第39話 様子はどうですか?
翌日、いつもの作業を終えた4人は、約束の場所に集合する。
「ミリア姉の所に行くけど、お兄ちゃんお菓子は作ってあるの?」
「前に作って出してない物ならあるよ」
「なにそれ?!聞いてないよ」
「言ったら、絶対その場で食べたはずだから言わなかった」
「タイチ、それもちゃんと美味しいのよね?」
「それは間違いなく。スタシアさんのミルクを使ってるし」
「あ、それは確実な物ね」
「ワタシ、使ったの食べたことない」
「ヨミは、きっと驚くと思うわ」
「そんなに?」
「「そんなに」!」
「あんまり期待されても困るんだけど…。道中で巨峰を取ってから行きたいんだけど良いかな」
「了解、追加の贈り物って事ね」
「あ~、果物だけでも十分な威力があるよね~」
巨峰を、まだ食べた事の無かったヨミから試食の声が上がる。
「ワタシも食べたい」
「食べただけだと良い匂いだけして家に帰る事になるから、お土産に1房持って帰ってみる?」
「ダインさんが食いついて来そうね」
「危ないかな?」
「商売に出来ないって説明する。しつこくしてきたら、食べさせない」
「ヨミチは、なかなかやり手ですな~」
「それほどでもある」
「まぁ、娘に勝てる父親なんて数が少ないしね」
「そんなものかしら?」
「そんなものだよ。『お父さんキライ』って言葉を突き付けられた姿は、簡単に想像できるから」
「私は、それよりも効く言葉を知ってるわよ?」
「ん?そんなの在ったっけ?」
「娘さんをお嫁に下さいね♪」
「あ~、え~と、その~、その内ね…。頑張ります」
「よろしく♪」
いつの間にかタイチと良い雰囲気を作っていたフェリスをジト目で見つめる2人が居た。そんな事は気にもせずに、フェリスは上機嫌な様子でタイチの腕に抱き着いて居たりする。
「ヨミチ、あれは抜け目がなさすぎるよ」
「ニナチ、ちゃんと壁にならなきゃ」
「いつの間にかお嫁に貰う話になってる」
「私たちは、まだ言われてない」
「あ、私は両親とも知ってるから大丈夫」
「はっ?!裏切者!」
「ヨミチ、がんばっ!」
タイチは後ろから聞こえてくる掛け合いに、追加で挨拶に行く事になるのかとボンヤリと想像してみたが、かなり難題を突き付けられそうな未来が見える。
ヨミの父であるダインの口癖は、『商人は唯では転ばない』だったかと思い返す。
竹取物語の様な事にならない事を祈りたい。
道中で巨峰の収穫場所に辿り着き、収穫をした事がないヨミが挑戦してみる事になる。
「おぉ~~!凄い、勝手に採れた」
「果物を倉庫にって思いながら採ると、手に収穫物を持つ事無く作業を終える事できるよ」
「ん~?何を言ってるの?」
「私がやってみるから見てて」
ニーナの実演により、直ぐに言葉と現象の理解が一致した様だった。
「何かを収穫してるのに、何も手に入れないのは不思議」
「そうだよね。ただ、何を取ったか知られないって事に関しては便利だけど」
「まあ、ギリギリ何も収穫してないから、不思議な事をしてるで終わるものね」
「あとで結局追及されそうだけど」
「言えてる~」
そんなやり取りを過ごしつつ村長の家の前まで辿り着くと、既に先客が来ていたようだった。
「村長、ミリアさんと話をしたいんですが、お願いできませんか?」
「すまんなぁ、先ほど外に出たまま戻って来ておらんのだよ」
「じゃあ、どこに行ったかだけでも!」
「ふらっと出て行ったきり、行方が分からなくてな、こちらとしても心配してる所だ」
「そんな…」
漏れ聞こえてくる会話で、既にミリアが自宅に居ない事が伝わってくる。さて、これはどう確認するかと考えを巡らしている所で、ニーナから質問が来る。
「ねぇ、お兄ちゃん。加護の力でミリア姉の場所って分からないの?」
「ん?あぁ、普通に探そうと思ってたから、意識になかった。その手のメニュー画面はいくつもあった気がする」
そう言葉を返すと同時に、目の前に恋愛系のメニュー画面をいくつも表示させてみると、何個かの画面に村の地点と共に、ミニキャラが表示されている物があった。
