第25話 お芋ほり
タイチは、前日のやり取りによって朝から疲弊している。だが、今日はフェリスの参加する芋ほりが予定されていた。
「何故だろう。昨日別れた時と違って、会う事に少し抵抗を感じる」
「やだな~、お兄ちゃん。フェリスちゃんが来てくれるんだから、笑顔でいないと」
「ニーナが焚き付けたって言ってるから、どうなるか分からなくて不安だ」
「自分に好意を持ってくれている
「親切に狩られる側って言われましたけどね」
「可愛いよね!ウサギさん♪」
プルプルと震えている事はしていないが、どこかウサギを感じさせるのだろうか。
「はぁ~~、こんな早くから疲れる事を考えてても仕方ない。わざわざ収穫を見に来るって言ってるのだし、笑顔で迎えるようにしないと」
「それなら、私にも、ねっ?」
『自分にも笑顔を』と要求するのはどうなのだろう?と考えたが、好感度の下がる行動をして、女性陣で連携と取られるとあまり良くなかった事を思い出す。
ぎこちない形で笑顔を向けると、不満の声が上がる。
「ひきつった笑顔は嬉しくないよ、お兄ちゃん」
「どうしろと……」
そうこうして居る内に畑の近くまでたどり着くことになる。丁度、新しく作った畑に向かう手前でフェリスと合流する事が出来た。
「やぁ、おはよう」
「おはよう、タイチ、ニーナ。おじさんとサーナさんは別の畑に行ったの?」
「そうだよ~。こっちはお兄ちゃんが居ないと、ちゃんと分からないから」
「分からないって…?もう収穫するって話だったわよね」
「そうなるかな?どこまで成長していて、どれくらいの物が収穫できるかも、まだ知らないんだ」
「昨日まで、水やりとかで来てた筈よね?」
「成長の速度が違いすぎるんだよ。だから、今日改めて確認しないと分からないって事」
「それなのに、ニーナは私に収穫するから来てって言ったの?」
「うん、そうだよ。収穫できなくても、別の物は見れると思って」
「ちょっと、タイチ大丈夫なの?ニーナが凄い楽天的な事ばかり言ってるけど」
「言葉通りの事は出来ると思うよ。まだ、加護の力の一部しか確認できてないし」
「……昨日の魚や果物だけじゃないのね?」
「あれは、序の口」
「………って、こんな重要な事、家族以外に話したらダメでしょうが!!」
親切にもフェリスはこちらを心配して怒り始めてくれた。しかし、フェリスを焚き付けた事を聞いていたタイチは、小声でニーナに質問してしまう。
「ニーナさんや、どうやらお嫁に来ると言った事は無さそうなんだが?」
「あれ~?おかしいな?昨日は良い感じだったのに。ちょっと聞いてみる」
そう言うと、フェリスの手を取って少し離れた位置まで移動していく。
「ねぇ、フェリスちゃん、お兄ちゃんの事好きだよね?」
「ちょっと、急になんなのよ?そんな事答えられるわけないじゃない」
「お嫁に来る気があるから、お兄ちゃんの加護を聞きに来たと思ったから。違ったんだね。じゃあ、加護を見せない形で、収穫するようにお兄ちゃんに説明してくる」
言うが早いか、ニーナが直ぐにタイチの元に戻ろうとするのを、フェリスは手を取って止める。
「待ちなさい。お嫁に来ないとも言ってないでしょう」
「じゃあ、来るの?お兄ちゃん、凄いよ。女性にもてる加護も持ってるらしいから、早い者勝ちだよ?」
「~~~んっ!?ちょっと、そんな加護があるなんて昨日言ってなかったじゃないの?」
「昨日家に帰ってから分かったんだよ。凄いよ、女の人の名前を言っただけで、お兄ちゃんのお嫁さん候補に名前が登録されたんだから」
ちなみに、正確には攻略対象として表示されたに過ぎないが、加護を知った女性からはタイチが狩られる側だと説明した為、女性陣は嫁候補だと思い込んでいる。
「ウソでしょ?!って、誰なの?教えなさい」
「え~~、どうしようかな~?」
「ニーナ?あなたサーナさんへ言いつけるわよ」
「ちぇ~、しょうがないな~。ミリアお姉ちゃんとヨミちゃんだよ」
「ちょっと、村長さんがお嫁に出さないって口にしてる村一番の美人のミリア姉さんと、タイチになついてるヨミちちゃんなのね」
「うん、そうだよ。フェリスちゃん、説明ありがと。強力な相手だよね~。こんな風にツンケンしてると、お兄ちゃんを先に取られちゃうね」
実際、名前の挙がった2人は、タイチの加護の事を知らないので、そのような事は未だ無いのだが、そんな事を知らないフェリスは焦りを感じ始める。
調子に乗ったニーナは、ここぞとばかりフェリスを煽る事にした様だった。
「あ~あ~、お兄ちゃんフェリスちゃんに気が合ったのに、フェリスちゃんはそうじゃないみたいだし、ミリアお姉ちゃんやヨミちゃんを連れて来ようかな」
タイチがフェリスに気があると言う事を聞かされ、顔が赤くなりつつもニーナが別の女性にターゲットを移すつもりかもしれないと聞かされ、待ったを掛ける。
「ニーナ、待ちなさい。今日は、わ・た・しが来たの。だから、その2人は今度にしなさい」
