第16話 畑仕事は順調に
午後の畑仕事に戻り、ようやく「じょうろ」の使い心地を確認することになったが、両親ともに何かを悟った顔をしながら様子を伺っている。
「なあ、母さん。どうみてもじょうろの中に入れた水の量と撒いてる量があってないよな」
「えぇ、きっとこんな事になるだろうと思ってましたよ」
自分もじょうろで水を撒いてみたそうな父さんと、頬に手を当て呆れつつもその効果を見つめている母さんの声が聞こえてくる。
水撒きにおいても、加護の力が自重しない様子が見て取れる。
水汲みにかかる移動と労力が、一気に減っている事が嫌というほど体感できる。しかも、じょうろに直接入れて汲んできた水だけではなく、桶に汲んでおいた水をじょうろの中に入れても、同様の効果が出るのだからその効果は折り紙付きである。
更に、水を撒いた所だけではなく、その周辺も何故か水が注がれて地面の色が変わっている。
「お兄ちゃん、らくち~ん。たのし~い!!」
じょうろで水を撒いているニーナからその楽しそうな感想が飛んでくる。
タイチは自分が水を撒いた時と違う事が起きるかを確認していたが、どうやらPTを組んでいる相手だとさほど変わらない様子が確認できた。
「ニーナ!父さんにも変わってくれ!!やってみたい!!」
とうとう父さんの試してみたい欲求が限界を超えたらしい。いつもやっている水撒きが少し楽になったとは言え、その大変さは変わらない。
タイチは、メニュー画面を呼び出して、もっと楽に出来ないか探しはじめる。
「な~にかい~いものあ~りませんか~」
替え歌交じりにRPGのメニュー画面内のステータスを開いてみると、職業の項目が表示され農家が無い事が分かる。
「戦闘がメインのゲームに農家は無いよね~」
そう思い違うRPGのメニュー画面へ視線を移すと、こちらのステータス画面には調合や機械などのクリエイトと言うアイテム合成が表示される。
目的のものとは少し違うが、合成の部分で思い出す部分があった。
「そう言えば、同じ冠の名前が付いた作品でもオンライン系の作品になると物作りの職業があったっけ」
その事を呟いた途端に、メニュー画面が我先にと表示される物が出てきた。
武器やアイテムを合成するRPGが他にもあったためだ。だが、勢いよく表示されたものの、最初の合成にインゴットが必要だったりと、出鼻をくじかれる。
「出来れば、さっき手に入れた原木や鉱石から合成できると嬉しいんだけど」
その言葉に、控え目ながら目の前に出てくる画面が1つあった。
それは、オンライン専用となったRPGの作品だった。
「お~、職業に木工や鍛冶等がある。でも、確かこの手の職業はギルドに所属して初めて使えたと思ったんだけど?」
疑問に思ったが、どうやら切り替えさせてくれるらしい。
確かに村の鍛冶師の所へ行けば、作り方は習えてもメニュー画面から作るアイテムとはやり方が全く違う問題が出てくる。更に、突然目の前に完成品が出てくるので、作業内容が違いすぎて師事を乞うどころの話じゃなくなる。
試しに鍛冶師へ職業を変えてみると、鉱石をインゴットへ合成できるらしい。
どうやら銅鉱石と火に関する欠片を使用し、スキル上げも発生するようだ。
先ほど岩を壊した時に、そんな欠片も混じっていた事があったなと振り返りつつ、合成への興味でいっぱいになる。
「スキル上げ上等!やってみますか!!」
突然声を出してしゃがみ込むタイチに、母であるサーナは声を掛けようとしますが、どこからともなく金床が現れた為、動きを止めてしまいます。
金床で光る何かを叩いているタイチの様子に、どうしたものかと思案していると、光が収まります。
「ブロンズインゴットの完成~」
タイチの手には、棒状の金属の塊が握られているのがはっきりと確認できる。
その言葉と手に持っている品物を見て、サーナの目から光が消え、不穏な空気が流れ始めます。
「ちょっと、タイチ。良いかしら?」
母さんの優しい声で、ここが何処かを思い出す。
家族しかいない状況に油断し、周囲の確認も説明もせずに合成を行った事を理解するが、時すでに遅し。
笑顔の母の額にはっきりと青筋がみえる…。
「えと、あのですね。これは……、新しい加護をですね…。見つけたんです」
「そう、新しい加護を見つけたの」
「………はい」
「説明はしてくれないのかしら?」
「………………させてください」
「それに、今は他の人には知られない方が良かったのよね?」
「…その通りです」
母さんが近づいてき頬を捻り上げてくる。
どうやら、優しい笑顔は品切れになったようだ。
「な・ん・で。いきなりこんな事を始めるの!!」
「ごめんなふぁひぃ。せつめいふるから、はなふぃて」
母さんの雷に、畑で水撒きを楽しんでいた2人がこちらの様子に気が付いたようだ。顔を見合わせながら近づいてくる。
「なあ、どうしたんだ?いきなり大声で叱ったりして」
「……タイチが考えもなしに、新しい加護の力を使ったのよ」
「あ~~。それは、お兄ちゃんが悪いね」
「だな、ところで、それはどんなだったんだ?」
母さんは今さっきみた出来事を掻い摘んで説明していく。
「タイチが突然しゃがんだと思ったら、どこからともなく金属の台が現れて、その台の上で光っている物を叩いていたのよ」
母さんの説明を聞いていた2人だが、どうにも理解が及んでいない様子が見て取れる。きっと頭の上には「?」が表示されている状態に違いない。
「それで光が消えたと思ったら、タイチが完成って言って金属の塊を持っていたの」
ここまでの説明を聞いた所で、2人の視線がタイチの持つ金属の塊に注がれる。
「なんでそんなものを持ってるんだ?」
「ずるい!!新しい加護、見てないよ!!」
見事に興味の方向性が違う2人。
一応その説明を行おうとしたが、未だに頬を抓られたままで満足に話せない状態が続いている。
「せつめいふるふぁら、はなしてもらへる?」
母さんからひと睨み貰った後、離して貰えた。
「簡単に説明すると、さっき手に入れた鉱石と一緒に手に入ったなんとかの欠片って言う物を使って合成をしてみたんだ」
「その、合成って言うのをすると、金属の塊ができるのか?」
「今はこれしか出来てないけど、他の物も作れるみたい」
「となるとだ、まだまだ色々調べないといけない訳か」
「そうなるね」
「おし、じゃあ試してみよう、がっ」
その掛け声とともに、父の脇腹に鋭い肘撃ちが叩き込まれる。
また、母さんの一撃が入ったようだ。父さんも迂闊な事を言うから…。
「あなた達、同じことを繰り返すつもりですか。調べたいのなら、家に帰ってからに決まってるでしょうが!」
「お兄ちゃん。後でちゃんと教えてね」
「了解」
そのやり取りの後は、黙々と作業を終わらせて、家路に着くのでした。
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ご覧いただきありがとうございます。
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