第35話 食事と秘密

 家路に付いた後、タイチは1人台所で料理を作り上げる事にする。

 その間、3人には水汲みをお願いしておく。

 ニーナとフェリスは、ヨミに感づかせない為だと直ぐに察して、行動に移してくれた。

 ムニエルを作るために、魚を3枚おろしから行う予定だったが、一度作ったからなのか合成レシピが有り、加護の力を使用して作り上げる事が出来た。完成までに2分も掛からず終わってしまい、これはこれで早く出来すぎてて怪しまれる事になりそうだ。


一方その頃、水汲みに出ていた3人で情報のすり合わせが行われていた。


「いい?タイチの加護は今のところ秘密にする事になっているの。だから、これから出てくる料理も秘密にするのよ。分かった?」

「ん、わかった。料理は秘密にする。」

「料理はじゃなくて、料理もよ」

「タイチ兄の加護は、まだよく知らない」

「しばらくは知らないままにして。ダインさんが知ったら、タイチに無茶ぶりすると思うから。そうすると、タイチはヨミと一緒に居る事は無くなるわよ」

「それは困る。しゃべらない。」

「お兄ちゃんの加護は、結構デタラメだから信じて貰えない場合もあると思うけど」

「そのデタラメさが知られると不味いんじゃないの」

「いつ、教えて貰える?」

「当分先かな~。知ったらきっとヨミ…もお兄ちゃんにおねだりするから」

「ん?おねだりする様な事してないよ」

「魚釣りしてたでしょ?」

「ん。してた」

「いっぱい釣れるって言ったら」

「お願いする」

「だからダメ」


 テンポのよい言葉の応酬がされ始めた所で、家に到着する。

 一応、話してはダメと言う部分だけは伝えきれているので、それ以上のツッコミをしないフェリスだったが、釣りに関しての情報をサラリと零しているニーナにはジト目を向けていたりする。


「たっだいま~、お水汲んできたよ~」

「おかえり、水汲みありがとう」

「ん?料理の匂いがしない?騙された?!」

「冷めない様にと思って、仕舞ってあるんだよ。後ろを向いてくれればテーブルに並べるよ」

「分かった。たのしみ」


 ヨミが後ろを向いた事を確認し、テーブルの上にムニエルとホワイトソースのパスタもついでに出しておく。

 それを見ていたフェリスから脇腹への打ち込みとお小言が飛んできた。


「ぐぇっ」

「タイチ?見慣れない料理が追加されてるのだけれど」

「うぅ…、時間が余ったから追加で作りました…」

「そう、隠し事が出来なくなるから、ちゃんと相談してね」

「りょ、了解であります…」


 どうやら、フェリスは母さんと同じ部類の様だ。今までは、近所の幼馴染の域をでていなかったのが、近しい異性として意識が変わった為に村の女性特有の強さが出てきたようだった。