「えぇ?お兄ちゃんに興味がないのに、それはないよ~」
「あるわよ!」
「そうなの?あるんだ~♪」
「……良いから、向こう戻るわよ」
陽気な感じのニーナと、顔を赤らめながら睨んでくるフェリスが戻ってくる。
この時、タイチは2人がどのような会話をしていたかをメニュー画面を開いた為に知る事となっていた。
時間をつぶそうとメニュー画面を開いたのが良くなかった。
ノベルゲームの会話のやり取りと同じ画面が表示され、話す側の顔が交互に表示されて文字が流れて行っていたのだ。
『この機能は危険すぎる……。会話を盗み見る事ができるなんて、女性陣に絶対知られたらイケナイ』と固く決意するのであった。
ちなみに、「ドラマ仕立ての作品や探偵もの」などの会話にタイプのメニュー画面も増えつつあるため、女性陣の会話だけではなく、認識した人物であれば、視界に入っている限り会話を盗み見る事が出来るようになってきていた。
何所までこの機能が有効になっているかは、現在のタイチでは確認できていない。
「おかえり…。納得するまで話は出来た?」
「うん、もちろん♪お兄ちゃん、フェリスちゃんお嫁に来るって」
「ちょっと!言ってないでしょう!」
「えぇ~、言ってた事が違う~」
「タイチ、ニーナの事は無視して!早く収穫をしましょう!」
ニーナに
こんな風に反応してもニーナを許してるから、ちゃん付けで呼ばれているんだなとこの時になってタイチは
「それじゃあ、畑から収穫する前に、フェリスにも加護の影響下に入ってもらうよ」
「どういう事かしら?」
「特定の人数だけだけど、収穫に係る加護の範囲に入れることが出来るんだ」
「私でも?」
「そう」
「……私、豊穣の力の加護を持ってるわよ?」
「そこに、こっちの加護を上乗せ出来る」
「はぁ?出鱈目もいい所じゃないの?!」
「だから、加護を受けた時には、色々在り過ぎてここまで出来るって判らないから話せなかったんだよ」
「あぁ、そうだったわね。教えて貰えなかったものね」
「ね、フェリスちゃん。お兄ちゃんの加護と相性いいって言ったでしょ?」
「昨日言われたのは、こう言う事なのね…。何だか精神的に来たわ……」
「まだ、収穫もしてないのにね~」
「頭が痛くなってきたわ…」
タイチは、このままだと進みそうもないので、フェリスをPTの中に入れてしまう。加護同士が反発することも無かった為、採取の職業へ変更してからフェリスに報告をした。
「フェリスの体調が悪くなってるみたいだけど、先に加護の職業を変えておいたから、どこか気になるところはある?」
「待ちなさいよ!もう、加護を付けたの?!」
「うん、なので、僕とニーナには畑に光る場所がずっと見えてるんだけど、フェリスにも見える?」
「光る場所?えっ?、あーー!何か光ってる所があるわね…」
「良かった、家族しか試したことが無かったから、フェリスにも加護が掛かって安心したよ」
その答えを聞いたフェリスが
「…かぞく、家族、家族ね」
その横でニヤニヤしているニーナが見える。また、
「それじゃあ、フェリス。光る場所の前まで移動して貰える?そこで、収穫するって思って貰うと、加護の力が作用するから」
「え、えぇ。良いわよ。ここで収穫って思えば良いのね」
フェリスは、目的の場所に移動し手を組み合わせてお祈りをする仕草をしたが、加護の力が働いて強制的に収穫作業に入る。
「ちょ、ちょっと?!体が勝手に動いてるんだけど!!」
「あぁ、大丈夫、収穫が終わると止まるから」
「先に説明しなさいよ!!」
そうこうしている間に収穫が終わったようだ。実際には、畑から作物が掘り返されたわけでもなく、光が消えただけである。
「あの、掘り返してないのに手にお芋があるんだけど……」
「それは、加護の力で収穫した物だから、なんて言うかオマケ?的な物だと思って」
「すごーい!フェリスちゃん!!それ、20個くらい付いてない?」
「何でこんなに取れてるの?訳が分からないんだけど?!」
「あー、たぶん、フェリスの加護と重なったからじゃないかな?」
「ニーナは、そっちでやってみて」
「は~い」
もう一つあった別の場所でニーナが収穫してみると、6個程が収穫できていた。
「凄いね~。みんな粒が大きくそろってる♪」
「それがフェリスの方だと倍以上になるのか。これは、フェリスを手放せないよな」
その言葉を聞いたフェリスは顔を真っ赤にして俯いてしまっているが、これはタイチの言葉が足りていないのが原因でだった。
『これは、フェリスの加護の力は手放せないよな』が正解である。
本人には嫁に欲しいと聞こえただろう。
またしても、ニヤニヤしているニーナの姿が見えたが、この件に関しては勘違いさせていた方が良いと判断したらしく、介入は無かった。
しかし、まだ本格的な収穫作業は始まっていないのでした。
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