第23話 ニーナさんは楽しそう
一番最後に配りに行ったフェリスの家で、あんな約束をする事になるとは思わなかった。
~ 回想 ~
「あら、タイチとニーナじゃない。どうしたのこんな時間に?」
「やっほー。フェリスちゃん、お裾分けに来たよ~♪」
「川で釣りをしたんだけど、多く釣れたんだ。良ければ貰ってくれないか?」
「えぇ?こんな立派な魚を貰っても良いの?お返ししようにも、今は何もないけど…」
「あぁ、良いんだ。取れすぎて食べきれない量があるから、貰ってくれると嬉しい」
「そうそう、お兄ちゃんの加護の所為だから、問題なしなし♪」
今の発言が十分問題なんだがと思ったが、既に言ってしまったのではどうしようもない。
「タイチの加護の所為?そう、ニーナちゃんには教えたのね?」
あれ?笑顔なのに、フェリスさんの機嫌が少し悪くなったんですけど、どうしてですかね?家族に相談するって間違ってないと思うんだけど…。
「ほ、ほら、言える様になったら教えるって約束しただろう?その、か、加護の相談を家族に先にしてたんだよ」
「あら、そうだったのね。勘違いしてごめんなさい」
なんだろう、納得したのにしてない雰囲気が、妙に突き刺さる。
「ね~ね~フェリスちゃん。フェリスちゃんの加護ってなぁ~に?」
ニーナさんや、少し空気を読もうじゃないか。どうにも、わざとやっている気がしなくもないが。
「私?私の加護はタイチが知っているけど、教えるわね。豊穣の力よ」
「たしか豊穣の力は、畑とかの成長を助けてくれる加護だったよね」
「それなら、お兄ちゃんの加護ととっても相性がいいよね」
その言葉を聞いた途端、フェリスの機嫌が良くなった。
「そ、そうなのね。私の加護の力と相性がいいんだ。ふ~ん、そうなの」
若干顔を赤くして横を向いている姿が少し可愛い。これは色々期待しても良いのだろうか?フェリスを見つめている時間はそれ程長くは無かったのだが、急に意識を引き戻される。
「痛っ?!なんで抓るんだよ?!」
今度は、ニーナに脇腹を
追加で質問の言葉を口に出したいが、言ったら言ったで、この場が更に荒れそうな予感がする。そこまで考えを巡らせていたが、ニーナからハッキリと答えが返ってきた。
「なんだか、顔がデレっとして気に入らなかったから?」
「そこ、疑問形で攻撃してくるの止めてくれる?!」
「ほら、お兄ちゃんは妹を可愛がらないとダメでしょ。それなのに他の
「堂々と言わないで欲しいな。ほら、可愛い可愛い」
少し乱暴にニーナの頭を撫でまわす。髪が少しぐしゃぐしゃになったが、本人は満足しているようだった。
「相変わらず、あなたたち仲が良いわね」
「むふぅー、妹の特権ですから♪」
「ふふふ、そうね。特権よね」
フェリスがくすくす笑いながら声を掛けてきたと思ったら、ニーナと突然意思疎通が完了していた。なんだろう、この疎外感は…。
その裏側で、どこぞのメニュー画面内で爆弾表示が出たが、女性陣の行動によって即座に消えた事に、タイチは気が付いていない。また、加護の判定によって、2人がヒロイン候補に昇格しているとは考えていなかった。
「うん、まあ、2人の機嫌が良くなったのなら良かったよ」
「大丈夫よ、ちょっとした事だから」
「そうそう、お兄ちゃんは気にしない気にしない」
そんなやり取り後に魚を手渡していると、ニーナが何かを思いついたようだ。
フェリスが台所に魚を置きに行ったのを確認した後、腕を引っ張られ耳元で囁かれる。
「お兄ちゃん。さっき食べた葡萄を1粒頂戴♪」
何か悪戯でも思いついた事が分かる。もちろん小声でやり取りを返す。
「大よそ何をするのか分かるけど、やって得があるのか?」
「もちろんだよ!まかせて!」
余計な問題が増えるだけじゃないかと疑ってみるが、凄く楽しそうな笑顔にあきらめの気持ちが先に来る。ダメだ、渡さなくても何か別の方法でやりかねないと直感が囁く。
「問題だけは起こさないようにしてくれよ?本当に信じてるからな」
「おっまかせ~♪」
そう言うと、ニーナは手渡した葡萄をもってフェリスの後を追って台所へ行く。
小さい声でのやり取りが聞こえる。
「フェ~リスちゃん、目を閉じて口をあ~け~て」
「なに?なんなの?ちょっと怖いんだけど」
「良いから良いから~♪絶対損はさせないよ~。絶ッ対幸せになれるよ」
「それなら、目を開けてても良いじゃない」
「ん~、色味的な問題で、味を知ってからの方が良いと思う?」
