第17話 合成の結果
家に帰ると早速食い付いてくる人達がいる。
「さぁ、どんな物が作れるようになったのか調べようか!」
「早く!早く!お兄ちゃん、試そうよ!」
「あなた達!!少しは落ち着きなさい!!」
なんだかゲームを楽しみにして待ちきれない子供と母親の光景に見える。似たような前世の思い出が蘇る。
若干年齢の高い人物が混じっているが、愛嬌だろう。
「少し待って貰っていい?まだ一回しか試していないから、何が作れるのか確認してないんだ」
「ほら、タイチだってこう言っているでしょ」
少し落ち着いてくれた様子だが、ニーナは頬を膨らましている。父さんは苦笑いをしながら頭を掻いているので、気まずさが勝っているようだ。
改めてメニュー画面内の合成に目を向けると、いくつものレシピがハッキリとわかる。ブロンズインゴットを作ったことで、合成先が確認できるようになったようだ。
ただ、いくつか素材が足りないようで、灰色になっている物が見える。
「一番生活に近い合成品だと、
「あぁ、それは使い方が違うからだな。鉞は枝を払ったりそぎ落とすのに使うんだ。ほら、薪割りとかは斧を使うから。鉞で薪割りをしてもいいが、角度を間違えると刃の部分が飛んでいくんだ。なんなら、木こりの爺さんの所で見学するといいぞ」
「そうなんだ。じゃあ、今の所は必要なさそうだね。斧で木が切れたし」
「私達からすると、切れたんじゃなくて消えた様にしか見えなかったのだけれどね」
「うん、そこは加護の力って事で納得しておいて、どうにも出来ないし」
「それじゃあ、鎌は家にあるから鋸か鶴嘴を作るの?」
「それがいいかな。ただ、使い所が限られるけど」
「タイチならそのうち使うことになのでしょ?作っておきなさいな」
母さんの勧めもあり鶴嘴を作ってみる事にする。ただ、材木が足りないので先に原木から合成で木材へと加工することに。
「じゃあ、鋸と鶴嘴を作るけど、その前に原木を合成して使えるようにしてからになるね」
「お、じゃあ、その様子を見させてもらおうかな」
「わくわく!わくわく!」
「原木を使うから、念のため外でやるよ」
「家が壊れると怖いから、そうしてちょうだい」
家の横手に回りいざ合成を開始しようとしたが、念の為に注意を言っておく。
「期待している2人には悪いけど、きっと訳の分からない合成姿になると思う」
「「??」」
2人とも首を傾げているが、見てもらうしかないだろう。
メニュー画面から原木を選んでいざ合成を開始すると、2人から理解できない反応が返ってくる。
合成している姿が、しゃがんで不思議な行動を取っている様にしか見えない為だ。
「なにしてるの?おにいちゃん」
「それで、作れるのか?」
「みんなには見えてないだろうけど、この合成だと成功と失敗の判定を自分で調節できるみたいなんだよ」
「そんな事になっていたのね。畑で座り込んで居た時は、その説明もなかったから何もない所から金床やらが出てきて、焦ったわよ」
「あははは…。ごめんなさい。ただ、これじゃない合成だと、また違う状態になると思う。他にも、同じように合成の加護達があるから」
「「「………」」」
違う状態での合成の部分だろうか、それとも加護達と言ったのがまずかっただろうか?家族の様子が二分化されている。
やはり、ニーナの目は輝いているが、両親の目は暗くなっている。
そんな姿を見つつ、原木から木材への合成が終わる。
すると、合成一覧に木材の加工可能品が、いくつか解放されていく。その中には、家具や建材、腐葉土に釣り竿と予想外の物が次々と判明する。
これは、街づくりのゲームじゃなくても、家が作れそうな雰囲気が漂ってくる。早めに報告しておいた方が、あとで知られるより安全に違いないと、早期に判断を下すタイチ。
「ねぇ、木材にしたら、建材とか腐葉土とかが作れる様になったんだけど…?」
「建材?ってどういう事かしら」
「腐葉土?って畑に撒くやつだよな」
「あ、家具や釣り竿もあるよ!」
「私、釣り竿欲しい!」
うんうん、ニーナはそのままで居てくれると安心する。家具じゃない所に若干不安を覚えるけども…。
両親は原木から木材へ合成しただけで、なぜ建材や腐葉土が作れる様になるのが理解できない様子だ。それはそうだろう、原木を合成しているといっても、実際の物を目の見える所で加工していないのだから。加工品の大きさが理解の範疇に無いのだろう。
取り合えず、分かってもらう為に加工した木材をアイテムの欄から取り出してみる。
タイチはこの時、持ち物ではなくアイテムの中から木材を出しているが、両親が理解できていない事に意識が向いていた為、いつの間にか所持品の共通化がメニュー画面内で進行ている事に気づけていなかった。なぜ、牧場物で手に入れた素材が、RPGのメニュー画面で使えているかを理解しそびれているだ。
「これが加工した木材になるよ」
掛け声と共に完成品を取り出したが、思っていたよりも大きい木材が目の前に現れる。何も考えずに加工したためか、どうみても、
「タイチ、かなり大きいんだが、こんな木を切ったか?」
「……切ってないね」
「はぁ、また加護の力なのね…」
「お兄ちゃん、凄いね!これなら、色々作れるのも分かるよ~」
ニーナは木材を無邪気に叩いている。
だが、タイチと両親は加工前よりも立派になって出てきた木材に困惑しているのが伺える。
「タイチ、仕舞っておいてもらえるかしら。大きすぎて目立つわ」
「うん、わかった」
「それにしても、加護の力は凄いな。元の樹と木材じゃ別物だな」
「そうね、建材って意味も理解できたわ。それで、何が作れるのかしら?」
「スキルを上げると、壁板や屋根が作れるみたいだから、家を作れるよ。たぶん」
しばしの沈黙が訪れるが、その後の反応がどうなるか心配だなとタイチは思い至る。
「タイチ、家はお金が足りなくて作れないって言ってなかったか?」
「うん、それは間違いないよ。こっちは別の加護だから、家の完成度が全然違うよ」
「「………」」
「お兄ちゃん!新しい家を作ろうよ!」
先ほどと同じ反応が返ってくる。ニーナの切り替えの早さが素晴らしい…。
だが、両親の沈黙も理解できるので、どうしたものかと反応を伺っていると、返事が返ってくる。
「念の為に聞くのだけれど、家の完成度って言うのはどういう事なの?」
「え~と、別の加護のは前世の家が作れるけれどお金が全く足りないのは説明したよね?」
「えぇ、聞いたわね」
「で、今回の加護は、家を部品ごとに作るから、今の家をもう少し豪華にした木造の家になる位?だと思う。作ってみないと分からな過ぎて、こんな答えにしかならないけど」
「そうなのね…。あなた、任せるわ」
「うぇ?!ま、まぁ、作れる様になったら教えてくれるか?」
「分かった。スキル上げはしておくね」
「え~、すぐ作ろうよ~」
「無理だって。加護の力がまだ未熟だから、そこまでは作れないの」
「ぶ~、ぶ~」
そんなやり取りの後に、ようやく鋸と鶴嘴を完成させるのでした。
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