第40話 なぜ、そんな話に?
タイチは礼拝用の長椅子に座ると、真横にミリアが当然の様にくっ付いて座る事に理解が追いつかない状況に陥っていた。
また、目の前で質問を投げかけてくる神父様も、話が飛び過ぎていて言葉を飲み込むことに集中しなければいけない為、満足に答えを返せていなかった。
「加護の巡り会わせと言う物は不思議なものですね。ミリアさんが神託によって教会へ訪れた事も驚きでしたが、タイチ君が後を追う様に現れるとは」
「本当ですね。加護の
「えっと、はい?そうですね?」
「それで、タイチ君はどのようにして、ミリアさんの居場所が分かったのですか?」
「…えっと、加護の力なんですけど、言える事と言えない事が多すぎて……」
「そうでしょうとも。加護の力は人それぞれです。大きな力を授かった場合には、その力を十全に使えるまで努力が必要な物です」
微妙に会話が成立しているようなしていない様な、不思議なやり取りをしていると、離れていた3人が会話に混ざって来た。
「ちょ~っと、待ってくださいな!」
「おやおや、お嬢さんがたも何か御ありですか?」
「取り合えず、ミリアお姉ちゃん!!お兄ちゃんから離れる!」
「あら、いつもはお姉なのに、今日はちゃんを付けてくれるのね♪」
「だぁ~~、違うの、そこじゃないの~」
「はいはい、反対側が空いてるから、そっちへどうぞ」
「もう~、そんな事じゃなくて~って、フェリスちゃん座らない!!」
「座らないんでしょ、私が今座ってても良いじゃないの」
「ヨミチ、話し進まない」
「もぉ~、お兄ちゃんもデレデレしてないでちゃんとするの!」
「いや、状況が分からなくて戸惑ってるだけなんだけど……、何で座らされてるの?」
タイチは、そこで
「お兄ちゃん、結婚式の日取りを決めるために座ったんじゃないの…?」
「何でそんな事に?!」
「タイチ君が私を貰いに来たのでしょ?ヨミちゃんが言ってたのだけれど」
「えっ?!」
タイチはヨミの方へ視線を急いで向けると、サッと横を向いて視線を逸らされてしまう。
「それで、式の日取りなんだけれど、このまま式を挙げてしまうのはどうかしら」
「What?」
一瞬理解が及ばなかった為に、タイチは何故か英語で聞き返してしまう事に。
聞きなれない言葉を話しているなと、3人は理由を直に理解できたがミリアと神父様はそうはいかない。
「何やら聞きなれない発音ですが、神の国の言葉だったりしますか?」
「???」
「あの、タイチはちょっと混乱してるだけですから、直ぐに元に戻りますよ」
フェリスはタイチの耳元で聞こえるギリギリの音量で、聞いた事のない発音をしてると伝えようとしたが、ミリアが顔を覗き込んできた為、伝えるタイミングを逃してしまう。
「じーー、フェリスちゃん、何を伝えようとしているの?」
「えっと、ミリア姉さんには後で教えるから、今は待ってて貰えない?」
「おや、私はダメですか。残念ですね~」
「あの、神父様に隠し事をしたい訳じゃないんですけど、ちょっと言えるか微妙な所でして、タイチに確認して貰ってからで良いですか?」
「はい、それではタイチ君に判断して貰いましょうか。取り合えず、後ろを向いて耳を塞いでおきますね」
「ありがとうございます」
フェリスは、急にタイチの顔を掴み自分の方を向かせた状態で言い聞かせます。
「いい?タイチ。あなた知らない言葉を喋ったのを気が付いてる?」
「うそ?喋ってた?」
「わっつ?だか何だか口にしてたんだけど」
「……分かった、理解の許容範囲を超えて口に出たと思う」
「どう言う事を言ってたか、一応教えて貰える?」
「え~と、何を言ってるんだ?が一番近いと思う」
「タイチ君、そんな風に思ってたの?私じゃダメって事…」
「いやいやいや、ミリア姉さんが「「はい、そこまで」」もごもご・・・」
タイチが弁解をしようと口を開くと、すぐさまニーナとフェリスから口を塞がれてしまう。
「タイチ兄、『ミリア姉がダメな訳ないじゃないか』って言おうとした」
ヨミによって口に出しそうな言葉を的確に答えを導き出されてしまい、タイチは口を塞がれたまま頷く。
「あら、ガードが堅いのね?折角合意を貰えそうだったのに」
「既にお兄ちゃんが、ここ最近同じやりとりで言い
「残念、先に使ったとしたらスタシアさん辺りかしら?」
「?!……」
頬に手を当てたミリアとニーナが微笑みつつも睨み合っているのだと気配でタイチは察する。後ろから口を塞がれている為にニーナの顔は見えないが、ここ最近の出来事から、またしても迂闊に返事をしかけたのだと判断できた。
タイチは口を塞いでいる手を優しく退けつつも、改めてミリアに質問をする。
「ミリア姉さん、どうして急に結婚をする気になったの?」