「お、見つけた!」
「そう言うのやっぱりあるんだ。で、どこにいるの?」
「え~と、ミリア姉さんが居るのは教会だね」
「もしかして、他の人も分かるの?」
「どうだろう?名前の載ってる4人は表示されてるけど、他の人はどんな条件で出てくるか不明かな」
「ねぇ、ねぇ、お父さんとお母さんを意識したら出たりしない?」
「ちょっとやってみるか」
ニーナに促された事もあり、目を瞑って両親を表示するように意識を飛ばしてみる。すると、目を開けた段階で画面に追加で表示がされているのが確認できた。サブキャラ扱いなのか、畑の所に2人のキャラアイコンが表示されていた。
「あ、いけるっぽい」
「出るんだ」
「タイチと関わりの深い人しか出来ないとか、そう言う制限もありそうよね」
「かもしれないね。村長の所に来てる人を試しに想像してみるかな」
目の前で村長とやり取りをしているにも拘らず、メニュー画面上に表示される事は無かった。ある程度、親密度の高さが必要とされるのかもしれない。
「表示されないね。ある程度仲が良くないとダメなのかもしれない」
「それじゃあ、さっき居るって判った教会へ行っちゃおうよ」
「私達よりも先に行かれても困るし、急ぎましょう」
「ごー、ごー」
村長が取り込み中なのもあり、声を掛けずに直に移動を開始する。
いつものミリアの様子では、教会に移動している事が無さそうなものだが、その辺りを気にせずに会いに行った事がタイチを巻き込む騒ぎとなる事を、この時は気づいていなかった。
そろそろタイチ達が到着する頃、教会内でミリアと神父様の間でこんなやり取りが発生していた。
「それにしてもミリアさんが教会を訪れるのも久しぶりですね」
「いつも忙しくしているものですから、中々挨拶に来れずに申し訳ありません」
「いえいえ、来られる時に来るくらいで良いと思ってますよ」
「いつも何かと加護の力にお世話になっているのに、神さまへのご挨拶も出来なくて心苦しいんですけどね」
「ふふふ、その様子だと何か問題でも起きましたか?迷える子羊が教会の門を叩くのは当然のことですから、頼って頂けるのは嬉しいですね」
「え~と、加護の
「ほう、それはそれは。ミリアさんの力となれる人物が訪れるのですね」
「そうだと良いのですけれど、こんなにハッキリと指示が来たのも初めてなものですから」
その様な会話が繰り広げられている最中に、教会の扉を開けて入ってくる人物がいた。
「あの~、ここにミリア姉さんが居るはずなんですが?」
「おや、タイチ君ですね。ミリアさんの目的の人ですかな」
「そうなのかもしれません。ただ、どうしてタイチ君なのかしら?」
タイチが中に入ると、同様に後ろから3人も中へ入ってくる。
「わっ!ホントにミリア姉が居た!」
「タイチ兄、凄い!」
「あなた達、急に大きな声を出したらダメでしょう」
「え~、フェリスちゃん、お兄ちゃんの言った通りにミリア姉が居るの凄くない?」
「それは凄いと思うけど、向こうも急に声を掛けられて驚いてるでしょうが」
タイチだけかと思っていたところに追加で3人の少女達も現れ、ミリアと神父様は顔を見合わせる事となる。
「これはこれは、今日は迷える子供達がいっぱいの様ですね」
「「「神父様、こんにちは」」」「ん!」
ここに来た用事をタイチが代表して説明していく。
「すみません、神父様。神父様ではなく、ミリア姉さんに用事があって」
「ふふふ、だそうですよ。ミリアさん」
「そうみたいですね。それでタイチ君たちは、一体どう言う用事かしら?」
「え~と、ミリア姉さんに「加護の力で会いに来たの♪」……」
「ほう、加護の力と言う事は、神託ですな」
「……ちょっと失礼します」
タイチはニーナを連れて教会の扉の外まで連れていく。
あくまで大声にならない様に気を使いながらニーナを問い詰める。
「おまえねぇ、どうして加護の力とか安易に言うのさ!!」
「え~、一番話が早く進む選択肢をしただけじゃん。どうやってミリア姉に会いに来ましたって言うの?」
「…それは、あちこち探して、ここに来たって言えば良いじゃないか」
