第43話 お茶の間の報告
家の中に入った一行は、シーリアからお茶を振舞われていた。
流石に突然で押しかけた事もありタイチはミリアの機嫌を取る為に採取した巨峰をシーリアに渡していた。
「あら?タイチくん、これは何かしら?」
「ミリア姉さんの為に取って来たんですけど、急にお邪魔してしまったのでみなさんにも食べて貰おうかと思って。これは葡萄の一種で巨峰と言います。皮は食べずに外に出してください。あと、中に種があるのでそれも外に出して下さい」
それを聞いたミリアは、自分の為に取って来た巨峰に興味を示していた。
「ね、タイチ君。それって私の為に取って来たってホント?」
「そうだよ。ただ、渡す機会がなかったから仕舞っておいたけど」
「ホントはワタシが採った」
「ま、お兄ちゃんの加護があるから採れたんだけどね」
「えっと、加護が無い状態だとどうなるのかな?」
「あそこで手に入るのは、山ぶどうになるね」
「えっ?あれ食べられないでしょ」
「ミリア姉さん、そこは深く考えたらダメだと思う。私も思うところがあったけど飲み込んだから」
「卵の収穫の時が凄かったよね~」
「ワタシもやってみたい」
「タイチくん、受け取っておいてなんだけど、見た目は完全に違うから山ぶどうではないのは分かるの。でも、これ食べて平気なの?」
「シーリアさん、大丈夫ですよ。ここにいる4人は全員食べてますので」
「食べないなら持って帰りたい」
「ヨミチ、ダインさんに質問攻めにされるよ」
「ふふん、大丈夫。父、ウザい、アッチ行ってって言う」
少し離れた位置に座っていた村長が密かに肩を震わせている。タイチは今さっきの事を思い出す言葉を聞かせるのは忍びなく思い、ヨミの頭を撫でて意識を逸らす。
それをみたニーナはすかさず自分の頭も撫でろとばかりに、頭を突き出してくる。
「ヨミちゃんも、もう少し優しくしてあげようね。それと、ニーナは何で頭を突き出してるのかな」
「ヨミチを撫でて、私を撫でないのは何で?」
「はいはい、ニーナも父さんに優しくね」
それを見ていたミリアも何故か頭を出してきた。その行動にシーリアは驚いた様子を浮かべていたが、口を出すことはなく娘から話すのを待つ姿勢の様だ。
「ミリア姉さんも何で頭をこちらに出してるのかな…」
「流れ的に私もと思って」
「フェリスはしてきてないけど」
「えっ?なんで私に振るのよ。しない方が良いのかと思ってたんだけど」
「……撫でようか?」
「ここじゃないとこで…」
「と言う事で、私を撫でて良いのよ」
「分かりましたよ。代わりに村長さんを元気づけてあげて」
「仕方ないわね~。出来る範囲でするわ」
村長はその言葉を聞き、顔を上げて少し期待した眼差しを向けてくるが、ミリアを見る限り簡単には元気づけるつもりが無さそうに見える。
「その前に、お母さん、先に良い報告をするわね」
「あら、何かしらね。楽しみだわ」
「なんと、ここにいるタイチ君と結婚します」
「あの、そう言う事になりました。結婚はまだ先ですが、よろしくお願いします」
少し気まずそうな笑顔で挨拶をするタイチ。
村長の様子がどうしてああなったのかシーリアはやっと
「あらあら、成人してからこの手の話を全く聞かないから、ヤキモキしてたのよ。良かったわ。でも、タイチくん、この子は随分と手が掛かるけれど、貰っても平気なの?」
「ちょっと、お母さん。娘の報告にケチを付けないで貰える」
「そうは言っても、あなたは手が掛かる子だったから、旦那様になる人には伝えておかないと」
「そんな事ないわよ。ね、タイチ君」
「えぇと、まぁ、はい…、大丈夫です」
「ほら、御覧なさい。もう既に何か迷惑を掛けたんでしょう」
「いえ、迷惑なんて受けてないです」
「ミリア、あなた何かしたわね」
「なんでよ。結婚してって気持ちを伝えただけよ」
「タイチくん、ごめんなさいね。嫌ならイヤって伝えて貰える?」
「いえ、結婚したいと言われる事はとても嬉しいので、そこはお願いしますって言うだけなんですけど、結婚の話題が出るまでが急だっただけで」
タイチの言葉に、ミリアがそっと視線を横に逸らしたのをシーリアは見逃さなかったようだった。
「ミリア、説明」
「そんなに
「それで?」
「タイチ君も加護の力で私の居場所を見つけて会いに来たから、もう結婚しかないって…」