「それはヨミちゃんから「いや、そうじゃなくて」…」
「お兄ちゃんは、急に結婚する事を決めた理由を知りたいんだと思うよ」
「あぁ、そっちを知りたいのね。私の加護に『虫の知らせ』って言う物があるのよ。いつもはボンヤリした事しか分からないのに、今回に限ってはハッキリと聞こえたのよ。私の運命を左右する相手が現れるから教会で待つようにってね」
「あ~、お兄ちゃんの加護の所為だ~」
「ダメね、言い訳できないじゃない」
「タイチ兄、諦める」
「あの、君たち酷くない?それに、何でこっちが悪いみたいに言うのさ。そもそも、ミリア姉さんが加護の対象になったのは、ニーナが原因だろう?」
「ううん、違うよ。私は名前を言っただけで、元々好意があったの……」
「……ミリア姉さん、タイチに気が合ったの?」
「意外」
「あら?少し気になってたのは事実だけど、どうして知ってるのかしら」
「タイチ兄の所為」
一斉にタイチに視線を向ける女性陣。何とも言えない居心地の悪さを受けつつも、言える範囲で説明を口にする。
「か、加護の力に、その辺を知る機能がありまして…。その、少し前から知ってました……」
「私の気持ちを知りつつも、最近会いに来てくれなかったのね」
そう言うと、ミリアは両手で顔を覆いながらタイチに背を向ける姿を取る。
慌ててタイチが声を掛けると、直ぐに両肩に手を掛けられてしまう。
「ミリア姉さん、そんな事は無いよ。心配だったから今日「「はい!そこまで」」…きたんだけど…」
「タイチ、同じ罠に掛かってどうするの…」
「…わな?」
「も~、フェリスちゃんもニーナちゃんも厳しすぎる~。もう少しタイチ君に優しくされても良いと思うの」
振り返りながらあっさりと罠を仕掛けていた事を暴露して来る辺り、ミリアも
その様子に、タイチはどう動けば良いのか分からなくなりつつあった。
「ミリア姉、1人だけ抜け駆けはダメ」
「もう、お兄ちゃんが不信感を持ち始めてるじゃないですか」
「分かったわよ。タイチ君、これだけは理解して欲しいの」
「あ、なんでしょう…」
突然真剣な表情になり、タイチの手を握り胸元へ誘導してから告白をするミリアがそこに居た。
「私は、あなたが運命の人だと思います。少しづつで良いから、私を見てください」
そのあまりにも真剣な表情に、タイチの返事は簡素なものであった。
「…はい」
「ミリア姉、それはズルいと思うの」
「タイチ、私も」
「大事にしてね」
3人の少女にとって強敵と思える女性からのアタックを受けて、半ば放心状態のタイチへ自分もと声を掛けるフェリスとヨミ。
ニーナはずっとズルイなどの抗議を続けてはいるが、状況は不利と感じているのかそこまで強く言葉を言い出せなくなっていた。
そして今度は先程とはうって変わり、ミリアは少しおどけた感じで話しかけてくる姿勢に切り替わる。
「これ以上は追撃しないから安心して。あなた達3人がタイチ君に必死になる程の理由が何かしらあるのでしょ?だから、私も仲間に入れて頂戴♪」
「手ごわい」
「ミリア姉……」
「はぁ、ミリア姉さん、単純に好きだからって思わないんですか…」
「私も好きよ?それだったら、同じじゃない。で、タイチ君はそれ以外があるのかな~?」
加護の事に触れる話題を振られ、やっとタイチは再起動する。
「も、黙秘します!」
「っと、これくらいにして、そろそろ神父様へ伝える件はどうすのかしら?」
ミリアの言葉によって、未だに後ろを向いて耳を塞いで待っている神父様の姿がある事を改めて認識する。
「あっ」「どうしよっか?」「やだ、忘れてた」「置いて帰る?」
4者の反応もそれぞれの特徴が出ている。
タイチは、どう説明すれば納められるかを考え始め、ニーナは、どう説明しても味方に出来そうだと考えている節が
フェリスは、タイチを取られるのではと考えていた為に意識から消えていたのが分かり、ヨミにおいては放置しても叱られないと若干考えている節がある。
「タイチ君、神父様に説明していい範囲の加護を教えて貰えるかな?」
「えっと、どこまでと言われても…」
「ミリアお姉、お兄ちゃんの加護って出来る事が多すぎて説明しきれないよ」
「ミリア姉さん、説明するには絶対話さないって約束して貰わないとタイチが教会の本部に連れて行かれるかも」
「美味しい物いっぱい食べられるよ」
「ふふっ、ヨミちゃんだけ分かり易いのね。それじゃあ、すり合わせをしましょう」
情報のすり合わせをしつつ、これから神父様を完全に味方にするプレゼンを行う事があらたな目的として立ち塞がるのでした。
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