第24話 本日の報告会

 ※20話辺りから、キャラクターたちが自然に口にする言葉を待ってから話を作っていたのですが、予定していた方向と全く違う流れに進んでしまいました。また、会話が途切れなかった為、今回の話は少し長めです。


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 今日の釣りの成果を報告するだけのはずが、ニーナによって別の報告もする事になったタイチ。

 どうか、母親の怒りの度合いが少ない事を祈りつつ、釣果を報告する。


「母さん、今日はこんなにいっぱい釣る事が出来たよ」


釣った魚全てではなく、8尾だけを籠の上に置いて報告をする。


「凄いわね、ちょっとした時間しかなかったと思うのだけれど、こんなにも釣れるのね」

「お~、これだけ釣れるなら、一緒に行ってみたかったな」


そんな両親の反応に、ニーナから鋭い一言が投げ込まれる。


「お兄ちゃんのそれ、嘘だよ」


 その場の空気がピシッと固まった気がする。

 直に反応してはダメだ。もっと余裕を持って答えないといけないと、心の立て直しを図るタイチ。

 ニーナは何でしょっぱなから余計な事をしてくるんだろうと思案していると、助けようとしてくれていたことが分かる。


「本当は、ご近所さん家の分をもう配り終えてるの。だから、そこに乗ってる魚は余った分だよ」

「そうなの?タイチ」

「あ、あぁ、そうだよ。もう配り終えてるよ」

「ほら、あとで急にお礼を言われても、お母さん困るでしょ?」

「えぇ、そうね。そう言う報告はちゃんとして欲しいわ」

「って、事は、これだけあるのに一部って事か」

「そうだよ。お兄ちゃんの加護凄かったんだから」


 ニーナが主導となって釣りの釣果を説明していく。

 その釣れ具合に、両親の眉間に皺が寄っていくのがみえるので、タイチは黙り込んだままになる。


「タイチ、程々って言葉はどうなているのかしら?」

「これは、やりすぎだ。これが他の人に知られたら、助け舟すら出せないぞ」

「こんなに釣れるとは予測してなくて。釣り糸を入れると次々釣れるから止め所がなくなりました…。きっと父さんも体験してたら止められないと思う」

「そんなにか…」


 父さんから、試しに釣ってみたいと言う雰囲気が受け取れる。

 しかし、母さんからは、解っているのかしらと言った疑惑の眼差しが注がれている。

 だが、そんな母さんでも、機嫌を直す飛び切りの品物があるんですよ。

 いざ、『ご機嫌取りを』と気持ちを切り替えた所で、ニーナにその機会を取られる。


「お母さん、そんなに厳しくしてても、お兄ちゃんの加護は止まらないよ~。それよりも、今日は追加で報告があります!何とお兄ちゃんが新しい果物を手に入れたの。私も味見役になったけど、お母さん大好きになると思うよ~♪」


 キッと母さんの目つきが鋭くなり、こちらに注がれる。

穏便に話を進めようとしているのに、突然投げ込むのはやめて欲しい。


「報告はまだかしら?ねぇ、タイチ」


 頬に手を当てて首を傾げた母さんの頭に角の幻影がみえる。笑顔の鬼にならないタイミングを見計らってたのに、脆くも崩れさる。昼間のお返しなのか?と困惑するものの、素早く言い訳が口から流れ出る。