「これは、私達が貰って来たミルクで作った物だよね?」


 ニーナはこちらの状況を歯牙にもかけず、試食を行っていた。


「そうだよ、さっき預かった物を使って作ったから」

「スタシアさんの所で食べた物よりミルクの味は落ちてるけど、何だか味が違うような?」

「えっ?そうなの?作ったきりで味を見てなかった」


指摘があったので試食をしてみると、明らかに現代の調味料が使われた風味がする。


「これは、勝手に調味料が足されてるかな。まあ、味が良くなっているから、問題なしって事で」

「そうじゃないでしょう。何で作った本人が知らない調味料が足されているのよ」

「普通に作るとそうなるよね」

「あぁ、この料理は加護の力で作ったのね」

「そうだよ。一から作ると水汲みの時間だけじゃ無理だったから」

「それにしても加護で料理を作ると、味まで変わるの?」

「前の記憶を参照してるんじゃないかな?」

「なるほど。その辺りも大雑把なのね」


 フェリスと料理の味付けについて話をしている間に、試食で用意した物は皿から消えていた。


「2人共、勝手に食べつくされると味見が出来ないんだけど?」

「ん!おいしかった!!」

「うんうん♪良いお味でした」


 2人にメインの具材を食べられてしまった為、フェリスは残っているホワイトソースを口にして味の確認をしている。


「なんだかズルいわね。ちょっと加護を使っただけでこの味が出せるのだから」

「家でもこの味を出せる様にするなら、大変な労力が必要だと思うよ」

「あら、作り方を知ってるの?」

「大まかには。大鍋に複数の野菜を煮込んで、そこに鳥や豚で採ったスープを合わせてじっくり煮込んで作った物を、このホワイトソースに混ぜてる感じ」

「……なんだか、凄く材料が必要そうね」

「作るのに使った野菜とかは食べれば良いとしても、薪代が凄く掛かるね」

「加護を使って作れるの?」

「あ~、出来るね。レシピが出てきた」

「……そう、今度作った物を分けて貰える?」

「分かった、材料がいくつも必要だから揃った時で良い?」

「もちろんよ」


 その様子を見つめているニーナとヨミから見た率直な意見が放たれる。


「ヨミち。ああやって、お兄ちゃんの胃袋を掴むんだって」

「抜け目のない。好みの味を探ってる」

「ちょっと人聞きの悪い事を言わないで貰える。あなた達だって同じ様にすればいいだけでしょうに」

「料理の得意な人の言う事は違いますな~」

「ん、どちらかと言うと苦手だから、ズルイ」

「そうは言うけどね。タイチの基本の味付けが、今の試食なのよ?私達だと、料理の腕でも追いつけていないのよ」

「「ゔっ」」

「あ~、同じ調味料が無いと、自分でも無理なんだけど…」


 不毛な言い争いが続きそうだったので、調味料不足と言う大義名分を掲げて割って入る。


「そうは言っても、調味料があればこの味になるのよね?」

「まあ、大体そうなるね」

「それに加護の力でサッと作ってもらってばかりだと、私達の料理の腕が全く上がらないでしょう。タイチが居ない時に作れませんじゃ、何だか悔しいじゃない」

「あぁ、そうやって頑張ってくれようとしてるんだね。ありがとう」

「…どういたしまして」


 フェリスは、顔を赤くしながら横を向いて返事を返してくれる。

ニーナとヨミは、ジト目をしながらフェリスを見つめている。


「胃袋だけじゃなかった…」

「あれはズルい。負けてられない。頑張る」


 ボソボソと呟きが聞こえてくるが、そこは気にしてはダメだろう。

一応、現段階で試食が済んだのだが、ヨミは満足してくれたんだろうか。


「ヨミちゃ…。ヨミ、満足してもらえたかな?」

「ん。満足した。次は作り方も覚える」

「え~と、いいけど、ダインさんが怖いから家へ行くのは無しで」

「うちでやれば問題ないよね。作り方を、まだ全部教えて貰ってないし」

「そうだね。ただ、個別じゃなくて纏まった人数でやろう」

「ヨミは、いつ来れるのかしら?」

「明日来る」

「やっぱりそうなるわよね。何とか合わせるわ」

「フェリスちゃん無理しなくてもいいよ?」

「く・る・わ・よ。もう、抜け駆けしようとしてどうするのよ。みんな教わるんだから」

「え~、後からなら個人レッスンになるよ」

「…その手には乗らないから」

「ニーナ、聞こえてるからね」


 翌日の料理の約束をし、見送りの為に家の外に出た所で神様のお願いを思い出す。


「そうだ、出荷箱に入れないと」

「あぁ、そんなのがあったよね。お兄ちゃん全然使ってなかったよね」

「食べ物を入れる余裕が、そんなに有るわけでもなかったから」

「ん?鉱石とかを入れればよかったんじゃ?」

「何だか勿体なくて……」

「あ~、何かに使えそうって思うもんね」

「まあね。じゃあ、依頼の品を入れていきますか」


 タイチとニーナ、それにフェリスの3人が出荷箱を視認しているのに対し、ヨミは何もない場所でパントマイムをしている様にしか見えていなかった。


「3人とも何してる?箱はないよ?」

「あぁ、お兄ちゃんの加護の力を今借りてるから箱が見えるんだよ」

「そう言えば、ヨミは加護の中に入れないの?」

「ヨミも箱が見える方が良いかな?」

「見たい」

「じゃあ、ちょっと待ってね。加護の影響下に入れるから。一応、加護の中に入るって思い描いてて貰えるかな」

「分かった」


 メニュー画面を開き、ヨミもPTの中に入れていく。一通り6人分の枠が埋まったけれど、追加で増える場合にはどうなるのか気にはなる。


「箱が見えるようになった。不思議」

「お兄ちゃんの近くにいると、色々加護の影響が出てくるからね。離れるとダメだけど」

「気になるようなら解除するから遠慮せずに言ってね。ニーナもフェリスも」

「今のところは無いかな~」

「このままで良いわよ」

「いま付けて貰ったばっかりだから」

「それじゃあ、改めて入れてみますか」


昨日作ったものを含めて、いったいどれ位の値段になるのか興味が湧いてくるのだった。


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ご覧いただきありがとうございます。

まだ風邪?が治らず、ぼーっとしてます。

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