第44話 今後の方針について

 既に切り開いてしまった場所がある事を、村長一家に伝えたがそれを含めて今後どうするのかを相談する事になる。


「それで切り開いた場所はどうなっているんじゃ?」

「加護で切り開いた所は、木と切り株が取り除かれていて、邪魔な岩も無い状態になってます。何もない状態です」

「何とも判断にこまるの~」

「タイチ君、そのまま放置してると何か起きたりする?」

「もしかしたら、加護の力で何かしらの作物が出てくる可能性がありますね」

「切り開いただけでも加護が作用するかもしれないのね…」

「厄介な…」

「あなた、畑を作る事と収穫が多くなる加護として広めてしまった方が対応がし易くないかしら」

「それが一番隠しやすいか?」


 話し合いの中で、先に1つの効果を大々的に広めて置けば、そう言う加護として誤認させ易いかと候補に挙げていく。

 その後、タイチに関して何か聞かれるような事がある場合、村長若しくはミリアを経由しての説明をする段取りをつけた所で、本日の話し合いは終了となった。


「それじゃあ、タイチ君。明日、私が家にうかがうから、よろしくね」

「あ、はい。切り開いた所の確認ですね」

「違います~。カインさんとサーナさんへのご挨拶です~」

「あ~、そっちですね。じゃあ、お昼頃に家に居る様にします」

「ミリア姉、お昼はどうする?一緒に作る?それとも、お兄ちゃんの加護の料理にする?」

「…タイチ、新しい加護の話を今追加で聞いたんじゃが」

「え~と、少しだけ加護で作れるものがあります。他の加護はもっと凄いですけど話しますか?」

「いや、知らない方が嘘の説明をしなくて済む。大きく問題になるまで、そのままでええ」

「じゃあ、代わりに私が聞いておくわね」

「まかせる」

「それで、作る側?食べる側?」

「食べる側で」

「ホントごめんなさいね、タイチくん。洗い物位はさせてから帰らせてね」

「あはは…、分かりました」


 タイチ達は、翌日の予定も大まかに決まったので、挨拶をしつつ村長宅を後にする。その挨拶の最中、余計な事を口にしたニーナは、フェリスとヨミに頬を引っ張られていた。

 村長宅から離れてから、タイチから庇う台詞を聞けなかったニーナは、抗議の声を

上げていた。


「お兄ちゃん、少し位庇ってくれても良かったじゃない」

「いや、話が纏まりかけた所に、新しい加護を口にするのもどうかと思うんだけど…」

「どうせどこかでミリア姉に食べさせる事になるんだから、先に教えて置けばいいんだよ」

「あ、そう言う意図があったのね。単純に食べたいから口にしたんだと思ってたわ」

「ん、いつでも食べれるのにズルイと思った」

「どうせなら、お昼に美味しい物が食べたいと思ったのはホントだし、ミリア姉の胃袋を掴んでおくのも良いかな~と」

「ねえ、もう一度引っ張っていい?」「するよ」

「それはイヤ!」


 すかさずタイチの背に隠れ盾にするニーナ。仕方なしにその場を収める為に、会話に混ざるタイチがそこに居た。


「まあまあ、2人共。そのご機嫌斜めな分を、明日のお昼で鎮めるつもりはない?」

「あら、そう言う方向で鎮める気なのね。いいわ、その案に乗るわよ」

「ん。お昼、楽しみ」

「え~~、なんか納得いかない」


 結局、全員に食事を振舞う約束をすると、即座に快諾するフェリスとヨミの態度に自分たちも食べたかっただけじゃないかと思う気持ちが、ニーナの心の中を漂う。


「そもそも、お前が原因だろうに…」「む~」

「それで、タイチ。何をご馳走してくれるの?」

「ん~、何が良いのかね?全然案が浮かばないんだよね」

「それなら、少し遠回りしながら、採取できる物を探してみるのはどう?」

「それが良いかな。じゃあ、ちょっと遠回りしつつ何が食べたいか意見を言って貰える」

「お肉!」「魚!」

「ちょっとあなた達、手に入れるのに時間の掛かる物はどうなのよ」

「肉はどうやって手に入れるか考えないとダメだけど、魚はそれ程でもないかな」

「ん?直に釣れないよ?」

「ヨミチ、加護で釣りをすると、10分で10匹以上は確実に取れるよ?」

「?!」「それでこの間のお裾分けね」

「そう言う事だね。だったら、魚にしようか?」

「え~、魚ならお兄ちゃんまだ持ってるから、お肉が良いな~。手に入れる方法から考えようよ~」


 タイチは、ニーナが中々に無茶ぶりをしてくると一瞬考えたが、色々とメニュー画面を思い返してみると、それほど無理と言う範囲ではない気がしてきた。


「あれ?意外といけるかも?」

「えっ?!もう方法思い付いたの?」

「職業を戦闘職にして、遠くから狙いを定めると行けるんじゃないかと思って」

「ん?先頭しょく??」

「狩人や魔法使いの事だよ」

「でも、職業に付いただけで上手くいくのかしら?」

「まあ、試しに設定してみようか。希望があれば、それに近い職業を付けるよ」

「ん~、魔法使いたいかも?」

「私もね」

「弓が良い」

「了解、ニーナとフェリスは、魔法使いで、ヨミちゃんは狩人にしておくかな」

「わ~、楽しみ~」「ん」

「ありがとう」


 各々の希望を聞いので、それに対応する職業に設定していく。

 タイチが、魔法使いと大雑把にしたのは、作品によって黒白赤青などの細分化されたモノがあるので、一纏めになっている職業の方が融通が利くのではないかと考えたからであった。

