第36話 その値段で良いんですか?

 ヨミをPTに入れてから、再度出荷箱に依頼の品を入れてみる事に。


「まずは、スイートポテトにしようかな」

「お兄ちゃん、加工前のお芋も入れてみてよ」

「加工前と、加工後って事ね。了解、入れてみるよ」


ニーナからの提案にのり、加工前の芋を1つ入れてみる。


「加工前のは、1個¥250円か。結構高値かな?」

「へ~、1個でなんだ。大きさも重さも良い物だし、もう少しするのかと思った」

「でも、収穫までの期間と出来を考えると破格なんじゃない?」

「だろうね。じゃあ、本命のスイートポテトは」


 出荷箱にスイートポテトを入れてみる事に。すると、スタシアのミルクから作ったバター等を使用している為か、思っているよりも高い値段が表示される。


「うわ、¥800円って出た」

「えっ?!そんなにするの?あのお菓子」

「え~、もっと味わっておけばよかった」

「私食べてないよ」

「ヨミちゃんは、また今度ね」

「む~、一人だけお預け」

「ヨミチ、次のもお預けになるよ」

「理不尽」

「ヨミ、凄い甘い匂いをさせて帰る事になるから、家族の追及が凄いわよ」

「それはイヤ」


 スイートポテトの値段が思ったよりも高い値段が付いたので、巨砲のショートケーキは幾らになるか、興味が出てきた。


「巨峰のショートケーキはいくらかな?」


 スタシアのミルクを使用している率が、スイートポテトよりも多い為、少し高くはなるだろうと思ってはいるが、そもそもスタシアのミルクはどれ位の値段なのかを最初に調べておけばと思い至ったが、後の祭りである。


「¥1,500円か…。1個だけの値段なのに高いね…」

「6個に切り分けた内の1個だから、切らなければ随分値段がするのね」

「前の記憶でも、こんなに高いショートケーキは食べた事ないよ」

「大体どれくらいだったの?」

「確か安かったのは、¥300円位でちゃんとした物になると¥650円とかかな?」


 コンビニやスーパーの2個入りケーキと、専門店だと大体これ位だったか?と怪しげな記憶で答えを出す。

 流石に、コンビニやスーパーの説明をする事になると、ほかの説明もする事になりそうだ。


「かなり金額にバラツキがあるんだね~。でも、どうしてそんなに違うの?」

「大量生産品と、専門店での違いだね。そもそも材料からこだわってたりすると、もっと値段の高いものはあると思う。そんな高いお菓子に余裕は掛けられなかったから」

「あぁ…、お兄ちゃん前の時は、裕福じゃないんだね」


 グサッと胸に響く一言が来た為、反射的に胸を押さえてしまった。普通に生活してましたよ。ただ、ケーキを食べる事は、コンビニやスーパーの物がおいしいと思ったからそれ以上を求めなかっただけ。そう言う事に…。