「ニーナが先に報告しちゃったけど、心の負担が軽くなってから、喜んで貰える様に準備してたんだよ」

「あなたの加護が出現してから、心が軽くなった日は1日も無いのだけれど?」


 おぉう、見事なまでに切り返された。ここで、委縮してはダメだ。次の言葉をひねり出すんだ。

 ニーナはこのままの説明だと、タイチの言い訳が無駄な努力になると感じたため、助け船を出すことにする。なんとも見事なマッチポンプである。


「お兄ちゃんがね、新しい果物を手に入れた時、『お母さんの魅力に負けない素敵な果物が手に入った!喜んでくれると嬉しいな~』って話してたんだよ」

「あら、そうなの?」


 母さんがちょっと気恥ずかしそうにしている。折角の助け舟だが、そんな事は全く言っていない…。しかし、機嫌が良くなりそうなので、その流れに乗る事にする。


「そうなんだよ。これは母さんに送るのに相応しい物じゃないかって話してたんだ」


 そう説明しながら、葡萄を3房取り出し、食べる為の諸注意も伝えていく。


「皮を剥いた方がお腹を壊しにくいけど、そのまま食べても大丈夫だよ。あと、種は食べずに外に出してね」

「離れていても良い香りがするな」

「これだけいっぱい実がなっていると、迫力があるわね」

「お兄ちゃん、さっき食べた時は皮を出すって教えてくれなかったのは何で?」

「1粒だけだならお腹を壊さないし、平気だろうと思って」

「むむむ、信頼されてるみたいだけど納得いかない」

「まぁまぁ、機嫌を直す意味でも、葡萄をお1つどうぞ」

「ん~~、また新しい果物を見つけてくれるなら許してあげる」

「おい…、難しい注文だすなよ」

「え~、そうかな?お兄ちゃんならすぐ見つけてくるでしょ?」

「そうね、あなたなら見つけてきそうだわ」

「その通りだと思うぞ」


 きっとまたやらかすだろうと、別の方向で信頼されている様だ。加護の力が本気を出していないのは判っているから反論しにくい。


「…ご期待に添える様に善処します」

「くれぐれも、騒ぎになる様なものは避けて頂戴ね」

「収穫してから分かる事があるから、何とも言えないけどね。実際、この葡萄がそうだよ」


 机の上に出している葡萄が、意図しない収穫物である事を両親に伝える。


「まあ、私達しか知らないのだし、その辺はうまくやりましょうか」

「そうだな」


 そのような両親の会話に冷や汗が出てくる。フェリスの件を、どのように説明しようか考えたが、既に葡萄を食べさせた後である。


「えっと…、ごめんなさい。フェリスに1粒食べさせてます」


 本日2度目の沈黙の時間が訪れた。

 更に、両親からの質問タイムの始まりの様だ。


「タイチ、どうして食べさせたんだ?」

「魚を配りに行った時に、ニーナが食べさせたら良いことがあるって言うから」

「ニーナの所為にしないの。で、ニーナはどうしてそんな事をしたの?」

「ん~?フェリスちゃんを引き込むためにしたんだよ」

「その辺りの説明をしてもらえるかしら」

「うん、いいよ~」


 そこからの説明は、ニーナがフェリスに対して、タイチの加護の内容を軽く教えていたことが伝えられた。


「え~と、フェリスちゃんは、タイチの加護をさらっとした部分だけ知ったのね?」「うん、そうだよ~。フェリスちゃんの加護の力って、お兄ちゃんと相性が良いし、きっとこっち側になってくれるから」