 勿論、自分も魔法使いに設定し、どうすれば魔法を使う事が出来るのか調べて教える事を予定していた。


「それじゃあ、職業を設定したけど、ここだと人目があるかもしれないから、山の麓で練習してみようか」

「は~い」「そうね」 

「タイチ兄、弓と矢がないよ」

「移動したら作るから待ってて貰える?」

「わかった」


 今まで使った事のない魔法と言う力に浮かれつつも、移動を開始する。

やはり気が急いているのか、速足で移動していたのは致し方ない事だろう。


 人目の少なくなった山の麓に到着した4人は、早速練習を行う事を選択する。

勿論、弓と矢を作成しヨミに渡しておくことも忘れない。


「さてと、魔法を初めて使うんだけど、どんな魔法があるか知ってる?」

「火とか水じゃないの?」

「土の魔法も見た事があるわね」

「風もあったはず」

「やっぱりその辺りの4属性が有名だよね」

「それ以外だと、植物の魔法があったっけ?」

「それ以外だと、結構ごちゃまぜに色々あるんだけど、教えておいた方がいい?」

「教えて置いて貰えると、使えるかも知れないから、お願い」

「一杯使えると良いよね~」


 その言葉を受けて、タイチは思い出せる範囲の属性を教えていく。

火水土風氷雷闇光無木重爆などの思いつくものを伝える。


「ちょっと待ってもらえるかしら…。多い……、多いのよ!!」

「ホントに一杯だね~。どれから試そうかな~」


 どうやら思っていたよりも種類が多かったようだ。

 その為、フェリスは額に手を当てて悩んでいる模様。対照的にニーナは、ウキウキとした様子で、放置しておくとむやみやたらに魔法を撃ちかねない気がする。

 余りおかしな魔法が使えるようになっても困るので、基本の4属性へと誘導する事にする。

 今まで、固有の魔法名を聞いた事がないので、使用者の意思で魔法が変わっていく事を危惧した事を報告しておく。


「最初だから、何が使えるか順々に試すしかないけど、たぶん火水土風辺りが使えるんじゃないかな?」

「ふ~ん、そうなんだ。じゃ、火の魔法を~」

「まった!!」

「ふぇ?」

「山火事になったら困るから、火は川か湖に撃つまで禁止で」

「あ、そっか。ここだと、いっぱい燃えそうだよね」

「せめて水の魔法が使えて、火が消せる様になるまでは使わない方向で行こう」

「は~い」


 魔法の多さに額に手を当てていたフェリスが再起動して会話に参加してくる。


「ねぇ、タイチ。魔法と言っても、今まで見た事のあるのって、窯に火を付けたり水瓶に水を入れたりする所だけなんだけど、どうすれば良いと思う?」

「そうだね。まず、魔法を使う魔力が体の中にあるのか、空気中に漂ってるのか、そこから調べるのが良いんじゃないかな」

「あら、どっちにもあるのね」

「いや、どっちにあるか分からないから、調べようかなと」


 そんなやり取りをしている横で、木に向かって水弾を撃ち込んでいる姿がある。

バスケットボール位の大きさで、速度もかなり出ている。人に向けたら骨折はするのではと思う威力の様だった。


「あははは、おもしろ~い」

「ねぇ、タイチ…」

「もう使ってるね…」


 ヨミも負けじと弓を連射している。しかも、的に選んだ木の中心から10㎝と離れない範囲にいくつも撃ち込んでいる。


「…なんだろう。この置いて行かれた感」

「早く使える様にならないと、役立たず認定されそうね」

「フェリス、頑張ろう!」

「そうね、何か一つでも使える様にしましょう」


 その後、タイチは記憶にある魔法を思い浮かべるだけで直に魔法を再現する事ができたが、フェリスは中々思う様に出せずに苦戦していた。


