護の画面に名前が出てるからか…」
「そうね、それ以外にもさっき出荷箱が見える様に、加護の影響下にヨミを入れたでしょ」
「PTに入れただけで、特に何か職業を付けたとかはしてないけどね」
「それでもよ。今まで見えていないものが突然見えるんだもの、結構衝撃的だと思わよ」
「フェリスもそうだった?」
「それはそうよ。だって、畑に光るものが急に見えるのよ。普通に生きてたらそんな事に出会えるわけないでしょう」
「そっか、やっぱり加護の中に入ると驚くんだ」
フェリスと会話をしている横で、ニーナとヨミはその加護の情報を更に共有していた。
「ほかは?」「ミリアお姉ちゃん」
「強敵」「だよね」
「せまられたら、すぐ落ちる」「抵抗は無理だよね」
「でも、最近ミリア姉、そのへん苦手なのがわかった」
「うそ、そんな素振り無かったじゃん」
「男の人に恋愛感情を持ってなかった」
「え~、結構告白されてなかった?」
「次期村長目当てだと思って、全部断ってた」
「ん?次期村長は、この間生まれた末っ子だよね?」
「そう、男の子が生まれたから後継者狙いじゃない人が居る事に初めて気が付いた」
「って事は、生まれた後に告白されて断ったって事?」
「断ってた。その時の答えに、村で一所懸命に働く人が好きって言ってた」
「それ、いつの事?」
「今日」
「あ~、加護が働いたのかな…」
ニーナが凄く微妙な顔をしながらこちらを見てくる。釣られてヨミもこっちを向いている。
運がいいのか悪いのかフェリスと会話をしていたため、タイチはニーナ達の話を聞いていなかった。
「あの顔を見ると、何だかタイチに用事みたいだけど?」
「それは良いんだけど、何であんな微妙な顔をしてるんだろう」
「それは直接聞いた方が良いんじゃないかしら?」
何となく聞くのを
さて、タイチにとってどう判断するべき問題になるのだろうか。
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