「しかも、明日の約束までしてるのか。これは、もうタイチに任せるしかないな」

「そうそう、ついでに~♪お兄ちゃんの事も御奨めしておいたから、未来のお嫁さん候補確保だね♪」

「おい!そんな話一切聞いてないぞ!!」

「えっ、今言ったじゃん」

「いや、そうじゃなくて~~」

「だって2人とも仲が悪くないでしょ?今日も意識してたみたいだし。それに~、私もお兄ちゃんに養ってもらうから、問題なし無し♪」

「何が問題なしなのか分からないぞ!」

「え~、今日の帰り道、責任取ってくれるって言ったじゃない」

「いつ!?」

「はぐらかすんだ~?でも、安心してね。フェリスちゃんには報告してあるから♪」


 そんな2人のやり取りをしていると、両親から声が掛かる。


「ダメね、ニーナの方が1枚も2枚も上手だわ」

「タイチ、諦めも肝心だぞ」

「良かったわね、ニーナのお陰でお嫁さんが増えて」

「えへへ、私出来る子だから」

「んーーー。会話が嚙み合わない所がいくつかあるんだけど?」

「え~と、どこからかしら?」

「まずお嫁さんが増えてって、1人目はどこにいるの?」

「この子は何を言っているのかしら?1人目は、ニーナでしょ?いつかこんな事になるんじゃないかと思っていたけど、その通りだったわね」

「What?妹だよ???」

「妹ね、義理の妹になるけれども」

「……なぜ結婚の話が?」

「さっき、責任を取るって言ってたのでしょ?」

「おぉぅ…、そこに繋がるのか…」

「タイチはニーナの髪の色が違う事に疑問を持たなかったのか?家族で1人だけ違ったら、気づくだろ」

「…村の中に、猫耳の生えた子とかエルフの子が普通に生まれてたから、隔世遺伝でもしてるのかと思って」

「隔世遺伝ってのはよく分からないが、取り合えず勘違いしてたって事か」


 村の中だと色々な種族の人が混じっているから、ニーナも隔世遺伝で髪の色が違うと思っていたのに。ちゃんと両親に質問して聞いておけば良かった…。


「タイチ、あなた自分が村の中でどんな風に見られているか気が付いているの?」

「え?家族思いのよく働く少年?くらい」

「その辺りはそうだけれど、加護の内容を知った女性陣から見ると全く変わるのよ」

「たとえば?」

「オオカミの前のウサギね」

「え~と、僕がオオカミ「「ちがう」」…ですよね~」

「逃がして貰えると思ってないでしょうね」

「加護の力があるから逃げる事は出来ると思う」

「その場合には、首に縄が付くわね。それに今の一言で、ニーナに加護の力で逃げる事がバレたわよ」

「ハッ?!」

「うふふふ、お兄ちゃん逃がさないからね♪」

「病んでらっしゃる?!その笑顔な所まで母さんに似なくてもいいのに!!」

「タイチ、覚えてなさい」

「こっちも?!」

「タイチ、諦めが肝心だぞ」

「さっきも聞いたけど、言い回しが違う?!」


 この様にわたわたとしていた所で、両親から落ち着く様に注意が入る。

 少し落ち通た所で、更に聞きたいことを口に出す。


「ニーナはいつから義理の兄妹だって知ってたの?」

「あなた、気が付いてなかったのね。ニーナは5歳の頃から、義理の兄妹って知ってたわよ?」

「そんなに前からか?つい最近の事だと思ってたが、女の子は侮れないもんだな~」

「あなた達が鈍いんじゃないかしら?フェリスちゃんもその辺り知ってるわよ」

「うんうん、女の人に興味があるのに、手を出さないお兄ちゃんが珍しいんだよ」


 前世でゲームばかりしていた為に、女性への対応が下手なのが顕在化している。

 また、男性陣には理解の及ばない女性陣による独特のネットワークは油断できない。


「だけど、お嫁さんが複数人ってどうなの?」

「あら、村長さんの所や商家のダインさんの所は、奥さんが普通に3人居るでしょう」

「いや、でも、急にニーナの事を言われても……」

「お兄ちゃん、私の事キライなの?」

「グッ…、キライじゃないです。と言うか、その質問は卑怯だと思います!」

「タイチが普通に受け入れれば良いだけでしょうに。それだけ色々出来るのだから」

「でも、父さんは母さん1人だけじゃないか」

「そりゃ~、母さん以外目に入らなかったからな」

「もう、あなたったら!」


 母さんが父さんの肩を思いっきり叩いている。今でも仲がいい2人だから、そうなるんだろうなと思ったところで、それなら自分もと考えを持ち直す。


「それなら、僕も好きな人と2人で「「無理だから」」……」


 母さんとニーナのツッコミが重なる。何故だろう、理不尽な感じがする。


「いい?タイチ。あなたは狩られる側よ?」

「そうそう、私とフェリスちゃんに狙われてるというか、確保済みだからね♪」

「だって、まだフェリスは未確定だよね?!」

「ううん、さっき焚き付けたから多分無理~~」


 その様子を見ていた父さんから、意外な質問が飛んでくる。


「なあ、タイチ。これだけ女性に注目される事があるって事は、収穫以外の加護が関わってたりしないか?」

「へ?加護が?」


 そう言われて、メニュー画面を開いて念じてみる事にする。背中に嫌な汗が流れていったため、声も出てしまう。


「女性に係るメニュー画面よ出てこい!」


 目の前に複数のメニュー画面が表示されることとなる。その中に、好感度の表示される欄がある…。こんな隠し玉みたいな形で隠れてるなんてと思ったが、作品が一つではなかった。

 一番有名なときめきシリーズは分かる。何故かサクラシリーズに、恋愛ゲームとして確立されていた「トゥルー/センチメンタル/アマ〇〇/キミ〇〇」等々、記憶をかすめた瞬間にどんどんと増えていく。これ以上思い出さない様に考えるのを止めると共に、声も飛び出す。


「あーーー!!ストップ!!ストップ!!ストーーップ!!」


 突然、タイチが大きな声を出し始めた為に、家族全員がビックリしている。


「タイチ、やっぱり加護が影響してるのか?!」

「そうなの?お兄ちゃん」

「思いっきり加護が絡んでる……。どうしよう、女性に対して適切に対応すると好感度が上がって、攻略対象になるかも…」

「これは逃げられないわね。タイチ、頑張りなさい」

「お兄ちゃん!誰が表示されてるの?!」


 取り合えず近くにあったメニュー画面を確認してみる。

今の所2人しか表示されていなかった為、胸を撫でおろす。


「ニーナとフェリスしか名前がないよ。危なかった~|」


ニーナは、その答えが気になったようだ。


「あれ?それしか表示されてないの?村長さんの所のミリアお姉ちゃんとか、ダインさん所のヨミちゃんとかは?」


 その名前を聞いた途端に、メニュー画面内に候補として名前が表示される。


「あぁーーー!!増えた!!ニーナ、何してるの?!」

「あ、やっぱり名前が出るんだ」

「タイチ、良かったわね。お嫁さん候補が増えて」

「良くないよ!狩られる側って言ったの母さんじゃないか」

「タイチ、諦めろ」

「3度目が一番辛辣だよ、父さん!」


 今日の報告会は、未だに終わる気配を見せていなかった。


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ご覧いただきありがとうございます。


一部、セリフに間違いがあったので修正しました。

ニーナ ×昨日 〇さっき

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