「何で出ないのよ!」

「え~と、体の中とか外の空気から、こう身体の中を流れる道を作ってみて」

「どういうことかしら?」

「ん~、漫画だと魔力循環とかあったから、実際にやってできるかな…。物は試しだし、やってみようか」

「え?えっ?!」


 タイチは困惑しているフェリスの手を取り、自分と輪になる様に繋ぐ。

そして拙いながらも、ゆっくりと魔力を左手から右手に向かって流れる様に操作する。


「あ、なんだか温かい感覚がする」

「よかった、これが魔力だと思って」

「これをどうすれば良いのかしら」

「これを、水とかに変わる様に念じて、飛ばしたり水瓶に貯めたりするように考えるんだよ」

「なるほどね、ちょっと手を離して貰える?」

「あぁ、頑張って」

「えぇ、任せて」


 先程、ニーナの水弾を見ていた事もあり、似たような大きさとスピードで魔法を使う事に成功する。

 その姿を確認できて安心したタイチだったが、近づいて来たニーナに両手を取られる。


「え?」

「私もやる」

「あぁ、はいはい。魔力を流すから、受け入れる様にしててね。拒絶しようとするとどうなるか分からないから」

「分かったから、はやく~」

「じゃあ、いくよ」

「ほあ~、これがそうなんだ」

「ん?ちょっと待って、じゃあ何で魔法撃てたの?」

「え?何となく、水の塊飛んでけ~って」

「……」


 どうやらニーナは、魔力を理解せずに魔法を使っていた様で、タイチは絶句する。

そんな状態で魔力循環を行っていると、ヨミが2人の手の上に自分の手を合わせてきた。


「お~ なんか流れてる」

「え?1人づつじゃなくてもいけるの?!」

「ん?なんの事かわからないけど、流れてるよ」

「あ~、想像力って大事なんだね……」

「ん?」

「いや、1人にしか出来ないと思ってたのが、複数人でも出来たって話だから、ある意味お手柄だよ。ヨミちゃん」

「ん!まかせて!」

「お兄ちゃん、魔法使いの職業じゃなくても、魔力ってあるんだね」

「あぁ、そう言われればそうか。あ、加護の画面みれば良いんだった」


 そう言葉にしてメニュー画面を確認すると、魔法職よりは少ない形だが、狩人の職業にも魔力があった。離れている両親の部分も確認する事ができ、魔力があるのがうかがえた。

 これにより、タイチは誰にでも魔力があるのだと結論付けたが、実はそうではなかった。

 メニュー画面内の戦闘系が一つだけ採用されては自分の出番が無くなると思った為に、メニュー画面の力が複数働いたため現れた結果である。

 ちなみに、体力の表示も最初であれば2桁であろうものが、現在は3桁表示されている。

 そこまで気が付いていないタイチには理解できていないが、突然、父親の体力ゲージが2割ほど減ったのを確認した。


「うわ?!」

「え?どうしたの?」「なになに?」「ん?」

「いや、父さんの体力の欄が急に減少したから…」

「あ~、お母さんに肘撃ちでも受けたんじゃないの?」

「ありそう…」

「離れててもそんな事が分かるのね」

「ふしぎ」

「同じ村に居るからかもしれないよ。離れたら見えないかもしれないし」

「ふ~ん、そう言うものなんだ」

「試してないからだけどね」

「帰ったらお母さんに肘撃ちしたか聞いてみよ♪」

「あとで教えて」「知りたい」

「気を取り直して、もう少し連取したら、獲物を探しに行こうか」

「は~い」「そうね」「ん!」


 タイチ達4人は、再確認をしたあと山へと入っていくのでした。


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