「まず、村長さんに会ってないよね。それがバレると何で家に居ないのを知ってるのかって言われない?」
「それは、家の前でのやり取りを見たって言えば」
「そこから時間が全く経って無いのはどうするの。探してないのが直ぐに分かるでしょ」
「…………直感が」
「それこそ、神父様から神さまの思し召しって言われない?」
「くっ…」
タイチがニーナに対して二の句が継げない状態になっている頃、教会内ではフェリスに対して質問が投げかけられていた。
「フェリスちゃん、タイチ君が加護の力で私を探し出したみたいだけど、どう言った要件か知ってる?」
「え~と、それはですね。あの~、なんて説明した方が…」
「ミリア姉を嫁に貰いに来た」
「ちょっ!」
フェリスは慌ててヨミの口を塞ぐが、ミリアと神父様にはしっかりと聞かれてしまっていた。
「ミリアさん、ここで式を挙げていきますか?」
「神父様、気が早すぎですよ」
「しかし、ミリアさんの加護も運命のお相手をお待ちのようでしたし、これは必然というものでは?」
「どうなんでしょう。タイチ君も外に行ったまま戻ってきませんし。フェリスちゃん、ヨミちゃんの言ってる事が目的って事で良いのかしら?」
「あの、その、あ~~、もう!何で私が!ヨミの言ってる事は半分くらいあってます」
「あら、そうなの?神父様、式を挙げた方が良いですか?」
「2人が良ければ行っても良いかと。ただ、突然なので花嫁衣装もなければ、参列者も居ませんね」
突然の事にも関わらず、神父様もミリアも結婚を前提とした会話を繰り広げ始めたので、フェリスとヨミは茫然とするしかなかった。
「フェリス姉、ミリア姉スゴイネ」
「ヨミが余計な事を言ったからじゃないの」
「昨日まで結婚する気、全然なかったのに」
「このまま結婚する流れになったらどうするのよ。ヨミはどうやっても来年までお預けでしょうに」
「むっ、それはイケナイ。1人だけ置いて行かれる」
そんな中、ニーナに手を引かれる形でタイチが教会内に戻ってくる。諦めきれずに言い訳をまだ考えている様だった。
「おかえりなさい、タイチ君。それで、式の日取りだけど何時が良いかしら?」
「え~と、しき?」
「私を訪ねて来てくれたのでしょ?」
「あ、はい。ミリア姉さんがここに居るのが分かったので」
「それは、加護のお陰で良いのよね?」
「え、え~と、まぁ、はい」
「神父様、どちらも加護の様ですから決まりでしょうか?」
「そうですね。タイチ君が少し困惑しているようですから、しかと確認を取ってからでも」
「そうですよね。じゃあタイチ君。そこの礼拝用の長椅子に座ってお話ししましょうか」
「は、はい?」
目の前でどんどんと進行していく会話に付いて行けず、ニーナはフェリスとヨミに何があったのかを質問する。
「ちょっと、フェリスちゃん。話の流れが全く分からないんだけど?」
「え~と、頭が痛くなってきた」
「ニナチ、ミリア姉がタイチ兄と結婚式を挙げるって言ってる」
「はい?何でそんな事に?」
「あなたが加護の力で会いに来たって言って外に行った後に、寄りにもよってヨミがミリア姉さんをお嫁に貰いに来たって言ったもんだから……」
「え~~、それだけで話が結婚まで飛んでるの?」
「どうやらミリア姉、神託で此処に居たっぽい」
「「えっ?」」
「だから迎えに来る相手が、加護の力で来たのか確認してた」
「あっ、言っちゃってる」
「ニ~~~ナ~~~~」
「と、取り合えず、ミリア姉を落ち着かせて、止めよう」「ん」
「もう、あなた達、本当に余計な事ばかり言って引っ掻き回すんだから!」
実際はフェリスも加護の力で来た事を半ば肯定しているのだが、やけっぱちで答えた為に本人は気づいていない。
混乱の最中のタイチに、暴走気味のミリアと神父様を止める為に3人は会話に参加する事となる。
タイチは直に結婚する事になるのか、それとも婚約者候補となるのか、
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