「…はぁ、タイチくん。本当に良いの?後悔しない?」
「あ、はい。後悔とかは特に。どちらかと言うと、自分の加護に巻き込んだ可能性があるので、そっちは責任を取らないといけないかもしれないなと…」
「つまり加護同士が引き合ったと言う事ね。
「お母さん、そっちは大丈夫だから。さっき言質は取ったの」
「そこは抜け目が無いのね」
ミリアはこの結婚に報告に関して、母親を味方に出来た様だった。
それにより結婚に関してのパワーバランスが完全に女性陣側に傾いた事に、ここに居る面々は大よそ理解できていた。
「それでね、私の加護もそうなんだけど、タイチ君の加護もかなり問題がある事が分かったから、お父さんとお母さんにも協力してもらおうかと思ってるの」
ここに来てお父さんの助けが必要と受け取った村長は、先程と打って変わって笑顔を浮かべこちらを
ミリアは、大まかに聞いていたタイチの加護を説明していく。内容的には、特定の人物の位置を知る事が出来る事、農作物の収穫量が増やせる事、鉱物等を手に入れやすい事、持っている加護を他人に貸せるなど、危険度の高い物を除いて説明を行っていく。
「で、ここまで教えた加護を聞いて、お父さんとお母さんはどう思う?」
「農作物を増やせる加護は他にも居るのは知っているから良いとして、他人に貸し出せるのが問題じゃな」
「そうね、今聞いた加護を貸せる時点で、手に入る物が随分と変わるでしょうし」
「今の所、近くに居ないと発動しないので、制限がありますけども」
「それでもじゃな」
やはり貸し出せる事に関して、既に問題になる範囲の様子。
「タイチ君、他にも話していい加護ってある?」
「え~と、話したら問題になる加護なら」
「ミリア…、タイチの加護は一体なんじゃ?明らかにおかしいぞ」
「ふふふ、いいでしょう~。素敵な旦那さまよ~」
「ミリア、冗談は後にしなさい。それで、話せないとなると、どう協力すればいいのかしら?」
「タイチ君が村の外に連れて行かれない様に協力して欲しいのよ」
「今の聞いた加護でも十分連れて行かれそうじゃがな」
村長の言葉を信じるならば、タイチはこれ以上話さなくても十分外部に連れて行かれる事が簡単に予想できる様だった。
ただ、既にこれ以上の情報を知っている神父様が居るため、タイチはもう少し話して協力関係を作り上げた方が良いのではと思う部分もあった。
協力するともしないとも言及がない態度を取る村長に、ミリアは最終手段の言葉を口にする。
「タイチ君が外に連れて行かれた場合、私も付いて行くからね。それだけは理解してね、お父さん」
「なぁっ?!そ、それは、タイチとは別で考えるべきことじゃろう!」
「どうしてよ?未来の旦那様よ?付いて行くに決まってるじゃない」
「どうやってもあなたの負けだと思いますよ。ミリアは自分を人質に使ってるんですから」
「ぐぬぅ~」
「村の中で会えるのと、もしかしらた2度と会えなくなるのとだと、どっちがいい?」
「ミリア姉、それは選択肢が無いと思うよ」
「ん」
「え?もしもが起きた時、あなた達付いて行かないの」
「付いてく」「行きます」「いく」
その言葉にタイチは嬉しい反面、責任重大だなと思いながら顔を赤らめつつ頭を軽くかく。
取り合えず、今話した内容よりも危険度の高い内容を神父様が知っている事を報告するか悩んでいると、ミリアの方から説明を始めてくれていた。
勿論、神様関連に、聖女候補の話題は除いてになったが。
「タイチが上の者に気づかれない様に協力すれば良いんじゃな?ただし、無理になった時は村の外に連れて行かれない様に、一緒に考える方向で対処する事しか出来ないがな」
「えぇ、それでお願いね。お父さん」
「村長さん、よろしくお願いします」
「大きな問題は出来るだけ起こさないようにな」
「無理だと思うな~」
「…ニーナ?」
「ね、フェリスちゃん」
「まだそれ程知っている人が居ないから、隠す方向で行けるとは思うけど」
「お兄ちゃん、畑と切り開いた木々はどうするの?その内絶対バレるよ」
「……」
「タイチ君?」
この結果、タイチはニーナの密告により、村長一家に詳しく事情説明をする事になるのでした。
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