第38話 渋い顔の理由

 何だかニーナの眉間に皺が入った状態で近づいてくる。ヨミの方は特に変わった様子はないが、一体どうしたのだろう。


「お兄ちゃん、ヨミッチから今聞いたんだけど、ミリア姉が告白されたって」

「「えっ?そうなの?」」


 その言葉にフェリスと同じ返答を返してしまった。タイチは確認のためにメニュー画面を開き、好感度の欄を開く。

 フェリスは、ニーナに対して質問を投げかけている。

 この時、告白を受けたと聞いた時に思い至った感情は、タイチとフェリスでは全く違うものだった。

 タイチは加護があっても他の人の告白があり、その人と一緒になるならそれでと感じていた。

 だが、フェリスは加護に名前が載ったのに何故他の人が寄ってくるのかと疑問を持つのだった。


「ニーナ、ミリア姉はタイチの候補に入ってるんじゃなかったの?」

「候補に入ってるから、今説明しようとしてるんだよ」


 好感度の欄では、ミリア姉の名前の横に爆弾マークが表示されている。

 特に何も行動を起こしていないのに何故だと思ったが、何もしていないから表示されたのではと、結論付ける。


「まだ何もしてないからかな?」


 そんなタイチの呟きに真っ先に否定の言葉が投げかけられる。


「違うと思うよ。ヨミッチが教えてくれたんだけど、今まで恋愛方面で男の人を見てなかったんだって。次期村長候補狙いの為だろうと思ってて」

「ん?それが急に変わった?」

「この間、村長さんの所に男の子が生まれたでしょ。それで意識が変わったんだと思う」

「うそでしょ?次期村長になりたいと思ってない人も居たはずなのに」

「ミリア姉が後を継がなきゃいけないって思い込んでたんじゃないかな?」

「それがどうして?」

「フェリスちゃんに説明した前の日に候補に入ったんだけど、告白されたのは今日なんだって」

「……」

「それは、候補に入ってたから、本人の知らない内に弾いたって事かしら?」

「そんな気がするんだけど、その辺ってどうなの?お兄ちゃん」

「あのね、この好感度の物って、目的の女性1人に対して使う目的のものでね、複数人を相手に使って…るね……」


 よくよく思い出してみれば、目的の女性を射止める為に、他の女性の好感度を上げ過ぎない様に利用していたと気が付いた。この好感度のシステムが個人ではなく多人数でも効果的に動作するのは疑うべくもない物だった。


「あ~、複数人でもこの機能は動くのか……、てっきり1人だけだと勘違いしてた」

「え?お兄ちゃん、私達4人の名前があったんだよね?」

「あぁ、そうだね。4人の名前があるよ。ただ、この加護の部分って、前は1人の女性を目的とした物だったから、複数人を同時にって考えてなかったんだよ」

「え~と?タイチ、どう言う事なの?複数人居るのでしょ?」

「この加護の部分は1人の女性とお付き合いする機能なんだ。え~と、言いにくいな、この世界は結婚できる女性の人数に制限がないけど、前は1人だけだったんだ」

「それって、1人の座を巡って取り合いって事?」

「そう、ここにいる3人の中から1人だけって事」

「ケンカになるよね?」「そうよね?」「むり」

「結婚の考え方が違ったんだよ。こう言えば良いのかな」

「「「……」」」


 やはりタイチにとって、違う世界で作られた倫理観はそう簡単には崩せない部分であるようだった。だが、既に外堀も内堀も埋められて居る状態では、適応するしかないと考える部分も出来つつあった。


「それで、この加護が思ったのと違う機能を持ってそうだって分かったのが、今さっき」

「それはどうして?」

「ミリア姉さんが対象になってても、こっちへの好感度が低ければ別の人とくっ付く筈だから」

「それって、思ったより低くなかったからじゃないの?」

「……それは無いだろうって、ワザとその考えを弾いてたんだけど」

「じゃあ、聞いてきてあげよっか?」「ワタシも行く」

「やめろ許してください…」

「はいはい、あなた達も面白そうにしないの。タイチ的には、ミリア姉さんは高嶺の花って事だったりする?」

「え~と、前の感覚からすると、4人とも高嶺の花なんだけど…」

「「「……//////」」」


 こちらの世界は、エルフが居る事から分かる様に、異様に造形の良い人達が多い。

 御多分ごたぶんに漏れず、タイチの加護に名前の入っている4人は、村の中でも上位の部類に位置している。

 前の世界の感覚を忘れ切れていないため、美女・美少女に好意を向けられて気後れするのも分からなくもない。

 ただ、その分ちゃんと言葉で返そうと考えているので、不意打ち気味に口説く様な台詞が飛び出してくる事が、間々ままある様だった。

 今も不意打ち気味に言われた為に、三者三様に顔を赤くして視線を彷徨さまよわせていたりする。


「ねぇ、お兄ちゃん。こう言う事をミリア姉にも言ってたりしない?」

「どうだろう…、言ってたりするのかな?」

「どう思う、フェリスちゃん」

「きっと言ってるでしょうね」

「不意打ちはいけない」

「……言ったかどうかは、記憶に御座いません」


 3人はじーっとタイチを見つめているが、覚えて無い事は話しようがなかった。

 それよりもミリア姉さんの名前の横に、処理をしなければ点滅が早くなる爆弾を何とかしないといけない旨を説明する。


「3人とも覚えて無い事は説明できないから許してもらえないかな?それよりも、ちょと不味い事があるんだけど」

「「不味い事?」」

「それは、どういった事なの?」

「この加護の欄に名前が載ってるけど、その名前の横に早めに手を打たないと村中に悪い噂が流れる印が表示されてる」

「それってミリア姉に出てるの?」

「察しが良いね、その通りだよ。今朝まで何も付いて無かったんだけど」

「告白があって、ミリア姉さんに不満か何かが出てきたって事で良いのかしら」

「だと思うんだけど、最近会ってないからその辺が一切不明だね」


 その説明をしていたが、フェリスから基本的な質問が飛んでくる。


「お兄ちゃん、元々、その印ってどうしたら出てくる物なの?」

「一切会いに行かなかったり、会話をしなかったりすると出てくるね…」

「いまの状況、そのままじゃん」

「今日は無理そうだから、明日訪ねてみるしかないんじゃない?」

「そうなるのかな…」

「何でそんなに気乗りしてないのよ」

「いや、この印が出た時に失敗すると、一気に悪い方に傾くから怖いなと…」

「それなら、何か喜びそうなお菓子でも作っていったら?私たちの分も一緒に♪」

「それが無難か~って、ちゃっかりお菓子を要求するなよ」

「私たちが近くで試食をすれば、食べてくれそうでしょ」

「分かったよ。何か考えてみる」

「やった♪」「ちゃっかりしてるわね」

「お菓子、お菓子」

「それで、明日付いて来てくれる人は?」

「3人とも付いて行くわよ?」

「ん」「だよね」

「分かった、ありがとう」


 明日の作業を終わらせたら、今日であった川の付近に集合する事に。

 ミリアは、一体どんな不満を持っているのか。それとも気の置けない状況になっているのか、詳しく尋ねる必要があるのだった。


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ご覧いただきありがとうございます。

風邪の為、文章が短くてすみません。

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