「ニーナ、止めなさい。タイチに効く言葉みたいよ」

「い、いまは幸せに過ごしてるから大丈夫」

「前が不幸みたいに聞こえるけど」

「……幸せでしたよ」


 不幸ではない。そう、ただ色々な巡り会わせが少し悪かっただけ。そう心の中で繰り返し呟く。しかし、頭は下を向き始めてしまう。

 徐々に暗くなっていくタイチをみて、フェリスは手を握って安心させようとする。


「タイチ、今はどう思ってるの?」

「今は、うん、幸せだね」

「じゃあ、うつむいてないでしっかりして」

「あぁ、大丈夫。大丈夫だ!」


 その言葉を引き出せたので、フェリスは笑顔で答える。なんともチョロい男である。

 前世の事を知りたいが為に、またしても良い所をフェリスに差し出す形になったニーナは、質問の方向性を変える事にしたようだった。


「え~と、お兄ちゃん。私もお兄ちゃんと一緒で幸せだよ」

「取ってつけたようなおべっかだから、1回お菓子無し」

「うぇぇぇ~、そんなのないよ~。ちゃんと心から思ってるよ~」

「フェリスとヨミはどう思う?」

「噓ではないでしょうね。あなたが居ないと尻拭いする人が居なくなるだけだから」

「ニーナッチのそこに関しては、ウソはない。ただ、楽しい事を優先して失敗するだけ」

「…2人とも酷くない」

「「ない」わね」


 ニーナに対する援護射撃の無いまま、お菓子1回無しが決定しそうだった。

このままでは拙いと感じたニーナは、ジワリと目に涙を浮かべてタイチの腕にすがりつく。


「ホントの事を言ってるのに、信じてくれないの?お兄ちゃん」

「ゔっ……、し、信じて…ま、す。」

「ありがとう~♪」


 ニーナは縋りついた腕を離して、今度は正面から抱き着く。

 案の定、タイチの顔が緩んでいるのが確認できる。

 フェリスとヨミからは、当然の言葉が出てくる。


「タイチ、甘過ぎよ」

「タイチ兄、よわよわ」


 流石に体裁が悪いのか、タイチは妥協点を探るがこれと言って思い浮かばず、取り合えず最初の言葉通りにする事を宣言する。


「でも、お菓子1回無しは実行します」

「そんな?!噓つき!女の敵!」

「ニーナ、あなたが招いたことでしょう。1回くらい我慢しなさい」

「ワタシが代わりに食べてあげる」

「ほら、そもそもヨミちゃんは1回食べ損ねてるから、同じになるだろう?」

「フェリスちゃんだけ全部食べれるじゃん」

「大丈夫、甘い物ばかり食べてると健康や体重が気になる事になるから、ね」

「タイチ、それは言ってはいけない事じゃない?」


 フェリスの返答が返る前に、ニーナとヨミはサッとタイチから距離を置いて避難を始める。

 タイチもタイチで説明の言葉が足りていない。甘い物ばかりだと、便秘や貧血を起こしやすくなり、健康に良くないなどの文言が抜けている。

 まあ、現代と比べると圧倒的に甘味が少ないので、毎日じゃ無ければ気にする必要は無さそうではあるが、女性だと必要な配慮だろうとの考えからの発言になっている。


「私はそんなに太って見えるの?」


 タイチは、ここに来てやっと発言内容が間違っている事に気が付く。


「違う、違う!太ってないよ。甘い物を連続で食べてると健康に良くないからって事を知って貰いたくて言っただけだから、太ってるなんて全然思ってないよ!全体的にやせ型の体系だと思ってるし、上から下までスラっとしてて、腰のくびれがとても綺麗だよ!」


 誤解を解く為に普段言わないような事まで矢継ぎ早に口から繰り出していると、徐々にフェリスの顔が真っ赤に変わっていく。

 フェリスは胸の前で手を組んでせわしなく指を動かしつつ、タイチの顔をチラチラとうかがいながら質問を投げる。


「ねぇ、タイチ。誉め言葉として受け取って良いのかしら?少しだけ気になる部分があったけど」

「全部褒めたつもりだよ。どこか気に障る様な事を言ったかな?」

「ううん、褒めてくれたのは嬉しいのよ。ただ、上から下までスラっとしてるって部分が気になって」

「ん??」

「ニーナを上から下まで表現すると、どうなるのかなって」

「ニーナ?ニーナは上から下まで健康的な体形だね?腰の括れもしっかり分かるし、それくらいだよね?」


 急に当て馬にされたニーナだったが、タイチの返答を聞いて満更でもない顔をしている。「えへへへ」と少しだらしなく笑っている。


「それじゃあ、ヨミは?」

「ヨミちゃんは、ネコの獣人らしく体が絞れてるって感じがするね。控えめだけどメリハリのある体型だと思う」


 ヨミもこの返答を受けて、少し自慢げな顔になる。


「ありがとう、私の事をどう見ているのか少しわかったわ」


 フェリスの顔に青筋が1つ見える。あれ?何か言い間違えたかと今の発言を思い返すと、1つ該当する部分に気が付く。

 まさか、胸が無いと受け取ったのではないかと言う事に。


「いやいやいや、フェリスも控えめだけどしっかり胸があるよね!?」


 フェリスはタイチに近づき、頬を引っ張り上げる。


「その言い方だと、この子たちより胸が無いって聞こえるのよ!!」

「え~、事実じゃん」

「あきらめる」

「何ですって?!」


 フェリスは、離れているニーナとヨミに鋭い視線を向けるが、2人は胸を張る動作をして挑発的な態度を取る。

 その態度を見た為に、頬を引っ張っられているタイチに余計な被害が及ぶ。


「イダイ、イダイって」

「元はと言えば、もっと違う褒め方を考えなさいよ」


 そこまで発言をしてから、やっと頬を引っ張るのを止めタイチを睨む形で見つめている。


「ごめん、言い方をもっと考えてからすれば良かったね。今度から気を付けるよ…」


 せっかく前半で稼いでいた好感度も、ここでプラスマイナスになる様な事になるフェリス。


「何で私だけ…」


 小声でぽそりと呟かれた言葉に、フォローをしなければとタイチは考える。

だが、いきなり考えた所でそんな都合の良い物は出てこない。

 先ほど手を握って貰った事を思い出し、タイチはフェリスの手を取る。


「いつも色々な所で手助けしてくれて、ありがとう。フェリスが居てくれて、本当に感謝してる」


 急なタイチの言葉に、フェリスは少し放心状態になりつつも返事を返す。


「ど、どういたしまして…」


 ただ、タイチもその後の言葉が出てこない為、フェリスと見つめ合う状態で止まってしまう。

 流れ的には告白に近い物だった為、横で見ていた2人も言葉の続きが出てこない事に首を傾げている。


「あの~、それで終わりなの?」

「これ以上は直に出てこないんだけど?!」

「あ、お兄ちゃんも限界っぽい」


 プッと女性陣が吹き出し、フェリスから次の言葉が告げられる。


「次は、今みたいな状態じゃなくて、もっといい雰囲気の時に続きをお願いね」


 その言葉に赤くなりながらも、頷くタイチでした。


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