「何で疑問形なのよ。まあいいわ。変な物だけは止めてよね」
「うん、そこは大丈夫、はい、あ~ん」
「あ~ん」
そのあと聞こえてきた声にならない歓喜の声って、あぁ言うのを言うんだろうなと、ぼんやりと聞いていると、大きな声が聞こえてくる。
「なによこれ!!凄く甘くていい香りがするじゃない!!」
「えへへ~、どう?凄いでしょ~。お兄ちゃんの家族だとこんなに美味しいものが食べられる様になるんだよ~。と言うか、お兄ちゃんと離れると不幸になるよ」
ん~?⤴ニーナの声が「凄いでしょ~」の後から、小さくなって聞こえて来なくなった。何だか雲行きがおかしい気がする。
どうやら、フェリスも小声で返しているみたいだ。
「ちょっと、どういう事なの?不幸になるって?」
「今食べたでしょ。それが、お兄ちゃんの加護の一部なの。全部じゃないの、一部なの」
「ウソでしょ?!」
「ホント~。明日、フェリスちゃんから貰ったお芋を収穫するから来てみると良いよ」
「えっ?収穫って、渡してからそんなに時間が経って無いじゃない?どういう事??」
「だ・か・ら、加護の力って教えてるんじゃない」
「それで、あの時教えてくれなかったのね…」
「きっと言えないと思うよ。まだ詳しく聞いてないけど、家を作れるって言ってたもん」
「ちょっと、そんな加護ありなの?」
「ん~?貰った加護だからありじゃない?と言う事で、私はお兄ちゃんから離れないから!」
「あなた、それを言いたかっただけでしょ!」
「にしし♪後はフェリスちゃん次第だよ~」
バタバタと楽し気にニーナが戻ってくる。フェリスも若干ふくれっ面になっているものの、そこまで機嫌が悪いようには見えない。
「ねぇ、タイチ。いま食べたのって、まだあるの?」
「多分?収穫できるなら可能だと思う」
「なんだかハッキリしない返答だけど、また食べさせて貰えるのよね?」
「手に入ったら持ってくるよ。今ある分は、まだ両親に報告してないから」
「えっ?私が先に食べちゃって良かったの?」
「いや、ニーナがやってみたい事があるからって」
「むふふふ~」
「褒めてないからね?これがバレたら母さんに怒られるから、そしたら道連れにするよ」
「えぇ~、フェリスちゃん。お兄ちゃんがイジメる~」
「いや、あなた怒られてきなさいな」
「フェリスちゃんの裏切者~~、共犯者にしてやる~」
「あなたねぇ~」
そんなやり取りをしていると、誰ともなく笑いが起きてくる。
丁度それが区切りとなったのだろう、別れの挨拶をしていく。
「それじゃあ、また」
「フェリスちゃん、また明日ね~~」
「えぇ、また明日ね」
~ 回想終了 ~
フェリスの家から離れ、家路に向かっている時に、ニーナに聞いてみた。
「明日、フェリスと遊ぶ約束でもしたのか?」
「ううん、違うよ。フェリスちゃんから貰ったお芋を一緒に収穫するんだよ」
何を言っているのか理解するのに時間がかかった。
「え~と、ニーナさんや。加護の事は秘密でしたよね?」
「うん、そうだよ。だから味方になってくれるフェリスちゃんを巻き込んだの♪」
「お~ま~え、な~~~!父さんと母さんに相談もなく、そんなことしたら怒れるだけじゃすまないだろう!」
「ダイジョブ、ダイジョブ♪」
「何が大丈夫なんだよ」
ニーナの頬を引っ張って縦に揺する。
「いひゃい、いひゃい」
「しっかり反省するまで止めないからな」
「はんふぇいしたから~」
摘まんでいた頬から指を離すと、ニーナから抗議の言葉が飛んでくる。
「もぉ~~、可愛い妹の顔に傷あとが付いたらどうするつもりなの。責任取ってもらうんだからね~」
「はいはい。取ります、取りますよ~」
気やすい感じでやり取りを返しているが、ニーナの思惑通りに進んでいる事に気づいていない。
「じゃあ、よろしくね♪お兄ちゃん!」
「ん?あぁ…、よろしく?」
ニーナは楽し気に、小走りで家の方角へ走って行ってしまう。
一体何だったのか理解しきれていないタイチは、その後を追って帰るのでした。
------------------------------------------------------------------
ご覧いただきありがとうございます。
ニーナのセリフに、ワザと「大丈夫」ではなく「ダイジョブ」を使用しています。
口にしてみた時の音感で選択しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます